第4話 別れ、ひらめき、繋がる道
魔法学園グリモワール 校舎 跡地
あの襲撃以来、ここに来るのは初めてだった。ボクの知る校舎は跡形もなく崩れていて、ほかの校舎もかなりボロボロだったり、崩れかけていたり、といった感じだ。そんな中ライアさんは、何かをたどって、瓦礫の中を探しているようだった。
「ラーナちゃんに似た魔力の反応は…っと、この辺りだね~」
一瞬、ライアさんの腕輪が光ったかと思った次の瞬間…
「暴風!」
瓦礫が風によって持ち上げられる。その中から、丸いものが、ライアさんのほうへ飛んでいく。
「おぉ、あったあった。これで間違いないね~。ふん!」
ライアさんは丸いものを手に取ると宙に浮かせていた瓦礫を大体元の場所に戻し、こちらに帰ってくる。
「よっと…」
着地するとライアさんは拾ってきた丸いものをこちらに見せながら、
「見て、ラーナちゃん。これが貴方の魔導兵装だよ。」
「魔導兵装?」
「そう、私の腕輪と似たようなもので、魔導陣が刻まれた魔術兵装だと思ってくれればいいかな。ラーナちゃんのこれは…盾かな?着けてみて!」
「は、はい。」
言われるまま盾を右腕に装着する(内側が腕輪のようになっていた)。かなりしっくりくるというか、なんだろう…力の一部を取り戻したー!みたいな不思議な感じがした。
「魔導兵装はね、初めて魔導陣を起動できたときに、その魔導陣とその人の思想を元に自動的に作られるんだよ。さぁ、私に見せて!今ならその盾を触媒に魔導が使えるはずだよ!」
「分かりました…!」
心を落ち着かせ、魔法を使う時と同じように手ではなく盾のほうに、意識を集中させる。右腕の盾を前に構え、腕輪のところを左手で掴む。
「魔導陣展開…守護の聖盾!」
盾を中心に円形の魔導陣が展開される。魔導陣は、青く輝き今までの魔法を凌駕するほどの凄みがあった。(まあ、守護の魔導である以上は見た目が地味なのはしょうがないとして)それでも、ボクの最初の魔導なんだ。きっと上出来だろう。とりあえず、魔力を消費しすぎた一件があるので手早く魔導陣を閉じた。
「ふぅ…どうでしたか?ライアさん!」
「すごいね…ほぼ初めて使ったんでしょ?」
若干ながらライアさんは困惑しているようだった。
「それがあれば、きっと大丈夫だね…じゃあ、ラーナちゃん今から大事な話をするから、よく聞いて。」
「は、はい。」
「コホン、我が〈嵐の帝王〉の名のもとに、汝ラーナを、魔導士として認める。魔導陣…刻印…」
ライアさんの手から魔導陣が出てきたと思ったら、それはボクの中に取り込まれていった。その瞬間、目に映る世界が切り替わるような感じがした。光の流れが見えるような、何か変な感覚だ。
「何ですか…?これ?」
「ふっふっふ、それは、魔導の一つの〈刻印〉っていうものだよ。私が見える魔力の流れをラーナちゃんに共有してるんだ~。それと大事なことを一つ、コホン、さっきの宣言どうり貴方を魔導士として認めました。まず教会で魔導士の証を作ってもらってそこから旅をするといいわ。邪神教団を追ってもいいし、仲間を作ってもいいかもね。世界は広いんだから、焦らないことが大事なのよ。…っとこんな感じかな!」
「ライアさん…たまに人変わってないですか…?あ、あと、邪神教団って…」
「まあまあ、落ち着いてラーナちゃん…あ、そろそろ時間かぁ、とりあえず医学院にもどろっか。」
「ごめんね♪」有無を言わさず、ライアさんはボクを抱え上げ、空を飛んだ。「う、ぐっ…」突然の衝撃に驚いたが、何とか意識は保っていた。「君も頑張るんだよ」ライアさんが、そうつぶやくのを聞いてボクの意識は途切れてしまった。
~数分後~
アレグリア医学院 医療棟前
「お~い、起きて~ラーナちゃん。着いたよ~?」
「うぅ~…うん?」
「よし、問題なさそうだね!じゃあ、私〈帝王〉のお仕事あるから!教会はこの近くにあるはずだからそこに行くんだよ!それじゃあねっ」
そういうと、ライアさんは飛び上がり王都の方へ行ってしまった。ほんとにあの人は突然現れて突然去るという嵐のような人だ。とりあえず、ライアさんに言われた通り教会に行ってみよう…でも、よく考えるとボクの質問、答えてもらって無くない?まあ、いつも通りといえばいつも通りなんだけど…そんなことを考えながら、教会へと歩き出すが…
「あれ、そういえば…教会ってどこ?」
~数十分後~
帝都ギルド協会 本部
看護師さんに何とか場所を聞き、辿りついたのだが…ボクは少し勘違いしていたようだ。「教会」と聞いててっきり神父様とかがいるようなあれかと思ったら、魔法使いや旅人、その他にも多種多様な人で賑わっていた。入ってすぐの目立つ場所に受付があったのでそこへ向かう。
「ようこそ!帝都ギルドへ!何かあれば何なりとお申し付けください。」
「あの、魔導士の証を作ってもらってと言われてきたんですけど…」
「え?魔法使いの証ではなくてですか?」
一瞬、周りがざわつくが、そんなの気にしてもどうしようもないと思い、話を続けた。
「はい、ライアさんに言われたので。」
「ライアって…〈嵐の帝王〉の!?それは…分かりました。とりあえず奥の方へ来てください。」
受付の人に招かれるままに、奥の部屋に通される。
「これからギルドマスターに会ってもらうけど緊張しないでいいからね。」
受付のお姉さんに言われ部屋に入る。そこには一人の男が座っていた。その男は、一目見てわかるほど、戦いの経験を積んでいるようだった。
「やあ、君か、魔導士の証を貰いに来たというのは…」
「は、はい、そうです。」
「君に問おう。どれほどの経験を積んだのか。」
「え?それって…どういう?」
「話すより、私に見せてみろ。」
男の手に魔法陣が浮かぶ。それをこちらに向け…
「転移」
突然、景色が変化する。先ほどまで、一つの部屋だったのに、今は完全に屋外だ。ナニコレ、そんな便利な魔法ボク知らないんだけど…
「さあ、来い…」
「と言われても…ボク、守護の魔法しか…」
「ならばこちらから行こう。はぁっ!」
どこから出したのか。男は両手剣を構え、こちらに迫りくる。(やばい、これ、受けきれるかな?でもやるしかないよね。)男が両手剣を振りかぶったその瞬間、盾を構え、腕輪に拳を突き立てる。
「魔導陣展開!守護の聖盾!!」
「ふんっ!」
男の振り下ろした剣を受け止める。守護の魔導とはいえ、ある程度の衝撃は覚悟していた、だけど…(あいつの槍に比べれば、全然受けられるし、なんなら!)思い付きを試すことにした。今、受けている剣を弾き、男の懐に潜り込む。
「これでどうだぁ!」
魔導陣の形を即興で作り直す。円形の基本の形から、腕に纏う装甲のように。
「アイギス・アッパー!!」
「ぐっ!」
男の顔面にクリーンヒットし、後ろに飛んでいく。我ながら、絶対の守護を体現する魔力でぶん殴るというのは良く思いついたと思う。今後も使っていくことにしよう。というか、あの人大丈夫だったかな…結構思いっきり殴っちゃったんだけど…
「ふっふっふ…はっはっはっは!」
男は多少のダメージはあるものの、何事もなかったように立ち上がった。
「いやはや、魔法使いに殴られるとは、恐れ入った。場を戻そう。転移…」
屋外から部屋へ戻ると、テーブルの上に淹れたばかりの紅茶があった。そして、ドアのそばには受付にいた女性が立っていた。
「どうでしたか?その子は、また魔法使いにも満たない子でしたか?」
「いや、魔導士になれる強さを持った子ですよ、ギルドマスター」
「えっと…今戦った方がギルドマスターじゃないんですか?」
「ごめんなさいね、嘘をついて…私がギルドマスター兼受付嬢のレイカよ。でも、最近多いのよ、自分の実力に見合わない証を欲しがる子がね…だからこそ、このグロウスくんに試験官をお願いしてるの。証っていうのはそれだけ重要なものなのよね。」
「あの~…証があると何ができるんですか?そのあたり全然知らなくて…」
「そうね、証にもよるけど魔導士の証でできるのは無条件で地区の間を移動できるようになるのが一番大きい恩恵かな。基本的には、地区の間は関門通らなきゃいけないからね。後はそうね、クエストも無条件で受けられることかしらね。みんなの悩みがクエストとして舞い込んでくるから、それを解決して生活している人も少なくないわ。」
なるほど、地区の移動が自由になればこの王都から、すべての地区に行くことができて結果的に呪いをかけたやつも追えるってことか。ライアさん、さすがだなぁ…
「よし!それじゃあ、君には最終試験を受けてもらう。なぁに、簡単なことだ、まずは、君の身体魔法陣を情報としてこちらに提供してくれ。」
「身体魔法陣…ってどうすれば?」
「私と握手してくれればいいわ」
「わ、分かりました。」
レイカさんの手を握る、すると、胸の奥から何かが引き出されるような感覚のあとに、握手している手を中心に魔法陣が展開された。
「これは…」
「貴方の体に生まれつき刻まれている魔法陣よ。でも驚いたわ、貴方のは魔導陣が刻まれているわね。まあ、とりあえずこれでOKよ。それじゃあこれ、はいどうぞ。」
そう言われ、手渡されたものは…指輪?
「それがあなたが魔導士である証よ。肌身離さず持っていてね、その指輪にあなたの魔導陣のコピーを刻んだから。とはいっても本当に形だけなんだけどね。まあ、本人確認に使えるから。そして、次にうちで用意したクエストを受けてもらうわ。それが終われば魔導士として自由に行動してもらって構わないわ。」
「そのクエストって?」
「それは、俺から説明しよう。君には今から人魔混合都市アマナという場所に行ってもらう。そこで三日間、自警団として働いてもらうっていうものだ。よろしく頼むぞ!新しい魔導士よ!」
「は、はい!」
無事、魔導士の証を手に入れたボクはアマナへと向かうため、一度医学院に戻ることにした。でも、今のボクは知らなかった。これから始まる旅の過酷さを…