命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件21
え? 浮いてる? 本当に? マジで? 浮く? 浮けるの? 浮けたの私?
私は疑問だらけのまま、恐る恐る、頭を抱えていた両手を外して視線を巡らせてみる。
カイさん厳選のフリフリ服の、フリルたっぷりな部分が風に揺れていた。パフスリーブ、過剰装飾なリボン、そしてものすごく膨らんでいるスカート。
たっぷり布地を使った、ちょっと重いスカートががっつり膨らんで、なんか傘みたいになってる。まるでそこで上昇気流を受け止めて浮かんでいるようだ。もちろん風は横から吹いてるのでただのイメージだけど、なんか気球みたい。
うん、確かにこのスカート、めっちゃ膨らみそうって思ってたけど。
アレかな。前に見た映画でこういうシーンがあったから、なんかそのイメージでこう、自分が浮くという異常事態に無意識が折り合いをつけてるんだろうか。
「くそっ誰かもう一人登ってこい!!」
「ウワ」
私のすぐ後ろで、ムキムキのヒゲの人が手を伸ばしていた。ひらひらしているリボンに届きそうで届かない距離にいる。
アワワワ。せっかく浮いたのに捕まえるとかやめて。
足をぎゅっと曲げて膨らんだスカートの中にしまいつつ、私は両手で空中を漕いだ。じわじわ進んだ。ヒゲの人が歯噛みしながら剣を抜いたので私は慌てて漕ぎまくる。ゆっくりだけど浮いている体は確実に動いて、振り回した切っ先はかろうじてスカートの端っこを切っただけだった。いやそれでも危ないし。今更ながらここの人たち物騒すぎるんですけど。
「射掛けろ!!」
「燃やせ! 動揺すれば落ちるぞ!!」
「やーめーてーくーだーさーいー!」
人生で初めて浮き上がった人に対して酷すぎないか。
両手を前後に動かして漕ぎつつ、背後やスカートで見えにくい下に気を付ける。斜め下で弓を構えている人が見えた。
なんかあの矢、先っぽに火が点いてないか。私は片手をそっちに向けた。
「消火ーっ!」
こちらに向けられていた火がぽっと消える。
「くそっ! 消された!」
「とにかく当てろ!」
ロウソクやランプで火の点灯消灯を練習しててよかった。武器に火を使ってはいけない的な気持ちが働いているのかはわからないけれど、この距離からでもすぐに消せる。私は空中をゆっくり進みつつ、見える範囲の火をできるだけ消していく。点けるのは抑制が働くことも多いけれど、消す分にはランプだろうがロウソクだろうが矢の先っぽだろうが問題ないようだ。
ぽぽぽぽと火を消しつつじわじわと城壁の方へと進んでいると、スカートにズボッと矢が刺さった。
「あぶなっ!!」
足がぎゅっとくっ付いて、空中に正座しているような体勢になった。
スカートの下には、ドロワーズ的な、白くて膨らんで膝下まであるタイプの下着を穿いている。厚めの綿だしその中にもパンツを穿いているので下から見られてもあんまり恥ずかしくはない仕様だ。内側のスカートも白なので、弓で狙うと当てにくいのかもしれない。といっても足は裸足なので、膝から下は丸見えだ。
でもその代わり、膨らんだスカートのおかげで上半身は狙えないはず。城壁を越えれば弓矢も当たらないだろう。
「フンン……!!」
漕いでるというかクロールみたいな感じで腕を動かしつつ、私はフワフワと森の方を目指す。高く敷地を囲んでいる城壁が近付いて気が付いた。ちょっとずつ高度が落ちているようだ。
落ちたときに低い位置の方が安全だろうけど、早く越えないとお堀に落ちたらアウトだ。這い上がれなくて泥になるってロベルタさん言ってたし。ていうかロベルタさんは大丈夫なのかな。置いてきちゃったけど平気かな。
ジタバタと空気を漕いで、城壁の上に足を伸ばす。なんか疲れた。腕を動かしすぎてだるい。ゼーゼーしながら見回すと、槍を持った見張りの人が5メートルの距離でこちらを見ている。目が合ってるけど、すぐに襲いかかってこないのはいい人サイドの人だからだろうか。それとも自分も投げ飛ばされると思ってるのだろうか。とにかく、その人が動き出す前に私は城壁の縁を蹴った。さっきよりも恐怖感がない。
ふわっと体が浮いて、そしてその横をなんか黒い球体が飛んでいったのに気が付いた。何いまの、大玉転がしの玉くらいあったような、と振り返った瞬間に、強い風が吹いて体が回転する。
「わー!!」
スカートが膨らんで浮いてる想像のせいなのか。
私は風が吹くままにぐるぐると回り、そしてそのまま落下した。




