命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件31
気持ちで体が変化するなら、私はもうスライムになってると思う。
「おい、息しろ。また死にかける気か」
キスしながらの息、難易度高過ぎでは……?
私はしばらくぶりの空気を頑張って吸い込みながら思った。
しかもサラフさんのキス、なんかその、上級者過ぎでもう息とか考えてる余裕がない。無理。どう反応したらいいかよくわからないし、とにかく恥ずかしいし、なんか好きって言ってもらえて嬉しいしときめくし。
なんと言い返していいかよくわからずにとにかく酸素補給をしていると、ぐらっと体が傾いた。
「うわわ」
後ろ側に倒れそうになったので慌ててサラフさんにしがみついたけれど、背中にシーツの感覚がして気が付いた。
こ、これはもしや、お、おしたおし……的な……?
「腕緩めろ」
「スイマセンッ」
「なんで謝ってんだ」
慌ててサラフさんから離れると、後頭部がフカフカ枕にぽんと着地した。
サラフさんが青い目からフェロモンをいっぱい出している。
「力抜け。もっと口開けろ。息は鼻でしろ」
「むり……」
「無理じゃねえ」
サラフさんの手が、私の唇の横をちょっと拭いて、それから顎をちょっと押す。色気がたっぷりな目が近付いてくるにつれて伏せられて、私はまたサラフさんとキスをした。
意外と柔らかくて、想像通りにあったかい。そしてそれ以上はちょっと考えるのが難しい。何回か唇がくっついたり離れたりして、太ももを滑る手の感覚に気が付いた私はハッとなった。
「ちょ、ちょっと待って! ください!」
なんとかスライムから人間に戻った私は、両手でまたサラフさんの口を塞ぐ。
目が。目が怖いんですけど。フェロモンが殺気になってるんですけど。
「……何だ」
「あの、ちょっとあの……」
私の背中をムズムズさせていた手は、いつの間にか仕事を終えていたようだ。呪力を分けてもらったおかげか恥ずかしさのせいか、確かに体はちょっとぽかぽかしている。しかしその手が足に移動したところはちょっと見過ごせない。なんか触り方がそこはかとなくフェロモンだったのも見過ごせない。
「その……こ、このへんで終わりにしておくのはどうかなー……って……」
「あ?」
「あの、この、この先はちょっと未知の領域といいますか! いや今までも割と未知だったけど、ちょっと展開が急すぎて! もうちょっとこう、時間をおくべきではないかと!」
「何を言ってんだてめえは」
もう怒涛。急にキスからの(ちょっと無理矢理の)告白からのキスそれ以上とか怒涛。
ただでさえそういうのは主にマンガとか小説とか友達のさらに友達の話とかでしか知らないことなのに、もう急すぎる。ついでにいうと王城も行ったばっかだし人生の濃度が急に大変なことに。
人生、もうちょっとスローライフがいいんではないかと。
私がそう説明すると、サラフさんはしょーもないものを見る目で私を見た。そして太ももがむずむずした。
「言いたいことはもう言ったか」
「イヤだからあの続きはもうちょっと時間を置いてほしいんですけども?!」
「時間置いてもどうせワーワー騒ぐだろてめえは」
「そうかもしれないけど! そうかもしれないけどもー!」
なんか見透かされている。
目で「手どけろ」と言いつつまたキスをしようとするサラフさんと、それを防ごうと頑張って腕に力を入れている私。膠着状態が緩んだのは、私の腕がプルプルし始めた頃だった。
サラフさんがピタリと止まる。
それからチッと手の向こうで舌打ちが聞こえて、私は手の力を緩めてしまった。
もしかしてサラフさん、私の態度に呆れたのかな。
そう心配になったけれど、サラフさんの鋭い視線が刺さったのは私じゃなくて窓の方だった。
「おい、邪魔するんじゃねえ」
「エッ?!」
頭を起こして私も窓の方を見る。
ガラスの向こうの暗い景色の端っこで、黒い目がじっとこちらを見つめていた。




