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命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件5

 実力とカリスマ性のあるサラフさんは、異世界人保護のために活動し、成果を上げている。これまで庇護してくれる組織がなくて人権丸無視にされてきた異世界人は、サラフさんたちのおかげで危険から逃れられているし、人身売買をするような悪い組織をどんどん潰しているので治安も良くなっているだろう。

 かけがえのない人だというのはわかる。

 わかるんだけども。


「何でそこで私が出てくるんですかっ!」

「アレ〜ユキちゃん元気な声出せるんじゃん。ビビってるよりそっちの方がいんじゃね?」

「いや聞きたいのそこじゃないですし」


 ロベルタさんによると、サラフさんと敵対しているラなんとかは、本格的にサラフさんとサラフさん率いる組織を潰そうと考えているらしい。王城には異世界人保護に賛成している偉い人もいるけれど、その価値の高さから異世界人を利用したい人も少なくはないそうだ。


「総長さえ潰せばあとはどうにでもなるからなァ」

「でも、ここはサラフさん以外にも呪力が高めの異世界人が多いんですよね」

「ンなこと言っても、無尽蔵ってわけでもねェからさ〜、長期間攻められたらさすがにムリだって。大勢に対して壊滅的攻撃できンのは総長くらいなの」


 このお屋敷にいる人たちも呪力が高くて強い人が多いけれど、ダントツで呪力も戦闘能力も強いのはサラフさんだ。この世界の人たちは12歳のサラフさんを押さえ込むのにも数日を要したくらいである。

 逆にいうと、サラフさんほど手こずるような異世界人はいない。だから悪い人たちは、サラフさんさえいなくなってしまえばあとは前の異世界人が売買できる地獄みたいな状況に戻せると思っているようだ。

 それは困る。全異世界人が困る。そしてそうなればロベルタさんも追っている相手が探せなくなるので困るらしい。


「……で、でも、私をその人に渡したところで、どうせ攻撃する気なんじゃ」

「それがそうでもないんだよなァ〜。ユキちゃんがアッチに渡れば、こっちも攻撃できる口実ができるワケよ。そしたら先制して叩いて襲撃阻止できるし、ついでにラフィツニフも捕縛できるかもじゃね?」

「うぅ……」


 悔しいけれど、ちょっと納得しかけてしまった。

 このまま私がこのお屋敷にいれば、サラフさんたちはラなんとかさんのところに踏み込む口実がない。襲撃してくると知っていても迎撃するしかないのだ。私が人質というか囮というかそんな感じでラなんとかさんのところに連れていかれたら、異世界人の保護を名目にサラフさんたちが踏み込んでいける。そうしたら、法の番人として尻尾を掴ませなかったラなんとかさんを堂々と逮捕できるかもしれない。

 いい作戦だとは思うけども。


「……あの、私、身を守る手段がゼロなんですけど」

「まさかここまで上達しないとはなァ〜」

「足も遅いし、呪力もロウソク点火しかできないんですけど」

「まー、いざ捕まってみたら覚醒するかもじゃん?」


 そんな気軽にミラクルが起こると思わないでほしい。


「協力したいのは山々ですけど……」

「ユキちゃんさァ〜」

「ウッ」


 ガシッと肩に腕を乗せられ、その重さに体が傾く。私は慌てて踏ん張りながら、耳元に囁かれた声を聞いた。


「協力してくれなかったら、『大好きなサラフさん』が死んじゃうかもなァ〜」

「……」

「襲撃は明日だから、夜中までにどうするか決めといて。サラフさんを見殺しにして自分を守るか、自分を囮にサラフさんを助けるか」


 肩にかかる重さがパッと消えて、ロベルタさんが「じゃー後でなァ」とそのまま窓から出て行ってしまった。開けっ放しになった窓から涼しい風が入ってくるのをぼんやりと眺める。


 明日、サラフさんは襲撃される。

 大勢の人がやってくるのだろうか。このお屋敷の人たちを攻撃するために。

 普通では敵わないと知っているサラフさんを暗殺するために、どれほどの規模の人が来るのだろう。


 コンコンとドアをノックする音が聞こえて、肩がビクッと震えた。

 ドアの方を見ると、同時にドアノブが動く。開いた隙間から見えた姿が小柄な黒髪だったので、私はほっと息を吐いてしまった。


「ガヨさん……」

「ユキ、朝ごはん」

「もう静かになったんですね」


 音もなく部屋に入ってきたガヨさんが頷き、それから私を見上げて少し首を傾げた。


「顔色悪い?」

「あ、えーと、練習頑張ったから……ですかね」


 誤魔化してしまった。今あったことをそのまま言えばよかったのに。

 でも、相談したらなんて言われるだろう。

 まだ呪力も体力も全然ダメなんだから、やるべきじゃないって言われるだろうか。

 サラフさんのために、それでもやるべきって言われるだろうか。


「……ガヨさん」


 大きく息を吸って、ゆっくり吐いてからガヨさんを見つめる。


「お願いがあるんですけど」






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