第2話 守る、盾、魔力
魔法学園グリモワール 教室前廊下
鐘の音を聞いた二人は急いで、教室へと駆けていく。とは言ってもブレイの姿はもう見えないのだが… 教室へと向かう途中、「シャラランっ…」と鈴のような音を耳にする。急ぐ足を止め振り返り、音の正体を突き止めようとするが特に何もない廊下が広がるだけだった。(気のせいか…?)少し考え込んでいると教室の方向から爆発音のようなものが聞こえた。何か異変が起きたのか分からないが、とにかく急いで教室へ向かうことにした。
ラーナは、急いで教室に駆け込むと、目の前に広がる光景に目を疑うことになった。
「え…?」
そこには、きっちり並んでいたはずの机や椅子が乱れ、さらには壁に大きな穴が開いていた。そしてなによりも異常だと感じたのは、誰一人として教室にはいなかったのだ。何かに襲われ倒れているのでもなく、何かを撃退し生き残っているわけでもない。本当に誰もいないのだ。呆然と立ち尽くす中、どこからか現れた猫?のようなものが近寄ってくる。
「にゃ~ん」
綺麗な青い瞳でこちらを見てくる。敵意は感じられないのでこちらからも近づいてみることにした。
「あなた、何か知ってたりする…?なんて、猫に話してもしょうがないか…」
「にゃん」
と…こんなことしてる場合じゃなかった。とにかく落ち着いて状況を整理しよう。そうやって思考を巡らせていたその時、聞き覚えのある爆発音が聞こえた。方向からして向かい側の校舎だろうか?とにかく急いで廊下の窓から様子を見ると…
「あ、あぁぁ…」
そこには、黒い槍を持った騎士のような恰好をしたものが校舎を次々と破壊していた。槍から魔法陣を使うことなく黒い稲妻が放たれる。校舎に命中すると爆発とともに崩れ落ちる。校舎の奥からは慌てて逃げる生徒と誘導する教師も確認できたが、おかしい、同じクラスの生徒や、ブレイの姿も見えないのだ。(とにかく、ボクも逃げなきゃ)そう思ったとき、黒騎士の槍の矛先がこちらに向いた。まさか…
「まだ生き残りがいたとはな…」
「魔力装填…破滅の黒槍…」
槍から再び黒い稲妻が放たれる。咄嗟にボクは不完全ながら守りの盾を展開するがあっさりと破られてしまう。でも多少の衝撃は緩和できたようだ。大きく後ろに吹き飛ばされ、学園を囲う塀にぶつかる。痛い。体中がさっきの衝撃によって痛む。でも、その痛みのおかげか朦朧とした意識が妙にはっきりしていた。(なんだろう…これ…)暗闇の中に一つ、星のような光が見える。(おかしいな、ボク…今は昼間で外に倒れているっていうのに暗闇が見えるなんて…)でも、見えるのだから仕方ない。その光に手を伸ばしてみる。すると、頭の中に誰とも一致しない、男のような女のような声が響く。
「汝、力を欲するか?」
「え?」
「だから、力が欲しいかって聞いてるんだけド。」
「えぇ…」
急に口調が変わった…
「とりあえず、どっちなノ?このままだと君、間違いなく死ぬけド?」
「ほ、欲しいです…」
「よろしい…じゃあ、目が覚めたらこれだけ覚えといて君の持つ魔力の名は、盾の魔力だ。絶対なる守護を体現するその魔力上手に使うんだヨ♪」
そう言われると、急に現実に引き戻されたように、目の前にさっきの惨劇の場面が広がる。(痛みが、ない…?)少し自分の体を確認してみると、なぜだか傷がふさがっているようだ。また、爆発音が聞こえる。どうやら破壊活動は続いているようだ。そうだ、さっきもらった盾の魔力を使えば…ってどうやって使うんだろう…?でも、きっとボクにしかできないことだ…みんなを守らなきゃ…急いで校舎だった瓦礫を乗り越え、黒騎士の前へと躍り出た。
「貴様は、さっきの生き残りか…よく生きていたな…だが、守護魔法を扱うものはもう足りている。貴様は、安心して死ぬといい。」
「そんなこと言われて簡単に、はい、そうですかって、死ねるわけないでしょ!」
「そうか、だが、これから死ぬ者の言葉に意味なんて感じないのでな。周りをよく見てみろ、倒れているのは、ほとんどが教師か歯向かった生徒だ…そんな中で貴様に何ができる?」
「ボクには、おまえを倒すような魔法もなければ魔力もない…だけど、みんなを守ることぐらいならできるんだ…」
「魔法陣展開…「盾の魔力」接続…ぐっ…」
両手から魔法陣を形成していく。ついさっき貰った盾の魔力を無理やり繋げてみるが…これは…魔力の出力が想像をはるかに超えていた。魔法陣に亀裂が走る。そして、無残にも魔法陣は砕け散ってしまった。
「その程度の守護魔法も使えないとは、とんだ落ちこぼれだな。そのまま死ぬといい。」
「魔力装填…破滅の黒槍!!」
「魔導陣展開…守護の聖盾!!」
魔法陣が砕けるというのは、初めての経験だった。でも、同時にひらめいたこともあった。ボクには知識だけは入れていたある秘策があった。それが魔導陣だ。あまりに膨大な魔力の出力が必要なため、使うことが困難とされる魔導だが、一度魔導陣を起動できれば、起動し続ける事ができるというのだ。とどのつまり、それが攻撃なら攻撃し続けられるし、守護なら守り続けられるのだ。さらには、魔導のオン、オフも自由に切り替えられると言う。なんだそれ、使えたら負けなしじゃないかと。そう思ったあなた、半分正解です。だって今のボクは…
「ううぅぅ…ぐっ!」
敵の攻撃を受け止めてはいるけど、かなりギリギリなのです。いや、まあ過信したボクも悪いけどね!でも一つ嬉しいことがあるとすれば、これで他の人の逃げる時間が稼げていることかな。一撃受け止めたんだ。意識は途切れかけ、魔導陣も閉じてしまったけど、かろうじてボクは黒騎士の前に立ちふさがっていた。
「こいつ、なかなかやるな…」
我が黒槍ロンギヌスには、魔法殺しの魔術式が使われている。「解除」の術式。黒魔術に分類される禁術の一つ。現に学園という結界魔術さえも、ものともせずに破壊できている。だというのに、この女は黒槍の一撃を受け止めたのだ。無傷で。
「パーシヴ?そろそろ撤退してもいいよ~?」
仲間とは呼びたくないものから連絡が入る。撤退しろだと…まあいい。面白い種が目の前にあるのだから。
「はぁ…貴様、名は何という?」
「ボクは…ラーナだ…」
「そうか、その名覚えておこう。我が名は黒槍のパーシヴ!また、相対すること期待しているぞ!魔導士よ!」
そういうと黒槍のパーシヴは、黒い門を展開し、その中へ消えていった。
「うっ…ぐぁっ……」
それとほぼ同時にボクの意識も途切れてしまった。