命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件29
「……サラフさん」
「なんだ」
「まだ終わらないんですか」
「死にてえのかてめえは」
サラフさんが「それとも俺が殺ってやろうか」とか言いそうな声で凄んでくる。
死にたくはない。決して死にたくはないけども。
「おい、じっとしてろ」
「だってなんか……なんかいつもよりムズムズするんですけど……!!」
サラフさんが触っている背中の真ん中あたりを中心に、温かさと同時にくすぐられているような感覚が手足に向けて広がっているのだ。寒さがマシになったのはすごく嬉しいんだけど、むず痒いし、なんかくすぐったい。
そしてムズムズに波があるというか、一定の強さでのムズムズが続いている中でたまに強めのムズムズがきて、それがランダムに体をくすぐられているようで我慢が難しい。なんとか頑張ろうとぎゅーっと体に力を入れて堪えてはいるけれど、どうしても不意に足をモジモジさせたり背筋を反らせたりしてしまう。なのにサラフさんはじっとしてろなどと無茶を言ってくるのである。
「動くんじゃねえ」
「だって……これすごいムズムズしてて、めちゃくちゃくすぐったいんです」
「我慢しろ」
サラッと無理難題を言われた。
人の気も知らないで。サラフさんがもし呪力切れになったら、私が全力でやり返してやる。
そう思いつつ反論しようと顔を上げたら、サラフさんが目を細めてからいきなり近付いてきた。
「ムッ…………?!」
文句が出てこない。口が塞がれてるからだ。サラフさんの口で。
びっくりして体が後ろに倒れそうになったけど、ムズムズ発生源であるサラフさんの手がガッシリ支えてくれていて倒れず、なんとか手でサラフさんの体を押してみるけどあまり効果はなく、というかむしろ唇がちょっとずれて最初より深くなった。
しばらくそのままでムムムムと固まって、距離ができてから私は思いっきり息を吸った。
「……なんでいきなりそんなことするんですか?!」
「んな顔で見上げてくるからだろうが」
「顔はこれしか持ってないですけど?!」
「なら仕方ないな」
何も仕方なくない。何も仕方なくないと思う!!!
私が全力で否定をしたというのに、サラフさんはしれっとした顔でまた私と接触しそうな距離にまで詰めてくる。
それがまた触れる前に、私は両手でサラフさんの口を塞いだ。
「…………」
めっちゃ睨んでくる。爽やかな夏空色の目がめっちゃ睨んでくる。
怖いのでちょっと手を離した。スミマセン。
「てめえ」
「だだだだって……だって私たち、恋人じゃないじゃないですかっ!」
「あ?」
私が叫ぶと、サラフさんの目付きが変なものを見るようなものに変わった。
「だって、で、出会ってそんなに時間経ってないし、で、デートもしてないし、ときめくこと……はあったけどシチュエーションとしてはあんまりそうでもないような気もするし、さ、サラフさんが私を好きなのか全然わかんないし!」
「おい、んなことで」
「そんなことじゃないですっ! たとえサラフさんが別に好きじゃない相手にこういう……こういうことできる人だったとしても、女なんかほっといてもうじゃうじゃ来るから適当に選んではべらせてるだけでも、私はそうじゃないんです! 逃げ場もないし職場も同じだし、なのにサラフさんに振られたらつらすぎてどうやって生きていったらいいんですか!」
生き残ることすら世界に落っこちて、売り飛ばされそうになってたときに助けられて、さらに助けられて、優しくされたらそりゃ好きにならないはずがない。でもサラフさんにとっては私は危ないから助けただけの他の異世界人とたぶん一緒で、誰かを助けることなんて珍しくなくて、怖いけどかっこいい顔だから惚れられることだってよくあることで。
頭ではわかるけど、そう思うだけでめちゃくちゃつらい。キスされて期待して裏切られたら死んでしまう。
そういう決死の思いで私が伝えているというのに、サラフさんは訝しげな顔で私を眺めてたかと思うと、私の手の隙間から深く溜息を吐いた。
せっかく真面目に話しているのに!
今日から1日1回更新になります。




