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命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件7

「やー、助かった助かった。無理矢理連れてくことになると思ってたからさァ〜」

「選択権ないじゃないですか」

「バレたかァ」


 全然悪びれないロベルタさんが、窓から入って来て遠慮なく近付いてきた。

 なんとなくそんな気はしてたけど、私が嫌だと言っても連れて行くつもりだったようだ。もう最初から説明とかせずに夜に来てつれていけばよかったのに。私の悩んだ時間を返してほしい。


「まー心の準備できたっしょ? どう? なんか武器隠し持った?」

「エッ持ってないですけど」

「おい〜相手の隙見て目潰しするくらいの心積りは持っとくべきじゃねェ?」

「それも持ってないです」


 大丈夫かァと呆れられたけど、普通そんな準備をしないと思う。


「じゃあ何か武器貸してくれませんか。ナイフとか」

「ンなもん持っていったら取り上げられるけど?」

「……」


 武器を持っていかせようとしているのかそうじゃないのかはっきりしたまえ。

 ロベルタさんは何も貸してくれそうにないので、私は仕方なく部屋にあるものを物色した。石鹸やシャンプーは重いし、タオルも持っていったところで武器にはならなさそうだ。コップもあからさまに怪しい。ロウソクはポケットに入らない。ウロウロしながら考えた結果、ヘアピンを多めに髪にさしておくことにした。なんかよくわからないけど、ドラマとかでカギを開けるのに使ってるし。この世界のカギもヘアピンが通用しますように。

 それから、ごはんのときに食べきれなかった果物をひとつずつ、左右のポケットに入れておくことにした。


「え、なんでソレ?」

「……お腹空くかもしれないし……」


 特に意味はなかったしポケットが空いていたので何となく入れたのだけれど、ロベルタさんは爆笑した。私だって役に立つとは思ってないけれど、ヒーヒー言いながら笑われると流石にムッとしてしまう。この人、週一ペースでタンスの角に小指ぶつけたらいいのに。

 いいもん。これ美味しいし。地下牢とかに入れられたら絶対役に立つし。生きてる限りいつかはお腹空くし。欲しいって言われてもあげないし。

 恨みがましく眺めていると、ロベルタさんがようやく笑いを収めた。


「はー笑った。じゃー行くかァ」

「……」


 手を差し出されたけれど、癪なので自分の手を乗せるんじゃなくて近付くだけにしておいた。ロベルタさんは気分を損ねた風でもなく、開けた窓の方に戻っていく。


「え、ちょっと待ってください。私そんなとこから降りられないんですけど」

「ヘーキヘーキ」

「全然ヘーキじゃないし、ドアあるし玄関から出ますし」

「ハイハイ静かにしようぜ〜」

「ギャッ!」


 嫌な予感を察知してドアへ飛び付こうとした私を、ロベルタさんは長い腕であっさりと捕獲した。そしてそのまま担ぎ上げられる。ひょろ長い体のどこにそんな力隠してるんですか。ていうか担がれるとお腹が割と痛い。


「ちょ、降ろし……いたっ」

「暴れるとぶつかんよォ?」

「もうぶつかってるしっていうか怖っ!! 高っ!!」

「ほらほら落とすからじっとしてェ〜」


 星が輝く夜に、気持ちいい風が吹く。担がれたまま、地面がかすかに見えるくらいの暗闇を見下ろしてしまった私は、暴れるのをやめて慌ててロベルタさんにしがみついた。


「ちょっと〜下見えないんだけどォ〜」

「落ちたら絶対許さない!! 死んでも恨んでやる!!」

「いや死んだら恨めないっつの」


 ケラケラ笑いながら、私を担いだロベルタさんが壁を降りていく。ハシゴでもあるかのように手足を交互に動かしているけれど、私が見下ろす限り、特に避難はしごみたいなものはついていない。ただの外壁である。何、ロベルタさんって怪しげなクモに噛まれたせいで特異な能力が開花したタイプの異世界人なの。なんかそれ私の世界と近い気がする。


「とうちゃーく」

「ヴッ!!」


 最後の2メートル弱をジャンプして着地したため、担がれている私のお腹には大ダメージだった。夕食が出てきたら恨んでやる。降ろされたのでお腹をさすりつつ睨むけれど、薄闇のなかのロベルタさんはニヤニヤしているままだった。


「ん〜あっちだっけかァ〜」

「ちょっと、もっと力緩めてください。ロベルタさんに掴まれると腕痛いです」

「ロブって呼んでもいいよォ」


 異世界に来てからというもの人に対する腰が低くなった自覚がある私でも、もうこの人に礼儀正しくするのなんか嫌になってきたぞ。私の手首を掴んできたロベルタさんをペチペチ叩いて主張すると、返事はズレていたけれど力は緩めてくれた。星と遠くの灯りだけが見える中を、手を引かれるがままに歩く。振り向くと、お屋敷の窓から明かりが漏れている。サラフさんは今頃、晩ごはんを食べている頃だろうか。

 石畳を外れてさくさくと芝生の上を歩いていると、なんだか不安になってきた。


「……あの、ロベルタさん。私が行ったら、サラフさんは大丈夫なんですよね? 暗殺されないんですよね?」

「さあなァ。あのクソジジイのことだから、約束破るかもなァ」

「ダメじゃないですか!」

「まぁ、交渉次第じゃね? ユキちゃんが丁寧にオネガイすれば聞いてくれるかもしれねェじゃん?」


 私がラなんとかさんのとこに連れていかれたら、それを口実にサラフさんたちが攻め込んでラなんとかさんを捕まえられるかもしれない。それだけでも意味はあるのかもしれないけども、でもサラフさんの危険が全然減ってないじゃないか。


「ロベルタさんが交渉してくださいよ! 言い出しっぺなんだから!」

「ンなに怒んなよォ〜、俺も隙があればラフィツニフ捕まえるつもりだからさァ。成功率低いけど」

「サラフさんに何かあったら、怒りますからね。ラなんとかさんにロベルタさんがスパイだってチクりますから。」

「こえーこえー」


 ケラケラ笑うロベルタさんの声を聞きながら、私はまた後ろを振り返った。

 本当にこれでよかったんだろうか。

 サラフさん、サラフさんじゃなくてもいいから、誰かが助けに来てくれるだろうか。サラフさんが無事でいられるだろうか。

 モヤモヤしつつ歩いて、やがてロベルタさんと私は木に隠れるように置いてあった馬車に乗った。






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― 新着の感想 ―
[一言] バイトとはいえ仕事しているイイ年のニンゲンが 報連相が全くできていない件について
[一言] これ、ちっこい子が「お父さんお母さんに言ったらヒドいことになるぞ」っていわれて黙ってついてくダメなパターンじゃないですか〜
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