悩ましいってレベルじゃないことが多すぎな件6
「……どういうことですか?」
サラフさんが何を指しているのかいまいちよくわからないし、それがどういう意味になるのかは全くわからなかった。
サラフさんが言ったのは「お前の呪力をそのまま操った」だから、つまりサラフさんは私の呪力を操った、らしい。いやどういうこと。
ちんぷんかんぷんなのが顔に出ていたのか、サラフさんが難しい顔からいつもの顔に戻った。
「今、俺がユキの手を掴んでた理由はわかるか?」
「…………サラフさんの呪力を……なんかこう……私の手を通して使った……みたいな?」
「そうだ」
合ってた。
ガヨさんのときもそうだけど、サラフさんが呪力を込めると、輪ゴムを肌の上に乗せてコロコロしたみたいなムズムズ感を感じる。さっき椅子を浮かせたときの二人羽織状態のときも、掴まれた両手首のところからムズムズを感じた。前にランプを遠距離点火したときも、同じようなことをしていたし、そのときもサラフさんが掴んでいる場所がムズムズした。椅子を浮かせるのも遠距離点火も私ひとりではできなかったことなので、手を掴まれたらできたのはサラフさんが呪力を送ったことが関係していたのだろう。
「例えると、俺がユキの腕を掴んで動かしたようなもんだ」
サラフさんは、持ったままの私の手首を上下に動かした。
「今、ユキの手が動いたな。だが、ユキの力は使わず俺の力だけで動いた。他人の体を動かそうと思ったら、動かそうと思ったやつが力を入れる必要がある。わかるか?」
「はい」
サラフさんが私の手を持ち上げようとするなら、当然サラフさんが手を掴んで持ち上げることになる。
「ただこうしてただ握ってるだけなら、俺がいくら内心持ち上がれと思ってようが手は上がらねえだろ」
「そうですね、動かしてないし」
「他人を通して呪力を使うときも同じだ。ユキを使って椅子を持ち上げることもできるが、そのための呪力は俺が供給する必要がある」
サラフさんが私の手を掴んで上に持ち上げれば、私自身が何もしなくても私にバンザイさせることができる。
同じように、サラフさんが私に触れて呪力を使えば、私自身の呪力を使わなくても椅子を持ち上げることができる。
「他人の呪力が体を流れりゃ不快だが、呪力の使い方はなんとなくわかるだろ」
「ええと、ムズムズした感じは伝わってきます」
「だから稀に訓練で使われる。相性が悪いと両方ぶっ倒れることもあるがな」
呪力はそれを宿している人によって個人差があるようで、相性によっては呪力を分け合ったりできないらしい。既に呪力を分けてもらった実績があるので、私とサラフさんは呪力面ではそれほど相性が悪くはないのだ。こうして色々教えてもらえるから、相性が良くてよかった。
「で、えーと、何か問題が……?」
「ああ。今椅子を浮かせたとき、俺はお前の呪力を使った」
「……私の呪力を」
「気のせいかと思ったが、どう考えても俺は力に見合った呪力を使ってねえ。おそらく9割以上お前の呪力を使って浮かせた」
「なる……ほど……?」
何しろ自分の呪力をわかっていないので、全然実感のない話だった。とりあえず頷くと、サラフさんがジロッと私を睨む。
「わかってねえな」
「スイマセン」
「さっきの例えでいえば、こうして掴んで動かそうと考えただけで、お前自身の力を俺が使ったってことだ」
「えーとそれは……サラフさんが私を動かそうと思っただけで、私が勝手に動き出した、的な……?」
「そうだ」
普通は腹話術をしたいなら自分で動かしたり声をあてたりしないとけないところを、人形が勝手にセリフを喋り出したみたいなことだろうか。腹話術人形が勝手に喋り出したらめちゃくちゃ怖いけれど、今私はその人形側になっているわけで、しかも自覚がないのでいまいちしっくりこない。
「えーと、それは良くないことなんでしょうか」
「ユキにとっては相当な。最悪命に関わるんだぞ」
「エッ怖っ!!」
「考えてみろ。こうして触るだけでユキの呪力を勝手に使うことができるなら、使い果たすこともできるだろ」
「ほんとだ危ない!」
手を掴まれただけで、自分の体が勝手にスクワットをやりはじめたりしてしまう可能性があるということだ。15回くらいならまだいいけれど、ずっとやらされたらやばい。自分の呪力がどれくらいあるのかわかっていないけれど、どれだけ多かったとしても使い続けられたらなくなる。
「普通は相手が自らの意思で呪力を分けない限り、生きている他人の呪力を使えねえ。だが今ユキは俺に呪力を渡そうとは思ってなかったな」
「何も考えてなかったです……」
「なら恐らく、ユキの呪力と相性が悪くない限り、誰でも使えるってことだろうな」
つまり、サラフさん以外の人も同じように私の呪力を使える可能性が高いらしい。
私の呪力、誰とでも馴染みやすいとか他人に使われやすいとか、セキュリティー機能が弱過ぎやしないだろうか。




