命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件30
「ユキ、てめえは頭ん中で暴走するのをやめろ」
「ぼ、暴走じゃなくて事実であって」
「誰が女適当に選んで侍らせてんだ。あぁ?」
「スミマセンデシタッ」
私は素直に白旗を振った。もはや反射神経に刻まれている気がする。
「人を勝手に女好きに仕立て上げんじゃねえ」
いつものにらみ攻撃とは違って、サラフさんはちょっと呆れた様子を見せている。
「どこ見てンなこと思い付くんだ」
「だってあの……サラフさんか、かっこいいし……怖いけど優しいし……」
なんかいい匂いするし、と言うとまた睨まれそうな気がしたので黙っておくことにした。しかしサラフさんも黙ったままなので、私が会話を続けるしかないようだ。
人をムズムズさせておいて、しかも勝手にキスまでしといて、会話まで続けさせるなんてサラフさんは鬼じゃないだろうか。いやムズムズは私のためだけど。
「あと、困ってたら助けてくれるし……なんか手とか男の人って感じだし……モテるのに慣れてそうだし……ま、前にキスしてきたときも絶対やり慣れてるなって……女の人いっぱい相手にしてきたんだろうなって、わ、私のこともその気にさせといてポイ捨てするんじゃ」
「だから暴走をやめろ。誰が捨てるっつった」
「サラフさん…………じゃなくて私です……」
ときどき、青い目からビームが出てる気がする。サラフさんなら出せそうな気がする。
「わざわざ捨てるような物を拾うわけねえだろ」
「と、ということは、あの、わ、私も捨てる予定は今のところないんでしょうか」
「そもそもてめえはものじゃねえだろうが」
「あの、文化的な違いとかもあるし確認しておきたいんですがその、私はその、キスとかは恋人とだけするものであって、不特定多数とはしないものであって、一夫一婦制だし」
「俺が育った文化と変わりねえな」
「えっ」
そうなのか。
ちょっとびっくりすると、サラフさんに訝しげに見られた。そんな視線を向けられているにもかかわらず、私の頬はじわじわ熱くなっているのがわかった。
「え、じゃあ……じゃあサラフさん、わ、わ、わた、私のこと好き……?」
勇気を振り絞って訊くと、サラフさんが「ああ」と言った。
「わ、私のこと好き? ほんとに?」
「そうだ」
「好きって言って」
「ああ?」
「くださいお願いします」
私がカエルだったら昇天してるくらいの視線が返ってきたので、慌てて敬語を付けた。
「す、好きって言ってください」
「言っただろうが」
「言ってない! ああって言った! 好きって言ってない!」
「伝わっただろうが」
「伝わってない!」
「てめえ」
「伝わったけど好きってちゃんと言ってほしい! です!」
恥ずかしい。なんかめちゃくちゃ恥ずかしい。
でもここまできたらサラフさんに好きって言ってほしい。嬉しすぎて幻覚かもしれないからせめてしっかり明言する幻覚であってほしい。
お願い、と頼み込むと、サラフさんは深々と溜息を吐いた。ごめんなさい。でも言ってください。
ぐっと抱きしめられて、視界がサラフさんの右肩超えて向こう側テーブルや壁だけになってしまう。体を起こして顔を見ようと左を向きかけた瞬間、耳のすぐ近くで「好きだ」とサラフさんの低い声が囁いた。
「……!!」
雷に撃たれたような痺れる声に体がかーっと熱くなるくらいときめいてしまい、何か言おうと息を吸い込む。けれど、そのままサラフさんに口を塞がれてしまって私は何も言うことができなくなってしまった。




