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命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件3

 小さい窓枠に長い手足を器用に通したロベルタさんが、身軽な動作で床に足を付いた。


「あー疲れたァ〜」


 わざとらしく声を上げながら、肩を回しつつ近付いてくる。


「あちこち行かされてさァ〜もう休む暇もないっての。ヒドイと思わねェ?」

「……お、お疲れ様です……」

「なァんで逃げんだよ」


 あなたが近付いてくるからです。と心の中で答えつつ。私は椅子から立ち上がり、テーブルを間に挟むようにして近付いてきたロベルタさんと距離をとった。

 ロベルタさんもサラフさんの部下として、この異世界人を保護したり人身売買集団を撲滅したりする組織で働いている。なので、基本的には味方のはずなのだけれども。


「ちょ〜止まれってェ」

「いえ、あの、追いかけてこないでほしいんですけど」


 初対面の時から、割とロベルタさんとは仲良くなれる気配がしなかった。というか、近付くと大体絡まれたり追いかけられたりと嬉しくないことになるので、お屋敷でなるべく出会いたくない人ナンバーワンだった。


「ひでぇなァ〜。総長にはあんなにベタベタしてるくせに」

「べ、ベタベタはしてないです……」


 テーブルを回り込んで近付こうとするロベルタさんに距離を詰められないように、私もカニ歩きをしながらテーブルの外周を回る。ニヤニヤとわらったロベルタさんは、歩く速度を早めたり反対向きに歩き出したりと明らかに楽しみながらフェイントをかけてきていた。小学生の鬼ごっこか。


「あの、何か用ですか。サラフさん今出てらっしゃいますよ」

「ンなの見りゃ分かるっつの〜。獲物ちゃんに用があったんだよォ〜」


 イヤな予感しかしないんですけど。

 ニヤニヤしながら私を見下ろすロベルタさん、色味も相まってか背中に悪魔の羽とか生えてても違和感ないように見えてしまう。


「あの、何の用ですか。ていうか獲物って呼ぶのやめてくれませんか」

「じゃぁ本名教えて〜」

「ユキですよろしくお願いします」

「それ本名じゃねえじゃん」

「本名ですよ」


 一部ですけど、というのは心の中で呟いた。この世界では、フルネームを入手するとなんか呪力的なアレで強制的に従わせたりできるという恐ろしい仕様があるらしい。それを知っていてホイホイ本名を明かしたりなんかするわけないのに、ロベルタさんは前々からちょくちょく本名を聞き出そうとしてくるのだ。


「じゃあユキちゃん〜。ちょっと一緒に遊びに行かね?」

「……遠慮します」

「遠慮すんなって〜すぐそこだから」


 テーブルの周りを時計回りにぐるぐるしつつ、ロベルタさんはニヤニヤ誘ってきた。

 相変わらず突拍子もない人だ。


「すぐそこってどこですか」

「王城〜」


 全然すぐそこじゃないし。

 ていうか危険度最高スポットだし。

 人攫い集団の黒幕が潜んでいるともっぱらの噂だし。

 異世界人が気軽に行ったら帰ってこれなくなる可能性高めエリアだし。


 ムリムリムリムリと私が繰り返しながらぐるぐる歩くと、ロベルタさんが何でだよォと笑いながらぐるぐる付いてくる。何でだもクソもないんですけど。この人には憐れみってもんがないのか。


「あの、囮役の件だったら、私個人としては可能なら手伝いたいとは思っていまして……今呪力とかそういうのを鋭意練習中なので、お問い合わせはカイさんかサラフさんにして頂けたらと」

「そういうわけにもいかないンだよねェ〜よっこいしょ」

「ウワッ」


 ロベルタさんがテーブルに手を付き、離れていた直径分の距離をいきなり詰めてきた。ぶつかりそうになって立ち止まり、慌てて逃げようとするけれど、二の腕を掴まれて阻止される。


「な〜ユキちゃん〜イイコト教えてやろっか〜?」

「いえいらないです……」

「ここだけの話な、ラフィツニフは本気で総長暗殺するつもりらしいぜ」


 ロベルタさんが囁いた言葉は、案の定、全然イイコトではなかった。






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