命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件26
寝転がったままだと、あちこち見るのはなかなか難しい。それでも私は一生懸命に目を泳がせていた。サラフさんの顔が近過ぎて、真正面にあるので気を抜くとついつい見つめてしまいそうになるからだ。
この状況、なんかとてもよくないと思うんですけど。ベッドだし。
ていうかここ、よく考えたらサラフさんの部屋だし。なぜサラフさんのベッドで寝ているんだ私は。サラフさんもなんか文句言った方がいいですよ。ていうかよかったら私自分の部屋に戻りますよ。
あったかい物体を抱えつつ、何を言うべきか迷っていると、枕の横あたりがギシッと軋んだ。
なんかもっと近付いてる気が。
「……えーとえーと、あっ、あの、ラフィツニフはどうなったんですか。なんか攻撃されそうだったような」
「知りたいか?」
「エッ……えっと、し、知りたい……ような」
末路の度合いによっては知りたくないような。
ゴクリと唾を呑んでから頷くと、サラフさんはどうでもよさそうに言った。
「捕縛した」
「あ、生きてるんですね」
「事情聴取してから裁判にかける。情報吐かせてからじゃねえと価値がねえからな」
価値って、殺す価値ってやつですかね。
いや情報の価値だよね。まあ大ボスみたいなやつだし、繋がってる人をみんな自白したら芋づる式ですもんね。そういう意味だよね。
「な、何か喋ったんですか」
「いや、水から引き上げてすぐ猿轡噛ませたから喋ってねえ」
「そ、そうですか」
「屋敷と王城を捜査中だ。家族にも吐かせる」
「家族……いたんですね」
ラフィツニフのことを、なんか悪くてひどいことする個人としか見てなかったと気付いた。
よく考えたら貴族だし、血筋とかあるだろうし、そりゃ家族くらいいるよね。子供や奥さんがいるかはわからないけど、少なくともご両親はいるだろうし。
その人たちも捕まって猿轡されたり、棍棒を持った人々に囲まれながら自白を諭されたりするんだろうか。
「ラフィツニフが哀れと思ったか?」
「あ、それはないです。私、あのおじさんといた時間なんて少ないですけど、今までの人生で一番嫌いになりましたし。嫌いなあまりに浮かせられましたし。あっ、あのおじさん持ち上げて外に出したの、私なんですよ」
「知ってる」
サラフさんたちは王城を目指して移動していたので、浮いているラフィツニフのことも見えたようだ。つまりより多くの人に浮かんでジタバタしてる姿を見られたわけで。嫌ってたサラフさんにも目撃されてたとか、やーいラフィツニフざまあ。
心の中でちょっとスッキリしていると、サラフさんの視線がちょっと柔らかくなった。
「ユキの手柄であのクソ野郎を捕まえられた。感謝する」
「あ、いえ、あの、お役に立ててよかっ」
「だが2度とやるなよ」
「ヒェ」
「てめえが生き残れたのは偶然だからな。あれが実力だと思うと死ぬぞ。大体あんなゴミ持ち上げてるから呪力切れ起こしたんだろうが」
「絶対モウシマセンッ」
柔らかくなった目は、一瞬で鬼モードに戻った。できる人は気持ちの切り替えが速いというけどサラフさんは速すぎる気がする。
私は語彙力の限りを尽くしてもうやらないとサラフさんにアピールした。いや、サラフさんが怖いからだけじゃなく、頼まれたってもうやりたくないし。お屋敷を抜け出すとこだけでも絶対やりたくないし。
「自分を浮かせるなんて練習すらしてねえだろ。呪力が少なけりゃ今頃地面の一部だぞ」
「あのときは本当に追い込まれてて……そもそも部屋に入った時点で靴だの服だの脱げとか言われて無理しかなかったといいますか」
「あ? 今何つった?」
「ヒィ」
20センチの距離で青色の目が殺し屋のソレに変わった。




