命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件4
「……う、」
「ウ?」
「嘘だっ!」
「嘘じゃねェんだなァこれが〜」
腕を掴まれたまま私が睨むと、ロベルタさんがニヤニヤと笑った。
「なんでロベルタさんがそんなの知ってんですか、スパイじゃないですか」
「そうなんだよねェ〜俺、ラフィツニフに雇われてココの情報流してんの」
「エッ?! す、スパイがいますー! 皆さーん!!」
「静かにしろって」
暴れつつ声を上げたけれど、ロベルタさんの腕は振り解けないどころか反対の手で口も塞がれた。やばい正体を知ったせいで口封じされるのか。勝手に自供しただけなのに。
大きい手に口を塞がれたままムームーと抗議すると、ロベルタさんが「あんまり騒ぐなら鼻も塞ごっか?」と軽いノリで言ってきたので私は一瞬で大人しくなった。この人なら本気でやりそう。
「まー落ち着けって。上の奴らは大体知ってるっつの。ラフィツニフの情報もちょいちょいこっちに流してるしー。だからいいスパイなの、俺は」
いや、より悪いスパイです。
二重スパイのほうがより悪質だと思います。
私の口を塞いでいる手をぽんぽん叩くと、ロベルタさんはあっさり放してくれた。たぶんいつでも捕まえられるからだろう。
「……あの、それを私に言うっていうことは、あれなんですよね。ロベルタさんは本当はこっち側の人なんですよね。サラフさんの味方なんですよね」
「いや別にィ〜?」
「えええええ」
何なのこの人。意図が理解できなさすぎて怖い。
あと絶対私がドン引きしている様子を楽しんでる。ニヤニヤが腹立つけれど怖いから反撃できない。
「俺はねェ〜、ここに来たときに俺を捕まえて大事なもん盗って殺そうとした奴を探してんだよね〜」
「エッ、あれ、ていうことはロベルタさんも異世界人?」
「そう言ったっしょ。ユキちゃんてば物忘れ激し〜」
最初に会ったときに確かにそう言ってたけれど、まさか本当だったとは。なんかおちゃらけてたしてっきり冗談だと思ってた。
ロベルタさんもこの世界に来てすぐに、私やサラフさんたちと同じように呪力目当ての人たちに捕まったらしい。そう考えるとちょっと可哀想だ。
「総長に拾われてある程度捕まえたんだけどさ〜、でも盗ったもん帰ってこないしやっぱ攻撃してきた奴は全員見つけて殺したいじゃん?」
前言撤回。全然可哀想じゃなかった。あまりにも殺意が強い。
「で、そいつら見つけてくれるなら〜、総長でもラフィツニフでもどっちでもいいんだよねェ」
「ええぇ……」
ロベルタさんは、異世界人を保護して異世界人を狙う人を撲滅しようとするサラフさんとも、異世界人を使って金儲けしようと企むラなんとかさんとも違った目的のために生きているようだ。探している人たちを探すために、どっちも都合の良いところだけ利用しているらしい。自分に有利であれば味方すると決めているようだ。
「そ、それはどうかと」
「ちなみに総長は全部知ってっからね〜」
知ってればいいってものなのだろうか。謎。サラフさんたちがそれでいいと思ってるなら問題ないのかもしれないけれど、凡人の私にはちょっと難しすぎた。ロベルタさんの得体の知れなさは、二重スパイをしているせいなのかもしれない。
「んで、ラフィツニフ側は近いうち総長暗殺するんだってェ。まーウチの組織って奴らには目障り極まりないから今までもちょいちょい攻撃してきてたけど、今回は呪力持ってる奴ら相当集めてるっぽいよ」
「それ本当ならやばいじゃないですか」
「だろ〜? 俺も流石に困るからさー、どうにか回避したいなって考えたんだよねェ」
人情が数値化されるならマイナスに振り切ってそうなロベルタさんも、サラフさんが殺されるのは阻止したいようだ。自分の仇を探すためかもしれないけれど、そうだとしても防ごうとする判断をしてくれてよかった。サラフさんが殺されるとか考えるだけでも嫌だ。
「で、何か方法はあったんですか」
「ユキちゃん」
「はい」
「イヤだから、ユキちゃん」
細長い人差し指が、私の眉間を指した。
「健康で無抵抗な異世界人持ってけば、ある程度手加減してくれるってさ〜」
………………。
「なんでやねん!!!」
私はこのとき、この世界に来て初めて、全力をあげて人にツッコミを入れてしまった。
 




