表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/91

命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件28

 あったかい。

 抱きしめられて嬉しい。

 怖い気持ちが薄れて心があったかい気持ちで満たされて、なんだか内側からぽかぽかしてきた……と、思ったんだけども。


「サラフさん」

「何だ」

「なんか寒いです」


 いや、気持ちはポカポカしてるんだけども。

 手足はむしろヒエヒエしてる気がする。


 あったかいサラフさんを抱きしめ、そして抱きしめられているというのに、なんでか私の手足は温まる気配がない。ていうかさっきより冷えてる。

 なんでだろう。あったか枕を手放したせいだろうか。そっと足を伸ばしてお行儀悪くあったか枕を引き寄せていると、サラフさんが体を離して私をまじまじ見る。それから舌打ちした。えっ私ですかすみません。


「まだ足りねえか」

「な、何がでしょう……」

「呪力だ。完全に使い切ったせいでうまく回復してねえ」


 呪力は普通、使ってもしばらくしたら回復するそうだ。でも今の私は使いすぎたせいでその回復機能がうまく働いていないらしい。何それめっちゃ怖いんですけど。


「あの、もしかして私、今も死にかけて……?」

「何もしなけりゃ死ぬ」

「えええ」


 危機が全然去ってなかった。

 確かに、呪力はいっぱい使った。ラフィツニフのおっさん体型を持ち上げて城壁を越えさせたし、直後に自分まで飛んだのだ。カイさんが前に言っていたことを考えると、私は多分、異世界人の中でもわりと呪力が多めなタイプなんだろう。そのおかげで逃げられたのはありがたいけども、完全に使い切ってしまうってわかってたら私だってもうちょっとなんかこう、エコ運転的な、おっさんは手前で落とすとか、そういう対策をしたのに。

 呪力、なんかメーターとかで残量を表示しておいてほしい。あのときの息苦しさと寒さ、ちょっとしたトラウマレベルの苦痛だったし。

 自分の体にクレームを付けていると、いきなり背中をめくられた。


「ヒャァッ!!」

「じっとしてろ」

「あのアノあのサラフさん、なんでシャツめくるんですか!」

「布越しじゃ効率悪いだろうが」


 なるほど。じゃなくて、何が。

 そもそも私の今の装備は薄い。下着、大きめシャツ、以上である。だというのにそのシャツをめくられたら、もはや素肌しかないではないか。そう思うと同時に、背中にサラフさんの手が触れて私は水揚げされた魚くらいの勢いでビクッと跳ねた。


「動くな」

「ちょっとそれはあの……無理なんですけど……」

「すぐ終わるから静かにしてろ」


 サラフさんの手のひらが、背中の真ん中あたりに当たっている。逃げたくても、前にあるのはサラフさんだ。膝の上から降りようとしても、反対の手がガッツリ捕まえている。逃げ場がない。

 ぎゅっとしてたのはなんかアレで恥ずかしさもアレだったけど、背中を直接触られたら流石に恥ずかしいしゾクゾクするしムズムズする。

 ん? ムズムズ?


「サラフさん、なんかムズムズします」

「我慢しろ」

「もしかして、サラフさんの呪力分けてくれてるんですか?」


 すぐ近くにある顔を見上げると、サラフさんが頷いた。


「そうやって治せるんですね」

「普通はそのまま死ぬがな。何度か分けたがどうやら時間をかけて体内に吸収してるらしい。てめえの体質か死にかけてるからかはわからねえが」

「べ……便利な体でよかったです……」


 誰かからもらった呪力は、一般的に肌に模様として浮かび上がる。それを体内に吸収することはできないけれど、私はなぜだかできちゃってるようだ。サラフさんは私が倒れたのでダメ元で分けたら、付いた模様が消えて私の体温がちょっと上がったらしい。

 他の人が私の呪力を自分のものとして使えるように、私も他の人の呪力を自分のものにできるんだろうか。なんだろう。ハードル低いというか、有機溶剤的な感じというか。

 今まではデメリット多過ぎと思ってたけど、命拾いできたのはよかった。


 左手を見ると、サラフさんやガヨさんにもらった呪力の模様が綺麗になくなっていた。王城で使い果たしたのか、それとも回復するために吸収してしまったのか。


「サラフさん、サラフさんは大丈夫ですか? 何回も分けてくれたんだったら、サラフさんも寒いんじゃ」

「何ともねえ」

「全然? ちょっとは寒いですか?」

「全然」


 サラフさんはいつも通りあったかかったので、言っていることは本当なのだろう。私に呪力を分ける前にたぶん王城の人たち相手にも戦ったはずなので、それでも影響がないというのはかなりすごいような。


「サラフさん、呪力が本当に多いんですね」

「ああ。だからもう心配して変なことするんじゃねえ。いいな」

「はい」


 私が頷くと、サラフさんが「よし」と頷いて、軽く息を吐いたのがシャツ越しに伝わってきた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ