第5話 旅立ち、結び、魔の獣
アレグリア医学院 医療棟
「お世話になりました!」
看護師さんにお礼を言う。ギルドでの一件を話したら、今の健康状態も加味して退院の許可が下りた。ただ一つ条件が付いたけど…定期的に学院に戻ってきてほしいらしい。まあ、経過観察的な奴だろう、ボクは快く了承した。
「それでは、最後にこれを…クレア先生のいるところに導いてくれるわ。」
そう言って、手渡されたのは緑の宝石が付いたブレスレットだった。とりあえず左手につけておこう。看護師さんによると魔力を込めれば光が道を示してくれるらしい、あとでやってみよっと。
「ありがとう、じゃあいってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
看護師さんは手を振って笑顔で送り出してくれた。早速アマナへと行くため第1地区へつながる関門へと向かった。そういえば、あの猫はどこに行ってしまったんだろう…魔導兵装を取りに行ってからいなくなってたけど…
~数時間後~
帝都区 関門第1地区行き
関門には、門を守るため大王から選ばれた帝都騎士団の二人が配属されていると聞いたのだが…何か見覚えのある騎士が一人いた。
「やっとついた~って、グロウスさん!?」
「お~、やっと来たか。はっはっはっはっは、それじゃあさっそく行くか!」
「行くかって…一緒に行くんですか?」
「おうよ、今回のクエストは他の冒険者や魔法使いも参加してるんだ。もちろん俺もなぁ。だが、レイカさんの希望で新人魔導士のあんたの護衛も、俺のクエストに追加されたわけよ。」
「なるほど、じゃあ、その…よろしくお願いします。」
というわけで、グロウスさんとともに人魔混合都市アマナへ行くことになった。歩いて一時間ほどだというので歩いていくことにした。決して馬車に乗る運賃をケチったわけではない。道すがらグロウスさんにいろいろ聞いてみたいと思っただけだ。
「そういえばグロウスさんってどこかで魔法をならったんですか?」
「いや、俺は魔法を覚えるのはてんでだめでなぁ、用意された魔法陣を使っての魔法しかできんのよ。転移もその一つでな、この鎧の右手にレイカさんが刻んでくれたんだよ。そんで左手には、隠し箱っていう魔法陣が刻まれてんだ。それを使えば、ほら、この通り。」
左手の魔法陣が光り、その中から片手剣を取り出して見せる。
「え、普通にすごくないですかそれ。なんでもしまえたり…?」
「それが、そんなに便利じゃ無くてなぁ。しまった物の重さ分この鎧が重くなっちまうんだよなぁ。だから、何でもかんでもしまえるほど便利でもないぞ。まあ、武器を文字道理、隠し持てるのは利点かもなぁ。」
確かに、いきなり両手剣を持たれたときはびっくりして、考えがあまりまとまらなかったのも事実だ。
ボクにもそんな魔法を使える時が来るのだろうか。そんなことを話して、三十分ほど経った頃、道の端(道といえるほどの道はないのだが)で何かを作っている?様子の人だかりがあるのが見えた。
「何ですかね、あれ」
「あぁ、あれは多分キャラバンじゃないか?第1地区は機械製作に特化した地区だからな、機械仕掛けの武器だったり、魔術兵装を扱ってるとこもあるらしい。その辺を売ってるかもしれないがどうする、寄ってみるか?」
武器か…ボクには、盾しかないし何かいい武器を探すのも一つの手かもしれない。いくら盾の魔力があるとはいえ、過信するとよくないからな。よし決めた!
「行ってみましょう。何か良い物あるかもしれないですし。」
ボクは心なしかワクワクしていた。その一団に近づいてみると、そこは、市場のようにいろいろな人が屋台を出していた。話に合った通り、メカメカしい短剣や、メカメカしい鎧など、正直テンションの上がりそうなものがわんさかあった。でも、そんな中で、キャラバンから少し離れたところで一人で機械をいじっている女の子の姿が目に入った。
「いらっしゃい!お嬢さん、旅人かい?ここだけでしか買えない機械仕掛けの品ばかりだ。しっかり見ていってくれよ!」
「あの~少し聞きたいんですけどあの子は何を?」
「あ~、アイツには関わらないほうがいいぜ。魔術兵装を作りたいって言ってついてきた妖精なんだが、あいつが作るのはいつも欠陥品ばかりだ。やっぱ妖精って聞こえはいいが頭は悪いのかもなぁ。キャラバン全員関わるのを嫌がってるんだぜ、凡才がうつっちまう~ってな感じでな。」
なんてひどいんだと感じたが、そう思う方がおかしいのだろうか。いや、そんなはずない。ボクはボクの思うままに行動するだけだ。ボクはその妖精のもとへ向かった。
「お、いらっしゃ~い。どんなものをお望みかな~?」
「いや、その~。」
「ん?あんたもしかして、魔導士!?なら、これ使ってみてくれない?」
そう言われて、ペンダントを渡される。随分と大きい機械が仕掛けられているようだが…でも、何か少し足りないものがある気がした。
「それ、あたしが作ったやつでさ、魔術兵装なんだけどまだ誰も使えてなくて、欠陥品だ~って騒いで帰っちゃうんだけど…そんなこと絶対にない!!」
「一応聞くけど、どうしてそう思うの?」
「だって、あたし天才だからね。」
全く根拠になっていない気がするのは置いておこう。とりあえず、この子に従って魔術兵装とやらを使ってみよう。ボクがうまく使えればきっとほかのキャラバンのやつらを見返せるだろうから。
「これはどうやって使えばいいの?」
「あぁ、それはね…」
「ふむふむ、なるほど…よし、分かった!」
大体の構造は理解した。このペンダントに魔力を込めると、魔術兵装「シュトルム」が起動し、ペンダントが変化、身に纏えるようになるらしい。
「魔術兵装励起…シュトルム…起動!」
青い光に包まれ、「シュトルム」は起動する。身に纏ったそれは、前腕と足を覆う装甲となった。
「おお~!起動できたーー!!そのまま装甲に魔力を通してみて!飛行と加速の魔術式を仕込んであるから!」
「ふんっ!!」
彼女に言われるまま魔力を込める。すると、足の装甲に光が走り、空へと飛びあがった。なんというじゃじゃ馬だろうか…制御するのが難しいができないほどじゃないのがまた面白い!ライアさんのおかげか、空を飛ぶことには慣れてる…よし、これなら…
「すげぇ!さすが魔導士なだけはある!そんで、あたしの魔術兵装、欠陥品なんかじゃなかった…やったー-!!」
妖精の女の子は泣きながら喜び、ラーナはシュトルムを使い、空を自在に飛んでいた。
「よ~いしょっと」
一通りの動きを確認したボクは、妖精の元へと戻る。彼女が作ったものが欠陥品ではないことが、これで証明できただろう。後は、あの連中に言い返しに行くだけだ。(これは、彼女に返そう…便利だけど、彼女の発明なのだから)
「おー!さっきのは、ラーナだったのか、派手に空を飛んでたな、その魔術兵装の力か?」
「グロウスさん!そうなんですよ、この子が作った「シュトルム」っていうんですけど、すごいですよね~欲しいくらいなんですけど…」
「タダでいいよ!」
「え?」
あまりの即答に驚いてしまう。しかも、タダ?無料ってこと?そこまでのことをしたつもりはないんだが…
「その代わり、あたしもあんた達について行ってもいいか?どうせここにいてもつまらないし…なによりあんたが気に入った!名前聞いてもいい?」
「うん!ボクはラーナよろしく!」
「あたしは、ハベルっていうんだ。よろしく!」
「あ~、盛り上がってるとこ悪いんだが、ハベル…君は、証を持っているかい?これから行くアマナは、どの証でもいいがギルドに認められたもの以外は、今は入れなくなっているはずだ。」
「それなら大丈夫。あたし、鍛冶師の証もってるから!」
ハベルは得意げにそう言って、金槌を手に取り見せてきた。それには、ボクの魔導士の証と似たような魔石が埋め込まれているようだった。
「じゃじゃーん!すごいだろ~。これ実はな~…」
そうハベルが言いかけたところで、突然キャラバンに大声をあげて男が入ってくる。
「魔獣だ!魔獣が出たぞ!!」
その知らせを聞き、キャラバン中の人が焦り始める。荷物を包む人や荷物なんておいて逃げる人で、軽いパニックが起きていた。
「魔獣か…この辺に目撃はあまりされていないはずだが…。まあ、いい。ラーナ、君は待っていろ、ギルドとしては、魔獣を放っておくわけにはいかないからね。」
いつになく、真剣な表情でグロウスさんが言った。でも、ボクだって仮にもギルドの一員だ。できることはなんだってやりたい…
「あの!グロウスさん!ボクも魔獣を撃退するの、手伝いに行ってもいいですか?時間稼ぎぐらいはできると思います!」
「覚悟はできてるのか?下手をすれば死ぬことにもつながるんだぞ?」
「もちろん大丈夫です!ボクが守りたいのは、みんなの命ですから!そうだ、ハベルこれ…」
「シュトルム」を返してから行こうとしたとき、それを遮るようにハベルはボクの手を握る。そして、
「いってらっしゃい、ラーナ!シュトルムの力見せつけてきてくれよ!」
なんて力強い言葉だろう…彼女の眼はとても輝いて見えた。ならその期待に応えなくちゃね!
「うん!いってきます!」
「シュトルム」に魔力を巡らせ、再び空へ飛びあがる。魔獣がいるのは、ボクたちが向かうべき場所であるアマナの方角だった。急いで向かわなければ…少しでも多くの人を守るために…ブレイのような人をこれ以上出さないために…
「ふっ!」
「シュトルム」に搭載されている加速の魔術式を最大限に使い、魔獣の前へと躍り出た。黒い体毛に人一人は軽々呑み込めそうな口、鋭い爪をもったその魔獣は…
「魔獣ガルムか…普通、森林にいるはずなんじゃ…まあいい、手慣らしにはちょうどいい相手だ。前の魔導陣の応用、あれを生かして…」
「魔導陣形成…身体保護、付与、聖盾!!」
魔導陣を身に纏うこと…それは高度な技術を要するが、素人でもうまくやれる方法が一つ思いついた。グロウスさんの鎧に刻まれた魔法陣…あれが可能ならきっと…そう思い、「シュトルム」の回りに纏わせるように魔導陣を作りなおす。青い魔導陣が「シュトルム」の装甲を覆いつくし、強固な魔力の鎧となった。よし、これなら…
「どりゃぁ!」
「シュトルム」の性能を生かし、ガルムに一気に近づくが、一向に近づいている感じがしない。なんだろう、これ…見えない壁でもあるような不思議な感覚だ…そうこうしているうちに、ガルムのほうが動き出す。体全体に力を込めている…?いや違う。魔力が巡っているんだ。ライアさんから刻印を受けた時に見えた魔力の光の流れ、それがガルムの全身を覆っていく。これはまずい気がする…何か大技でも来るかのようで…
「ガルゥァァアアァァア!!!!」
ガルムの咆哮とともに空に黒い雲が広がり、魔法陣が映し出される。あれは、少なくとも雷の魔術式が含まれている魔法陣のようだ。まずい。方向的にボクに一直線で落ちてくるだろう。避ける暇もなさそうだ…そう判断したとき、体は無意識のうちに魔導陣を作り出す体勢になった。真上に向かって盾を突き出し、そこに左の拳を打ちつける。
「守護の聖盾!」
盾を中心に、青い魔導陣が展開される。直後、紫の雷が降り注いだ。「シュトルム」があるおかげで受け止めるのにも多少の余裕があったとはいえ、やはり威力を殺し切るのは難しいようだ。しかしどうしよう…このままでは、近づくこともできず、あの雷魔法を撃たれ続けることになるだろう。こうなったら…
「「ラーナっ!」」
その時、背後からハベルとグロウスさんの声がする。二人とも何でここに…?でもこの状況…少しまずいかも…。次の雷はもうすぐ降ってくる。それを防ぐには、ボクが守るしかっっ!
「バチっ!バチバチっ!」
「シュトルム」に魔力を込め一気に加速する。今のありったけで、すぐにでも二人のもとへたどり着けるように…しかし、その願いは潰えることとなる。不可解な音とともに「シュトルム」の装甲が解除され、空を飛んでいた体は地面にたたきつけられる。(えっ?、どうして…ってか痛ッ!)その衝撃で全身が痺れ、動くのもままならなくなる。(このままじゃ、また…)
誰も守れない…それどころか大事な人すら救えない。だが、現実は非情だった。既に魔力を込め終えた雷の魔法陣が視界に入る。
「ガルゥァァアッッ!!!!」
「ラーナぁっっ!」
ガルムの咆哮とハベルの叫び声が聞こえる中で、ボクは避けられない絶望を目の当たりにしていた…