第1話 魔導士、お話、始まり
ここは帝国グリモア。魔法と魔術兵装によって、100年前にあった大戦を制し、領土を広げていった。大王ガイラスは、元あった国を再編成し5つの地区へと分け、それぞれを統治するため各地区に「帝王」の称号を持つものを配置した。一国が制したとはいえ、内乱は後を絶たず、帝国はその制圧に追われていた。そんな中、魔法使いの中に特異な能力に目覚めるものが増えていった。その魔法使い達は、魔導士と呼ばれるようになり、帝国の一大戦力として扱われることになった。
帝国グリモア 第1地区外境 人魔混合都市アマナにて
少しの笑みをこぼしながら、漆黒のローブに身を包んだ女は言った。
「あなた方が、私に勝てるとでも?」
「もちろん!いくよ!ハベル!」
「分かったぜ、ラーナ!」
一人の魔導士の少女と一人の鍛冶好きの妖精が相棒となった瞬間である。
~数日前~
魔法学園グリモワール 守護魔法学科教室内
(ワイワイ…がやがや…)
ざわつく教室の中、窓辺の机に座る少女が一人。銀色の髪に真紅の瞳、きれいに整った顔立ちをしている。
「おーい、ラーナ!」
教室の外から声が響く。考え事をしていて、うわの空だった少女は、その声に反応し少年のほうを振り返った。
「なに、ブレイ…また特訓?」
「そうだ!だから着いてきてくれ!」
「はいはい…」
彼の名は、ブレイ。この学園グリモアの攻撃魔法学科に所属するボクの幼馴染だ。そして、「ボク」はラーナ。ブレイの魔法の特訓によく付き合わされているんだけど、どうにも彼は魔法を使うのが下手みたいだ。魔力を込めるのは雑だし、魔法陣もなんだか粗いし… そんな彼でも良いところは一つくらいはある。まぁ、本当に一つくらいなんだけど…
魔法学園グリモワール 屋外訓練場
「いっくぜ~!!!」
ブレイは右手をつきだし、魔力を込め始める。徐々に赤い魔法陣が形成されていくが、それに伴い多少のノイズも発生した。「ぐ、ううぅぅ」といった感じで苦戦しているようだったので、(あ~あ、またか…)とそう思いつつ、彼の右手にボクの右手を添え、魔法陣を安定させる。
「ほら、今だよ。」
「ああ!分かった!」
「火炎球!!!」
魔法陣が光り、火球が撃ち出され的に命中する。火力は十二分に出るが、その前の魔法陣が制御できないのでは、魔法を使う上ではお話にならないともいえる。
「よぉぉーし!今回は当てることができたな!」
「よし、じゃないでしょ。魔法陣が安定してないじゃん。そんなんじゃ進級できなくなるよ?」
この魔法学園グリモワールでは、魔法をどれだけの精度で使えるか、どれほどの威力を出せるのか、そしてどれだけ魔法を理解しているのかの3つの点を評価され、進級の有無を決められる。魔法陣が安定しないということは、精度の評価はないに等しく、さらに威力の面でも魔法が使えないため評価されないことになる。つまり今のブレイでは、ものすごくまずいってわけだ。
「じゃあ次はラーナの魔法を見せてくれ!何かつかめるかもしれないしな!」
「それ毎回言ってない?まぁボクも練習になるからいいけど…だいぶ地味だよ?」
「それでも頼む!」
「分かったよ…」
そう言って、ボクは両手を前に構えた。両手に魔力の巡りを感じながら、魔法陣を組み立てることに集中する。簡単に言えばパズルのようなものだ。使いたい魔法によって魔術式を変え魔法陣に組み込んでいく。ボクの場合は盾の魔術式を利用する。盾という存在や概念を魔力によって再現するのだ。
「魔法陣、形成…魔術式、安定…」
両手から青い円形の魔法陣を出現させ、身を覆うほどの大きさに調整する。そして…
「守りの盾…」
魔力によって仮の形を与え、攻撃とは真逆の守護の魔法を完成させた。ブレイの参考になるかはわからないがこんなものだろう。
「おー!やっぱすごいなラーナ!俺にもこんな感じでできればなぁ…」
魔法陣を解除し、ブレイに話しかける。
「ふぅ…ブレイはまず、魔術式をよく知るべきだと思うな。後は…うーん…気持ちを落ち着かせることかな?ボクだって焦って魔法陣を作ればノイズが入ると思うし。」
「いやぁ、頑張って言われたことをやってるつもりなんだけどなぁ。」
(ゴ~ン…ゴ~ン…)
二人で話している中、休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴った。
「あれ、もうそんな時間か!なんかいつもより早くないか?」
「でも、鳴った以上はとりあえず戻るしかないんじゃない?」
「まあ、そうか…じゃあ、競争な!どっちが早く着けるかっ!」
そう言うとブレイは走り出して行ってしまった。「ブレイらしいな…」そう思いつつ、ボクも教室に向けて走り出す。その時は、思いもしなかった。まさか傷ついたブレイと再会することになるなんて…