命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件23
しっかりしろ、と揺さぶられて目を開ける。そこにはみんなが揃っていた。サラフさんもいる。みんなが立ち上がって、王城の方へと歩いて行ってしまう。追いかけたいのに寒過ぎて起き上がれない。
待って、中に待ち伏せしてる人がいるから行っちゃダメ。
危ないから、サラフさんを狙ってるから。
行ったら死んじゃう。行かないで。置いてかないで。
「あ……ッ!!」
いきなり体が動いて、私はガバッと起き上がった。
しかし直後に激痛と寒気に襲われる。
「いっっ……さっむ!」
お尻がめちゃくちゃ痛い、と瞬間的に思ったけれど、その後からあちこち痛いことに気が付いた。それからもうとにかく寒い。慌てて掛け布団に潜り込み直した。あったかい。
「ん?」
なんで森の中に掛け布団が。しかもフカフカ。さらに3枚重ね。ちょっと重たい。
シーツはまっさらで、そしてすべすべだった。手触りを楽しんでから気が付く。寝転んでいる場所もシーツだ。ていうかベッドだ。フカフカの枕も付いている。
どういうことだろう。
寒いので頭だけそっと出すと、そこは森の中じゃなくて屋内だった。豪華な天蓋、そこから垂れるカーテンが半分だけ開けられている。高級そうな壁紙にシャンデリアの光が揺れていて、それから棚に、ソファに、暗い窓。
視界を反対に向けると、椅子とテーブル。そして怖い顔のサラフさん。
「……」
「……」
「……こんにちは……?」
「まだ寝ぼけてんのか」
夢かと思ったら、返事があった。持っていた紙束をバサッと置いたサラフさんが、こっちにやってくる。
髪の毛は無造作で、シャツのボタンを開け、袖は捲ってジャラついたアクセサリーが見えている。何度か見た、オフモードのサラフさんだ。
……オフモードだというのに、なんかオーラが怖い気がするのは、気のせいだろうか。
雄ライオンとサバンナで出会ったような気持ちになるのは、寝起きだからだろうか。
「具合は」
「エッ……あっ、えーと、大丈夫です?」
「嘘吐くな。死にかけてただろうが」
「エッ?!」
ずんずん近付いてきたサラフさんは、掛け布団を握っていた私の手を掴み、親指で手首のところを押さえる。脈拍を測られているようだ。それから指の先をギュッと握ったサラフさんが、私のことをギッと睨んだ。
「まだ冷てえだろうが。正直に言え」
「スッスイマセン……ちょっと寒い……かもで、あと、おし……腰と足がちょっと痛いです」
「ちょっとか?」
「ちょっとより……もうちょっと痛めです……」
今までの人生で一番尋問に近い問診だ。
すっかり目が覚めた状態で、私は正直に答えた。本当だろうなと問うようにサラフさんが睨んでいる気がする。怖いのでそっと視線を逸らして気が付いた。
「あれ、ここ、お屋敷?」
「どうした、頭もやられてんのか」
「いえ、あの、私、王城にいたような気が……」
もしかして、今までの一連の命懸けアクションが夢だったんだろうか。そう思っていると、ガッと顎を掴まれて視線を戻された。
「王城じゃねえよ。王城裏の森近くで死にそうになりながら殺されそうになってたんだろうが」
「ヒェ……」
「思い出したか?」
「フュィ……」
大きい指に半ば頬を潰されながらも、私は命の危機を察して従順に頷いた。
なるほど、このオーラ、サラフさん従来の威圧感じゃない。
間違いなく怒ってるのだ。私に対して。
あー……そういえばなんか思い出してきた。落ちて寒さに震えてたときに、サラフさんを見たような気がする。そして、その時点でめちゃくちゃ怒っていた気がする。
そして今私を至近距離で睨んでいるサラフさんも、そのときと同じくらいの熱量でお怒りになっていらっしゃるらしい。
私は蛇に睨まれたカエル状態で目を逸らすこともできず、ただひたすら瞬きを繰り返していた。
死にそうになりながら殺されそうになっていたあの時より、生命の危機を感じるんですけど。




