命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件16
木々に隠れて消えると、気のせいだったのかと思う。けれどじっと眺めていたら、手前に近付いた灯りを見つけることができた。
誰かが王城に向かっている。
サラフさんかな。いやもしかしたらここで働いてる誰かかも。お屋敷襲撃が成功したっていう連絡かも。でも、サラフさんたちが助けに来てくれたのかもしれない。結構移動速度がはやい。馬車じゃないのかもしれない。武器を持ってるのかな。サラフさんを捕まえたっていう知らせじゃありませんように。
両手で金属の棒を握り締めつつ灯りを見つめていると、下から怒鳴り声が聞こえてきた。
「異世界人は見つかったのか!!」
ラフィおっさんだ。
さっきまでの余裕があって高慢ちきな声とは違い、明らかに苛立ちが滲んでいた。
「申し訳ありません、全員で手分けして探しております」
「数人にやらせろ。どうせここにも犬どもが来る。まずはそれを迎え撃て。あの女は犬どもの目の前で引き裂いてやれ」
「かしこまりました」
生死問わずどころか、引き裂きエンドになった。でも逃げられて怒ってんのざまあ。
私は声の方へ向けて音を立てずにウェーと変顔をかましてからさらに何か情報がないか耳をすませる。
「そろそろ来るんじゃね〜? いくら精鋭でもあっちで壊滅は無理っしょォ」
ロベルタさんの声だ。
ラフィおっさんの近くにいるようだ。逃げないように見張ってくれてるらしい。もしサラフさんたちが来てるなら、そのまま捕まえられる。
「ラフィツニフサマも死ぬかもねェ〜どうする?」
「ふん、忌々しい顔をしおって……よし、私を守ればお前が欲しがっている情報をくれてやる。探している男については把握済みだ。サラフを殺せばそいつを捕まえてお前に渡そう」
「相変わらずいい仕事すんなァ。まァアイツらの実力は把握してるから、護衛は任せとけッて」
お——いちょっとなんかロベルタさん寝返ってない?!
演技だよね?! 演技でラフィおっさんを油断させる作戦だよね?!
サラフさんたちの敵とかにならないよね?!
声を出したら1発アウトなので、私は口を閉じたまま心の中で盛大に問い質す。ロベルタさん、どっちなんだ。全然わかんないんですけど。
信じたいけど、絶対信じられるかっていうとそうじゃないし、ていうか私のロベルタさんに対する信頼とか砂粒レベルだし、でもほんとに裏切られたらサラフさんたちが危ないわけで。ロベルタさんも異世界人なんだから、この世界出身のローブ集団よりも呪力が強いわけで。
う、裏切ったら一生恨むからなロベルタさん……!! 来世でも恨むからな!!
強く念じたものの、通じたかどうかわからないままロベルタさんとラフィおっさんは下の部屋から出て行ったようだった。
ヤキモキした気持ちで棒を握り締めつつ、さらに明るくなった周囲を見回す。
チラチラ見え隠れする灯りは、こちらに近付いている。
ラフィおっさんの話からしても、こっちにお屋敷の人たちが向かっているのは間違いないようだ。だからあの灯りがサラフさんたちである可能性もそこそこある。
下を覗くと、灯りを持って移動している人たちが増えている。迎え撃てという命令を実行するためだろう。
耳に手を当てて下の音を聞いていると、なんか物騒な話が聞こえてきた。
「明かりを消せ! 奴らが突入する瞬間に全員で叩く!」
「どうせ最初に入ってくるのはサラフだ! 奴だけを狙え!!」
どうしよう。
私に何かできることは。




