プロローグ
レイジは吐いた。
酔いが、衝撃が、悪夢が脳天を突き刺し、そのまま吐き気を催して体外へ流されて行く感覚を味わいながら。
ガス漏れと腐敗臭に嘔吐物の臭いが混ざる。あたりはすっかり夕方だと言うのに、ここには夕日さえ顔を出さない。薄暗くて気味が悪いこの場所はまるでレイジを逃がさんと言わんばかりに、影を伸ばす。
自然と汚物にまみれた口端がつり上がる。
「…ハ、ハハ」
乾いた声が空間に響き、木霊する。なんだか、夢を見てる気分で、ただ自分の運の無さとこの世の不平等、不条理にふつふつと湧き上がる笑いが溢れてしまう。どうして自分がこんな目にあってしまうのだろう。足を震わせ、涙を零しながら目の前の「ソレ」をしっかりと見つめる。
赤黒く染まった目玉が飛び出し、顔の原型すら分からないバケモノ。身体も脳も溶けてしまっていて、きっと言葉も届かないだろうが、瞳孔が開いた黒い瞳だけは前にいる人間をしっかり捕えて離さない。
バケモノは、生ゴミのような臭いのする息を荒らげてゆっくりとこちらにドロドロに溶けた五指を伸ばす。恐らく、アレに捕まれば───、
「───最高じゃねえか、クソったれ」
想像するだけで肌が粟立つ。今はどうかこのバケモノから逃げきれますように。
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