第3話
本日4話目です。
無理やり頭で理解をして何とか再起動を果たしたアキラは、皇帝に対していくつかの質問をしようとしていた。
「陛下、いくつかご質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。なんでも聞くといい。だが娘のスリーサイズは私も知らないから教えられないがね」
そう言ってアキラをからかう皇帝は果たして本当に皇帝なのだろうか。
(そんなこと口が裂けても言えないだろ。というかそんなこと聞ける奴いたら尊敬するわ)
そんな言葉が口から出かけたアキラは、何とかその言葉を飲み込むと皇帝に問いかけた。
「お言葉ですが、小官はこの国に忠誠を誓い、この国を守るための知識と技術を学んできました。小官の自惚れでなければ、帝国でただ一人の戦略魔法師として、学歴無しというのは外聞が悪いというのは理解いたします。帝国軍が未成年者を採用していないのも理解しております」
そこで一旦言葉を区切ると、皇帝に続きを促される。
「それらを十分に理解したうえで申し上げます。現在帝国は戦時下ではありませんが、周囲に敵がいないわけではありません。私も参謀本部直属の魔法師として、国防の一翼を担っております。私が学生となった場合、私の抜けた穴はどうなりましょう。軍とて今は余力がありません」
これはもちろん、皇帝も知っている。知っているからこそ、アキラがこう言ってきた時のための対応策を用意しておいた。
「確かにそうだな。少佐が抜ける穴は大きい。下手をすれば帝国が飲み込まれるほどに大きな穴となるかもしれない」
「では…」
「だがな少佐、貴官は軍人だが、まだ18の子供だ。貴官と同じ年頃の子供たちは皆学校へ通う。高等学校までの義務教育は帝国法に定められているのは貴官も知っているだろう?今の状況は違法状態だ。戦時特例によって認められていたにすぎない。終戦後のごたごたで、有耶無耶になっていたが、今は戦争も終わって久しい。このままの状態は、皇帝としては望むところではない」
ここまで正論を言われては、アキラは何も言えない。
そもそも皇帝の命令には逆らえないが、アキラは頭で理解しても納得はしていなかった。
アキラは幼少の頃から10年以上、軍で生活してきた。知り合いは皆アキラよりも年上だったし、アキラの同年代の友人などスラムでともに生活していた仲間たちくらいだった。
「確かに、私はまだ18歳の子供かもしれません。ですが、既に18歳なのです。あと2年で成人致します。ご存じの通り、私は初等学校も中等学校も行っていませんが、大学卒業程度の教養は持ち合わせております。軍務には何の支障もなく、先日少佐という階級も頂きました。なぜ今なのですか?今更学校へ通えと言われましても、小官には時間の無駄にしか思えません」
これがアキラの率直な気持ちだった。傍から見れば、アキラは素晴らしい忠誠心を持った軍事に映ることだろう。皇帝からしても、アキラの軍人としての在り方は満足のいくものだった。
だが、皇帝は困ったような、それでいて少し悲しいような表情をすると、次席秘書官を呼んだ。
「隣にいる国防大臣を呼べ」
「わかりました」
次席秘書官が隣の会議室へと向かう。アキラは皇帝の意図が読めず、黙って待っていた。
少しして会議室へと繋がる扉が開くと、国防大臣、マルク・ハウエルズが姿を現した。
「失礼いたします。私をお呼びとのことですが…」
皇帝に挨拶をし、その向かい側に座るアキラを見た国防大臣は怪訝な表情を浮かべた。
「これは…どういったご用件でしょうか?トウジョウ少佐が何か粗相でも?」
国防大臣もアキラに限ってそれはないだろうと思いながらも、皇帝がアキラを直接呼出し、自分も呼び出すような理由に心当たりがなかった。
「少佐、貴官からマルクに説明したまえ」
皇帝に言われては否やはない。
「では、僭越ながら小官の方から経緯をご説明いたします」
そう言ってアキラはここに至る経緯を国防大臣に説明するのだった。
「なるほど、事情は理解した」
そう言った国防大臣は先ほど大臣を呼ぶ前の皇帝と同じような表情を浮かべた。理由がわからないアキラは首をかしげるしかない。
「マルク、どうしてこうなるまで放置した?」
「少佐は文字通りこの国の最高戦力、遊ばせておく余裕などありませんでした。陛下もご存じの通り、先の戦争では少佐がいなければ帝国は本土で泥沼の戦いを続けていたことでしょう」
「だが、もう戦争が終わって3年だ。少佐にこのまま軍人として一生を過ごさせるつもりか」
アキラは皇帝のこの発言の意味が理解できなかった。アキラはもとより、帝国軍人として一生を過ごすものと思っていたからだ。アキラ退役する気などさらさらなかった。
「陛下、トウジョウ少佐が抜ける決して小さくない影響が出ます」
国防大臣が先ほどのアキラと同じことを皇帝に伝えると、皇帝は大臣に厳しい目を向けた。
「それは先ほど少佐から聞いた。マルク、お前の役目は少佐を使って国を守ることではない。軍事、外交、あらゆる観点から国を守るのがお前の役目だ。違うか?」
「その通りでございます」
「ならば率直に答えよ。少佐が学校へ通うために抜けた穴を埋めることは可能か?」
皇帝の有無を言わさぬ問いに国防大臣は数舜考えると可能だと答えた。
「少佐が抜けた穴は、関係が良好な南方の王国国境から戦術魔法師2名ほど引き抜けば問題ないでしょう。代わりに王国との国境には、来年度新設する予定の歩兵一個連隊を送りましょう」
「つまり問題はないと、そういうことだな」
「はい。その通りでございます。軍に多少の負担は増えますが、国防に関しては何も問題ありません」
それを聞いた皇帝は満足そうにうなずくと、アキラへと視線を戻した。
「そういうわけだ少佐。貴官の憂いはこれで無くなったな」
皇帝は勝ったと言わんばかりに、嬉しそうな表情を浮かべている。
アキラが抜けても国防に問題はない。そして違法状態、外聞が悪いなどの理由を挙げられては、アキラに反論の余地など残されてはいなかった。
(外堀は埋まっている。後は俺の意思だけか…)
アキラは暫しの間黙考すると、皇帝に最後の質問をした。
「陛下、最後に一つよろしいですか?」
「いいだろう。最後だな」
最後という言葉を過剰なまでに強調した皇帝は、ニコニコとしながらアキラ続きを促した。
「私が学生として高校に通うとして、その間の軍務はいかがすればよろしいですか?」
「ふむ…少佐は貴重な戦力だ。それも他で替えが利かない唯一無二の人材だ。とするならば、学校へ通っている間は予備役ということで良いだろう。マルクはどう考える」
話しを振られた国防大臣は、アキラを一瞥した後皇帝に向き直り意見を述べた。
「一つだけ、お願いがございます。少佐は予備役ではなく、参謀本部の非常任参謀にしたいのです。長く形骸化しており、現在は使われていない役職ですが、これは退役将校などの名誉職でした。有事の際には参謀本部への出頭が命じられますが、それ以外は個人の自由です。こちらの方が予備役とするよりも手当等の面で良いのでいかがでしょうか?」
「なるほど、だがその役職を復活させると、年寄りがうるさくないか?国費を圧迫するような真似はしたくはないのだが…」
「その点に関してはご安心を、非常任参謀の推薦権は参謀本部長にありますが、皇帝陛下と国防大臣の承認が必要と決まっております」
皇帝はそれを聞くと安心したように頷いた。
「ならばそれでいこう。少佐も問題はないな?」
「はっ」
「ならば良し。…秘書官、私のファイルを」
皇帝が次席秘書官にそう伝えると、秘書官が一つのファイルを取り出して皇帝に手渡した。
皇帝はそのファイルを数ページめくると、あったあったと言いながら一枚の紙を手渡してきた。
アキラはそれを恭しく受け取ると、素早く目を通した。
「拝見させていただきま…す?」
アキラは目を疑った。渡された紙に書かれていたのは、「フレアヴァンス帝国立高等魔法学校 一般入学試験 受験票」と書かれていたからだった。
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では。