第6話
本日7話目です。たぶん。
途中で間違えたかもしれない…。
アキラの目の前に広がる広大な土地。帝都の一区画を全て塀で囲まれたこの場所は、帝立の各学校が全て集まった場所である。
その中でも一際大きく、皇城にも負けないほどの荘厳な雰囲気を纏う建物があった。そう、アキラがこれから受験するフレアヴァンス帝国立高等魔法学校である。
辺りは受験生で溢れており、アキラが受験するとあって今年の受験生は例年の倍以上、一日では収まり切らないため、3日間に分けて試験が行われる。
辺りには大勢の受験生がいるが、アキラの存在に気付いた者はだれ一人としていなかった。それもそのはず、アキラは普段の軍人として振る舞う時とは違っていち受験生として変装をしていた。軍の制服も着ていなければ髪型も違う。そして極めつけは伊達メガネである。加えて受験生たちは緊張や試験前の最後の確認等に追われており、誰も他の受験生を気にする余裕などないのである。
「えーと、受け付けはどこだ…?」
受験案内に同封されていた学校の地図を片手に受付場所を探すが、敷地が広いうえに周囲に受験生が多すぎて全く分からない。
仕方なく、少し飛翔して上から確認しようと数歩後ろに下がった時にドンッとぶつかる音と一緒にキャッという女性の悲鳴も聞こえた。
どう考えてもアキラの不注意であり、謝罪しようと振り向くと、そこには落ちた書類を拾う一人の少女がいた。
「すみません。俺が不注意だったばかりにぶつかってしまって。拾うの手伝いますね」
そう言ってアキラは書類を一緒に拾い、彼女に渡す。
渡したときに見た彼女の姿に、アキラは思わず息を呑んだ。あまりにも美少女すぎたためである。
背中まで伸ばしたきれいなブロンドヘアに、澄んだライトブルーの瞳。顔はもちろん良いが、彼女スタイルも良かった。10人とすれ違えば10人が振り向くような、それほどまでに彼女は美少女だった。
「ありがとうございます」
彼女のその言葉で我に返ったアキラは、すぐに取り繕い返答した。
「いえ、ぶつかってしまったのは俺です。本当に申し訳ない。」
「お気になさらないでください。謝罪も頂きましたし、拾うのも手伝っていただけましたので」
誰が見てもアキラに非があったのだが、彼女は怒るでもなく、書類を拾ってくれたことに感謝をした。
少し会話ができたことで、アキラは彼女に受付の場所を聞くことにした。
「実は受付の場所がわからなくて、もしよろしければ受付の場所を教えていただけないでしょうか?」
「受付ですか?それなら、奥に時計塔が見えますよね。あれを目印にしてまっすぐ進んでください。途中で右手側に受付の看板があるはずです」
「わかりました。ありがとうございます」
教えてもらったことにお礼を言うが、まだ名乗ってもいないことに気が付いたアキラは改めて自己紹介をすることにした。
「あ、そういえば名乗っていませんでしたね。俺はアキラ・トウジョウと言います。よろしくお願いします」
アキラがそう名乗った瞬間、周囲にいた受験生がバッとアキラの方へ振り向いたが、そこに立っているアキラは変装している。同姓同名の別人だと思ったのか、周囲の受験生はすぐに興味をなくしていく。
そんな中彼女は驚いたような表情を浮かべていた。
「あなたがアキr…トウジョウさんですね。私はリリーと申します。以降お見知りおきを」
そう言って優雅に一礼した彼女はとても一般市民とは思えず、貴族か相当な良家の出であることが伺える。
そう考えたアキラは少し言葉遣いを丁寧なものへと変えた。
「教えていただきありがとうございます。あなたの受験が成功することをお祈りいたします」
「はい。ありがとうございます。お互い頑張りましょうね」
笑顔でそう言った彼女に、周囲の受験生の数名が見惚れていた。アキラも例外ではなかったが、すぐに取り繕った。周囲の受験生よりは幾分かマシだろう。
「それでは失礼いたします」
「次は入学式でお会いしましょうね」
リリーと別れたアキラは、教えてもらった通りに移動し、受付にたどり着くことができた。
アキラから受験票を受け取った受付の教師は驚いたように顔をあげ、アキラの顔をじっと見る。暫く受験票とアキラの顔とを行ったり来たりさせた後、アキラに対して恐る恐るといった感じで問うてきた。
「失礼ですが、トウジョウ少佐ですか…?」
「はい。アキラ・トウジョウです。現在は軍役についておりませんので少佐ではありませんが」
肩をすくめながらそう言ったアキラに、教師は失礼しました!といい、アキラを個室に案内した。
アキラが部屋を怪訝な目で見ていると、案内をした教師が立場が上の人間を連れてくるので少し待っていてほしいと言い部屋を出て行った。
暫く指先に火をともす魔法陣を全ての指で発動させるという人間離れした遊びをして待っていると、軽いノックの音とともに、入室を求める声が聞こえてきた。
「どうぞ」
アキラがそう言うのと間を置かず、扉が開いて一人の教師らしき男が入ってきた。
眼鏡をかけ、全体的に細い体躯の男は、いかにもインドア派な魔法師と言った感じだ。
「初めまして。試験官のモーリスと申します。お会いできて光栄です少佐」
「初めまして。アキラ・トウジョウです。私はただの受験生ですから、敬語は不要ですモーリス教諭。それで、試験官のあなたがどうしてここへ?」
アキラはなぜ試験官のモーリスがここに来たのかが分からなかった。
個室に通されたときは、自分の立場上誰か挨拶にでも来るのかと思っていたが、モーリスが来たことで、どうして自分をここに通した意図が分からなかったのである。
「受験案内に魔法実技の免除と書いてあったかと思いますが、あなたが一般の受験生と同じ教室で受験されると、周囲の受験生は気もそぞろになってしまうでしょうから、申し訳ありませんが、アキラ君は一人で受験してもらいます。筆記と面接、全て私が行いますのでよろしくお願いします。」
モーリスの言葉を理解したアキラは、なるほどと頷くとモーリスに向き直り、改めてよろしくお願いしますと伝えた。
「一人とはいえ、試験の内容は変わりません。一部皇族の方や上位貴族の方にも同じような対応をする場合がありますので、アキラ君だけが特別というわけでもありません。個室での試験は、周囲からあなたを守る意味もありますので、どうかご協力をお願いします」
「そうだったのですね。お気遣いに感謝します。試験は何時から始まりますか?」
「アキラ君が問題なければ、今すぐにでも始められます」
アキラは数舜考えると、今すぐ始めたいとモーリスに伝えた。
「では、これより魔法工学の筆記試験を始めます。試験中は私の指示に従ってください。従わなかった場合、失格となります。それでは、始め!」
モーリスの開始の挨拶と共に試験問題を見たアキラは思わず眉を顰めた。
(思ったよりもレベルが低い…)
当たり前である。帝国最高峰とはいえ、高校の入試である。大学生よりも高い教養を備えるアキラが普通ではないと本人はあまり理解していないようだ。
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では。