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命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件1

 褐色の肌に蜂蜜みたいな金色の髪。濃くて鮮やかな青い目の、強くて鋭い視線。


「おい」

「ハイッ」

「もうできるようになったのか」

「ナッテマセンッ」


 褐色の手が無言で私の頭をガシッと掴んだ。握力で伝わる感情すごい。


 サラフさんがこの世界で無双する前に王様だった件を知ってから1週間くらい。私はついついサラフさんを見つめてしまうようになった。

 最初は王様とかスケールが大きすぎてよくわからなかったけれど、でも、よく考えるとなんかわかる気がする。


 サラフさんのとんでもない強さと存在感と、あとなんかよくわからないけど安定感みたいなのは、そういうすごい生まれだったことも関係しているのかもしれない。王様になるように生まれて、しかも反乱とか起きたんだもんなあ。まだ子供のうちに。異世界に来ることだって大変だけど、それと同じかそれ以上に大変だったんだろうなあ。

 やっぱり王族だから見た目もかっこいいのかもしれない。どういう世界だったのかは知らないけど、肌の色が濃いからあったかい地域だったんだろうか。やっぱり子供の頃から許嫁とかいたのかなあ。

 とかなんとか考えていたら、ヘッドドレス越しに私の頭を掴んでいた手が顎に移動した。


「フグッ」

「てめえやる気あんのか」

「フイハヘン」


 せっかく教えてもらってるのに集中していないことがバレている。ほっぺを潰されつつ怒られてしまった。

 あの日からちょっとサラフさんとの距離が縮まったのか、何かと遠慮がなくなった気がする。怒ってるときはめちゃくちゃ怖いけれど、サラフさんの態度からはどこか気安さも感じられるのでこの毎朝の特訓時間も、なんだか賑やかで楽しいのだ。まあ怖いけど。


「仕方ねえな、もう一度やってやるから手ェ出せ」

「エッいいです」


 私がパッと距離を取ると、サラフさんが「あぁ?」と凄んだ。

 サラフさんに教えられるようになってからも、私はまだモノを浮かせる術をマスターできていなかった。練習2日目は踏ん張るだけで終わり、3日目の昨日はまた二人羽織状態で呪力を使ってサラフさんにお手本を見せてもらった。

 その二人羽織状態がなんか前にされたときよりも格段に恥ずかしく、感覚を掴むどころの話じゃなかったんである。


「何逃げてんだ」

「逃げてないです。あの、自分で、自分で頑張りますから」

「逃げてんだろ」

「逃げてないっす」


 逃げてはいない。眉の間にシワをくっきり刻んだサラフさんが近付いてくるので、私は後退するしかないんである。ほら、会話するのに最適な距離というものがあるし。サラフさんは背が高いから近付きすぎると上を向かないといけないし。

 心の中で反論しつつ、長い足で距離を詰めてくるサラフさんから離れていると、踵がゴツンとぶつかった。振り向くと髑髏と目が合う。

 やばい棚の引き戸を蹴ってしまった。

 後ろを向いて汚れとか傷とかを心配していると、おい、と声が間近から聞こえてきた。すごく近くから。思わず棚に張り付いてしまうくらいに近くから。揺らしてごめん髑髏さん。


「あ、アノー、サラフさーん、ちょっとあのー、距離が適切じゃない気がするんですけどー」

「どっち向いて喋ってんだ」

「もうちょっとこう……距離をこう……」

「こっち向け」


 サラフさんの部屋にある棚は、ガラス戸がある上部分と戸がない真ん中部分と木製の戸がある下部分に分かれている。ガラスに指紋をつけるのもアレだし、戸がない部分に置かれているものを壊したらものすごく困る。なのにサラフさんが近いせいで棚から離れられない。

 振動で髑髏さんを落とさないようになるべく動かないようにしてると、大きな手がガラスの部分に遠慮なくくっついた。指紋が!!


「照れてんのか」

「そういうサラフさんは面白がってますね?!」

「面白ぇ方が悪い」

「横暴だ! 許してください!」

「反抗してんのか従ってんのかどっちかにしろ」


 いたたまれないような気まずいような恥ずかしいような状況で慌てている私を、サラフさんは明らかに楽しんで眺めていた。悪趣味だ。


「ユキ、こっちを見ろ」


 ひゃー。

 サラフさんの声、ほんとに手加減してほしい。

 サラフさんが元王様だからなのか総長だからなのか、それとも私が意識しすぎているからなのか。低くてよく響く声に命令されたら、抗い難いものがあるのだ。棚と向き合っていた状態からゆっくりと後ろを振り向くと、やっぱり間近にサラフさんがいた。しかも笑っている。

 いつもの顔が怖い分、サラフさんが楽しそうな顔をしているとそれだけでなんか慌ててしまうからずるい。

 きっとサラフさんが王様だったら、そうやって国の美女を片っ端から落としていったんだろう。モテモテ石油王になってたんだろう。


「おい、何睨んでんだ」

「睨んでないです。呪力使う練習してるだけです」

「そうか。なら俺を持ち上げてみろ」


 私が自由自在に呪力を操れる天才になったら、サラフさんなんて軽ーく持ち上げて椅子に座らせ、さらに椅子ごと持ち上げてみせる。そして浮かせたまま廊下を滑らせて後ろ向きで階段を下りるようにしてジェットコースター体験をしてもらう。

 そう決意しながら眺めてみるも、サラフさんの体は全然持ち上がらなかった。キラキラな髪一本揺るがなかった。緊張を緩和するために視線をサラフさんの顔から胸のあたりに移動させるけれど、全然ムズムズがこない。持ち上げて椅子まで運ぶどころか、むしろ逆方向に動いている気がする。

 ちょっとサラフさんその進行方向には棚があって間に私がいるのでもう進めないんですけど。


「踏ん張るな力抜けっつってんだろ。息もしろ」


 今必死に集中しようとしてるから無理です。


「目瞑るな。呪力が使いにくくなるだろうが」


 扱いにくくなる以前の問題で全然操れてないです。


「少しは警戒心を持て」


 エッなんですか急に。


 流石に苦しくなってきたので一旦力を抜いて息を吐く。ロウソクに点火するくらいの短時間なら息を止めてても問題ないけれど、持ち上げる練習のときはやっぱり息をしないと苦しい。

 吐いた分の酸素を取り込もうと大きく息を吸うと、サラフさんのいつもの香水の匂いを思いっきり嗅いでしまってむしろなんか呼吸が難しくなった。


「ユキ」

「さ、サラフさん……」


 そんなに見ないでください。サラフさんの目の色が綺麗すぎるんで、じっと見られると全然落ち着きません。

 そう言いたいのに、やっぱり青色が綺麗すぎて私はじっとしてるしかなかった。まだ朝なのになんか汗をかきそうなほど暑い。


 サラフさん、これ以上近付いたら、くっついちゃうんですけど。


 サラフさんの影がかかって視界が暗くなったので、目を瞑ってしまう。

 心臓がこれ以上ないほどやかましく鳴っているせいで感覚がよくわからなくなるような、逆に皮膚がピリピリするほど敏感になっているようなよくわからない状態のまま、私はじっと固まっていた。


 そのままどれくらい経ったのか。

 遠くで急に大きな音がして、私は目を開けた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 状況を映像で認識しながら読んだ結果。 なに朝っぱらからイチャコラしてんだゴルァ!という嫉妬団と、ソコだ!やれっ!ぶっちゅーッといってまえ!というお見合いババァが脳内で抗争をおっぱじめました。…
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