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一件落着の後もやっぱり日常は続いていく件3

 アツアツ土鍋シチューを食べ終えると、私の体はかなりポカポカしていた。デザートとしてみんなでリンゴっぽい果物を食べ、私はガヨさんからさらにおまけの果物を貰う。もちろんあの果汁たっぷりフルーツだ。もはやガヨさんのポケットで栽培されていると言われても私は驚かない。


「さて、ユキ。私たちはこれから仕事に取り掛かります。屋敷中がかなり忙しくなるでしょうし、外部の者もここへ押しかけるでしょうから、決して部屋の外へ出ないように。わかりますか? 今のあなたの仕事は食う、寝る、クソ。そして呪力と傷の回復です」

「先生、お風呂は仕事に入りますか」

「倒れたときのために、シャワーのみ、かつガヨか総長が部屋にいる間ならいいでしょう。薬の塗り直しも必要ですしね」

「……ガヨさんでっ」


 サラフさんにお風呂中待機してもらうだとか、倒れたときに介抱してもらうとか、申し訳ないしその倍くらい恥ずかしい気がする。私が頼むとガヨさんは頷いたあと、サラフさんの方をじっと見た。気のせいでなければ、若干ドヤ顔な気がする。私がサラフさんの方を見ると、青い目の上にある眉がくっきり寄っていた。


「……俺の部屋だろうが」

「アッすみませんあのもしよかったら私部屋帰りますし」

「あぁ?」

「イエ何でもないです」


 じっとしておきます。地蔵のように。私がそう誓うと、サラフさんがチッと舌打ちをした。マフィアや。


「ガヨは仕事終わらせてから来い。途中で投げ出すんじゃねえぞ」

「投げ出さない」

「あとてめえも飯食ってさっさと回復しろ。じゃねえとユキと会わせねえからな」


 ガヨさんの頬がプクッと膨らみ、そしてテーブルの下がなんだか騒がしくなった。ただ無言で睨み合ってるように見えますけど、この2人、足でコミュニケーションを取っているのでは。

 救いを求めて見上げると、カイさんはスルーしてテーブルの上を片付けている。メンタルの原材料がダマスカス鋼か何かなんですか。


「ま、まあまあふたりとも……」


 メンタル原材料が乾いた泥くらいの私からすると色々削れている気がする。

 けれど、削れたりハラハラしたりできるのも、こうやってここにいるからこそだ。

 地下牢にいたときも、王城にいたときも、屋根にいたときも飛んだときも死ぬかと思ったけど、なんとかそうならなくて、このお屋敷でのんびりご飯を食べられている。そう思うと、自分がけっこう運がいいように思えた。

 カイさんやガヨさんのように、心配してくれる人もいる。

 サラフさんという、好きな人もいる。

 そう考えたら、なんだか幸せだなと思った。


「へへ……」

「ユキ、変なの食べた?」

「また呪力切れたのか」

「イエ大丈夫です……」


 ニヤけたら真剣に心配されてしまった。ちょっと心がつらい。

 しかし持ち直した。色々なことを乗り越えてきた私だ。これくらいの心のダメージは平気だ。たぶん。


「あの、サラフさん、カイさん、ガヨさん。改めてお礼言わせてください。ありがとうございます」


 私が立ち上がって頭を下げると、3人が動きを止めて静かになった。


「それから、これからもよろしくお願いします」


 トラックに轢かれかけて、それから色々、ほんとに色々あったけど。

 私はここで、この人たちと一緒に生きていきたい。そう思うし、そう思われるような生き方をしたいと思った。

 もちろん、無謀なことはナシで。できたら物騒なこともナシで。地下牢もナシで。


「……ああ」


 頭を上げると、サラフさんが私の頭をちょっと撫でた。ガヨさんが私の手をぎゅっと握ってくれた。カイさんはいつもと同じように片眉をクイっと上げたけど、口が笑っている。


「勿論、これからも頼みますよ。絨毯の色や花瓶の配置を考える仕事はあなたのものですからね」

「はい!」

「だから今日はじっとしておくように」

「ハイッ」

「ほらほら2人も行きますよ。今日はゆっくりしている時間なんてありませんからね」


 カイさんの号令で、みんなも立ち上がった。ガヨさんが食器の載ったカートを押し、カイさんがその後ろについて部屋を出ていく。それを見送っていると、一番最後のサラフさんが振り返って私を見た。


「いってらっしゃい、サラフさん」

「ああ」


 いつか行ってきますって言ってほしいなーと思いつつ見上げているとサラフさんが戻ってきた。大きい手が私の首の後ろを温めて、ちょっと押す。いい匂いがして、それから唇が塞がった。離れるときにちゅっと音がする。夏の青空の目のなかに、私が映っているのがわかる。


「夜まで大人しくしてろ」

「……ハイィ……」


 ベッド行けと顎で示してから、サラフさんが部屋を出て行った。鍵がかかる音が聞こえて、私はヘナヘナ歩いてどうにかベッドにダイブする。俯いたまま手を伸ばして枕を掴むと、顔を埋めた。


「……うひゃー!」


 足をバタバタさせるとおしりやら太ももやらが痛かったので、大人しく掛け布団の下にもぐりこむことにした。ニヤニヤしながら枕を揉む。


 やっぱり、異世界転移ってイイかも。






お読みいただきありがとうございました。

次話からいくつか番外編を更新予定です。

不定期になったらすまない……

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