悩ましいってレベルじゃないことが多すぎな件8
「サラフさんって、サラフさんって……王様?」
なぜか小声で聞いてしまった私に、サラフさんが軽く頷いた。
「3日だけだがな」
「3日」
「クソみたいな血族が反乱を起こして王位を継いだが、結局殺されそうになってここに来た」
「えええええ!!」
その時歴史が動いたってレベルじゃないんですけど。ていうか権力争い怖い。
「サラフさんそのとき12歳ですよね?! 12歳で王様になって命狙われて異世界きてまた命狙われて返り討ちにするってすご過ぎませんか!!」
さっきまで「なんで私だけがこんな目にー!」みたいな気持ちになってたのが吹っ飛んでしまった。どう考えてもサラフさんの方が大変な状況に遭いまくっているし激動かつ理不尽な人生を歩んでいる。そしてその理不尽を打ち負かして生きているんだからもう伝説だ。伝記とかになるレベルだ。そして後々の時代にサラフさんモチーフの漫画とか描かれてしかもアニメ化とかされてもおかしくないやつ。
唖然としてしまった私をサラフさんは面白そうに眺めている。
「あの、私は平民なんですけどなんかすいません……世が世ならおしゃべりもできなかったんでは……」
「抱き付いといて今更気にすんのか」
「えっさっ最初に抱き……アノ……グッてしたのはサラフさんじゃないですか!!」
「ユキもしがみ付いてきただろ」
「ついてないです!!」
「嘘吐け」
嘘だけど、嘘だけど!!
サラフさんの秘密ですっかり忘れてた、冷静に考えたら割と恥ずかしいことをしていた事実を思い出してしまった。しがみ付いちゃったし。背中ポンポンしてもらっちゃったし。
恥ずかしさで内心悶えていると、ガタンと音がした。
「あれ、今なんか……ウワアアア?!」
窓から生首がこちらを見ている。無表情な顔が、ゆっくりと私を見た。そして口をわずかに開いてぼそりと呟く。
「えっ、ガヨさん?!」
「朝ごはん……」
「ガヨ、てめえ窓よじ登んなっつってんだろ」
「早く」
「わかったから降りてろ」
なぜサラフさんは動じずに対応しているのだろうか。やっぱり王様だったからか。そりゃ強いはずだ。誰も敵わなくても仕方ない。てかガヨさんは前にもここの窓によじ登ってたけどちょくちょくやってるのかな。このお屋敷ではよくある光景なのかな。
こくりと頷いたガヨさんが、ご丁寧に窓を閉めてからスススと下方向へ消えていく。
「……朝ごはん、行きましょうか」
今日は色々ありすぎたせいで、まだ朝ごはん前なのにもう夜みたいな気持ちになっている。これからちゃんと鬼ごっこ練習とお仕事できるだろうか。心配になりつつドアの方を向くと、おい、とサラフさんが私を呼んだ。
「ユキ、さっきのことは誰にも言うんじゃねえ。いいな」
「はい。王様って知ったらやっぱり緊張しますもんね……」
「そうじゃねえ。てめえの呪力のことに決まってんだろ」
「アッ」
そっちか。
サラフさんがちょっと呆れた顔をしていた。だって王様の話がびっくりしすぎて霞んでたんだから仕方ないよね。
「ユキの体を通して呪力を使えばバレるが、普通はわざわざそうしてまで呪力の使い方を教えることはねえ。ここの奴が異世界人相手に呪力渡して相性が悪けりゃ寝込むからな」
「な、なるほど」
「どこから勘付かれるかわからねえから、誰にも言うな。ウチの奴らにもなるべく触られないようにしろ」
私はしっかり頷いた。こんな話、誰にも知られたくない。サラフさんから聞き出せる人なんていないだろうし、私がバラさなければそれで秘密は守られるのだ。忘れる勢いで黙っとこう。
「秘密の交換になっちゃいましたね。サラフさんの方がすごいですけど」
「もう身分なんかねえがな」
「いや、王様じゃないですか。陛下じゃないですか」
「異世界じゃ関係ねえだろ。そもそも祖国ももう潰れてる。他国が攻め込んできたからな」
「ええぇ……」
なんかまた大変なことをしれっと話すサラフさんと一緒に、私は部屋を出て食堂へと向かった。




