第9話
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アキラは暫くの間第一演習場での試験を見ていたが、試験のレベルは思ったよりも低く、受験生のレベルもアキラの想像の遥か下であった。
というのも、アキラが比較できるのは同年代では自分だけであるし、自分以外の魔法師となると、同僚の戦術魔法師しか知らない。そんなアキラだからこそ、レベルが低いなどといえるのである。
「はぁ、思ったよりもレベルが低い…」
小声での呟きは初めから近くにいた監督官と、アキラを気にして少し近づいてきていた監督官の二人にしか聞こえなかったが、この二人には十分なプレッシャーを与えたようだった。
((あんたと比べたらそりゃレベル低いに決まってんだろ!?高校の受験だぞ!))
次に何を言われるのかとびくびくしていた監督官二人を尻目に、アキラは席を立ってギャラリーから出て行った。
アキラが出て行ったことを確認した監督官らは皆一様に安堵したが、それと同時にこの後アキラが行くであろう下の階の監督官たちに憐れみを覚えるのだった。
戦略級を軽々とぶっ放すような魔法の天才に、気まぐれで査察のようなことをされて喜ぶような教師は一人もいなかった。魔法が使えるからこそ、アキラの異常さを十分に理解できてしまうのである。
これからアキラが向かう階の監督官たちには、あらかじめ謝罪をしておくとしよう。許せ。
アキラはその後も地下2階、3階と試験の様子を見てきたが、特にアキラの気を引くような受験生はいなかった。本当にアキラは高校の受験生に何を求めているのか。
モーリスに説明された通り、どの階も同じ試験を同じようにやっているだけだったので、アキラは地下4階から7階を素通りして地下8階に降りていく。
今までと同じようにギャラリーに入ったが、少し雰囲気が違うことに気が付いたようだった。監督官たちはチラリと入ってきたアキラを一瞥すると、軽い目礼だけして自分の仕事に戻っていった。
(ここは高等技術が使える受験生の試験会場だから、教師たちもより実力の高い者たちで固めているのか)
アキラは表情が緩むのを必死に我慢しつつ、座席に座って演習場を見下ろす。そこには60~70人程度の受験生たちがいた。
(受験生の数からすると、全体の0.1%くらいが高等技術を使えるわけか。見てきた受験生のレベルからすると、まだ楽しめそうかな)
何も知らない人が聞けば、何様だよと言いたくなるようなことを考えているが、残念なことに戦略魔法師様なのである。だれも文句なんて言えない。
上から受験生を軽く眺めていると、今朝アキラがぶつかったリリーを見つけた。彼女ほどの美少女、目立たないわけがない。
(確か、リリーだったっけ?彼女も高等技術が使えるのか)
この年齢で高等技術を習得しているということは、やはり彼女は貴族か、良家の娘なのだろう。
暫く試験を眺めていたアキラだったが、あまり楽しそうではなかった。顔にはっきりと、期待外れの言葉が書いてある。アキラが何を求めていたのかは敢えて言わないが、高校の入試である。何度でも言おう!高校入試だ!初級とはいえ、発動待機や無詠唱ができるだけでも十分凄いのである。軍に入隊する高校の卒業生たちの平均レベルが初級の無詠唱である。入試の段階で無詠唱ならば、この場にいる受験生は合格したも同然だ。
アキラがそろそろ帰ろうかと腰を浮かしかけたところで、リリーの試験が始まるようだった。
(全然名前を呼ばれなかったから、もう終わっていたのかと思ったけど、せっかくだから見ていこう)
知り合いの試験が始まるのにそれを無視して帰れるほどアキラは薄情ではない。それに彼女が、どれほどの力の持ち主なのか見たいという気持ちも大きかった。
今までの受験生は、発動待機状態を長時間維持するか、無詠唱で魔法を撃つかの2パターンだったが、どうやらリリーは違うようだ。
試験官と一言二言会話をすると、試験官が的とリリーの間に移動してリリーと向き合っている。
(リリーは防御系の魔法が使えるのだろうか?)
試験官と対峙する必要があるのは防御系の魔法くらいだろうとアキラは予想した。
そして試験官はアキラの予想通り、リリーに手を向けた。だがリリーは防御魔法を使うことはなく、試験官はそのまま魔法陣を展開した。それを見たアキラは一瞬でどの魔法陣かを理解したが、リリーは何のアクションも起こしていなかった。
「――ッ!!」
アキラがそれを疑問に思った直後、試験官の展開していた魔法陣が破壊された。
その事象は紛れもなくアンチマジックであり、試験官が展開していた魔法陣は中級。リリーは見事に発動前の魔法陣を破壊して、アンチマジックを成功させていた。
アキラのみならず、周囲の監督官や試験官も皆一様に「おぉ…」と声を漏らしていた。
リリーの試験を見ていた他の受験生には、試験官が展開した魔法陣を理解できたものがいないのではないだろうか?それほどまでに綺麗なアンチマジックでだったのだ。
(てっきり防御系かと思ったが、中級のアンチマジックとは恐れ入った)
今までの受験生のレベルは良くて初級の無詠唱だったが、リリーは中級、それもアンチマジックということは、無詠唱で同じ魔法が使えるということだ。
他の受験生と一線を画すその力量に、アキラは心で賞賛を送った。
試験が終わったリリーは優雅に一礼すると自分の待機場所へと戻っていく。
戻る途中で、ふとギャラリーにいるアキラを見ると軽く会釈をしてきたので、アキラも条件反射的に軽く手を挙げて応えていた。
今までの試験を見て期待度が下がり切っていたアキラは、期待以上のものを見れてとても機嫌がよさそうだ。
最後に良いものが見られたアキラは上機嫌のまま、近くの監督官に礼を伝えて試験会場を後にするのだった。
リリー、もしかして超優秀?
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では。




