一件落着の後もやっぱり日常は続いていく件1
カイさんの、お屋敷を抜け出す前のことから呪力切れを起こすまでを時系列に沿って丁寧に重箱の隅を突き壊す勢いで突いてくるお説教を聞き終わり、足の包帯やら湿布やらを替え、塗り薬を効くけど痛いやつに変えられ、ジンジンした痛みとともに私は再び眠りについた。
「……おはようございます」
「ああ」
ぱかっと目を開けると、朝日が差し込む明るい部屋でサラフさんがまたテーブルに書類を広げている。
そうか、昨日結局サラフさんのベッドでそのまま寝落ちしちゃったんだった。
私が体を起こし、カイさんが置いていってくれたフリフリフカフカ室内履きに足を入れて立つと、サラフさんがじっと見てくる。
「足は」
「昨日よりはちょっとマシです」
「そうか」
屋根に登ったときに裸足だったせいで、足の裏にも小さな傷がいっぱいできていたようだ。昨日はトイレに行こうとした瞬間にヒヘェと声を上げてしまったほど痛かったけれど、今日は声を我慢できるくらいになっている。めちゃくちゃしみるけど効く塗り薬のおかげかもしれない。
「サラフさん、今日もお手洗い借りていいですか」
「何でも好きに使え」
「ありがとうございます」
ペンを書類に走らせながらぞんざいだけど優しい返事をくれたサラフさんをチラ見しつつ、私はトイレへと向かう。ペン、めっちゃガリガリいってた。サラフさん筆圧高そう。
洗面所に入ると、正面にある洗面台の横にタオルが積んであった。横を向くと、隠し扉になっているはずのトイレのドアが、周囲の壁から浮くように少しだけズレていた。そのままトイレに入り、手を洗ってから出て、洗面台のところまで戻って気付いた。
もしかしてサラフさん、私が呪力使わなくていいように開けておいてくれたんでは?!
この積まれたタオルも私が使えるように出しといてくれたんでは?!
だって普通、トイレのドアって閉めてるし。タオルだって棚の中に入ってるし。昨日よりは体調がいいけど、万が一トイレ行って呪力切れにならないようにしてくれたんだろうか。タオルもそのままだとちょっと遠慮しちゃうから、そうならないように置いといてくれたんだろうか。サラフさんすごい優しい。
わーいわーいと洗面台の前でくるくる喜び、浮かれながら顔を洗って、フカフカした高級そうなタオルを使う。心なしかサラフさんの香りがした。
……そういえば私、昨日の夜って、サラフさんと同じベッドで寝たんだろうか。
やばい全然覚えてない。
寝落ちしてしまってそのままぐっすり過ぎた。枕が合わないとかも特になかった。夢も見ないほど熟睡だった。
サラフさんの部屋のベッドはすごく大きいので、私と並んでも狭くはなかっただろうけど、なんか、なんかそれって、ちょっとなんかアレじゃない?
「おい」
「ヒャエッ!!」
タオルに顔を埋めつつ考え込んでいたせいで、洗面所のドアが開いた音に気が付かなかった。私はびっくりし過ぎてバランスを崩し、洗面台の棚に膝をぶつける。
アザになっていたところにクリティカルヒット。
「……」
「何遊んでやがる」
私が無言で膝を押さえて悶絶しているというのに、サラフさんは呆れた声を出した。ひどい。
でも「来い」って手を貸してくれた。優しい。
サラフさんに手を引かれ、ヒョコヒョコ歩きながらベッドに戻る。テーブルの上の書類は乱雑にまとめられて、一番上の紙に何かわからないけれど大きくて乱暴な字が書かれていた。なんて書いてあるんだろう。書き直せ、とか書いてあったら事務の人が泣いちゃうんじゃないだろうか。
「また手が冷えてやがんな」
「そうですか?」
サラフさんの手がいつもよりあったかく感じるといえばそんな気もするけれど、昨日よりはずいぶん動きやすいのでそれほど冷えてるという自覚はなかった。グーパーしてみるけれど、昨日のこわばってる感じはなくなっている。
「さっさと寝転べ」
「エッ……あ、あの、またあの昨日のあれをするあれですか……?」
「また死にかけてえのか?」
死にかけたくはない。たくはないけども、背中を触られて呪力もらうのも恥ずかし過ぎてちょっと困る。朝イチでそんなのはとても困る。
「いえ、あの、まだ大丈夫といいますか」
「いいから寝ろ」
「あのサラフさん、もうあの、やらなくていいんじゃないかと」
「ぐずぐずすんじゃねえよ」
天下の総長さまを前に、抵抗など虚しい。
回避を試みる私を眺めて舌打ちしたサラフさんは、私を引っ掴んで秒でベッドに載せ、抵抗を封じるようにのしかかりつつ呪力をお分けくださった。恥ずかしさとムズムズで死にそうだった。
窓を開けて入ってきたガヨさんがやっぱり天使に見えた。




