表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/91

悩ましいってレベルじゃないことが多すぎな件2

 場所はいつもとは全然違うけれども、食事はいつも通り美味しかった。


「このお肉の煮込んだやつ、前も食べましたけどすごく美味しいですね」

「カイの得意料理だろ。上等な猪が手に入るとよく作ってる」

「まさかのジビエ料理……」


 カイさん、まさか食材調達まで自分でしているのだろうか。そういえばお屋敷からちょっと離れたところに森があるって言ってたな。

 ホロホロになるまで煮込まれたお肉を食べつつ、向かいにいるサラフさんを見る。いつも食堂で食べるときは少し離れた斜めの位置にいるので、正面に座るのは久しぶりだ。

 前もここでお昼を食べたなーと思っていると、サラフさんが私を見た。


「……えーと、今日はガヨさんとカイさんとは別々ですね」

「他人がいない方が話しやすいだろ」

「ど、どういったお話で」

「ユキがここ半月ボンヤリしてる理由だ」


 エッそんなにぼんやりしてましたっけ私。

 と言うと「そういうとこがボンヤリしてんだろうが」とか言われそうなので、私はとりあえず飲み物を飲んだ。食事にはやっぱりお茶だ。


「てめえまさか囮になろうと思ってんじゃねえだろうな」

「ゴフッ」


 お茶が気管に入った。


「……エッ、ソ、ソレハドウイウ……」

「忘れろっつったのにカイから事情を聞き出したのは知ってる」

「?!」


 今私はお茶のせいで涙目になっているけれど、別の意味でも涙目になりたい気分だった。

 バレている。

 なんとか呼吸を整えてサラフさんを見ると、表情も変えずにこちらを見ていたサラフさんがお茶を注いでくれた。ありがとうございます。


「あの……ごめんなさい。ダメって言われてたのに」


 この組織が設立されるまでの経緯なんて、サラフさんにとってはあまり思い出したくないことだろう。それを勝手に首を突っ込んで第三者から勝手に聞いていたのだから、面白くないのは当然だ。ロベルタさんが言っていた囮にするという意味について、詳しく聞いたらそういう話になるからこそサラフさんは「忘れろ」と言ったのかもしれない。


「言っとくが、ユキがどう考えようが、囮に使うことはしねえ。だから無駄な努力はやめとけ」

「む、無駄な努力といいますと」

「夜中に呪力の練習してるだろ」

「ウッ」

「寝不足の上に変に悩んでるから、食事中に魂飛ばしたような顔したり突っ立って動かなくなるんだろうが」

「ウゥ……」


 自主練習のことまでバレているとは思わなかった。

 呪力を使って物を持ち上げる練習が全く成果に繋がっていないので、カイさんに教えてもらう時間以外にも、寝る前にひとりで練習していたのだ。ついつい練習に熱が入りすぎて、気が付いたら窓の向こうがちょっと明るくなっていて慌ててベッドに入ったりしていた。なるべくいつも通りに過ごしていた筈なのに、サラフさんにはお見通しだったようだ。さすが総長。


「えーと、ただ上達したかっただけで、その、囮とかになろうとは……」

「あぁ?」

「なろうとは……考えてませんでした……ち、ちょっとしか」

「考えてんじゃねえか」


 サラフさんに凄まれると抵抗できない。迫力がすごい。

 そして迫力がすごい視線が突き刺さり続けるので、私は大人しく自供することにした。


「あの……呪力を色々使えるようになったら、お、囮もできるかなーって……今のままだと弱すぎてダメなんだったら、こう、訓練したらいけるのかなって思ったといいますか」

「……」

「サラフさんがずっと追いかけてる、ラ……ラなんとかさんを捕まえるチャンスなのに、その、私のせいでチャンスが減るのはどうなのかなって」


 カイさんは捕まえるチャンスはまたくるとか言っていたけれど、実力のあるサラフさんたちが15年も捕まえ損なっていたのだから、やっぱりそのチャンスは簡単に巡ってくるものじゃない気がする。だからこそ、ロベルタさんも私を囮にすべきだと言ったのだろうし。


 私が地下牢で何もできなかったという情報が知られているなら、王城に行く前に呪力を色々使えるようになったら、むしろ私を囮にすることで相手を油断させて捕まえるチャンスが増えるかもしれない。

 ……と思いついたときは我ながらいいアイデアだと思ったんだけども。


「で、囮になってもいいと思えるくらい上達したのか」

「してないです……」


 もうこれがびっくりするほど上達してない。ロウソクやランプに点火するのはちょっと上達して、2メートルくらいの距離であれば離れて点けられるようになったけれど、それだけだ。物を持ち上げるのは全くできるきざしもないし、他にカイさんから教えてもらった簡単テクの「やんわり風を起こす」というのも全くできていない。毎日毎晩カップと睨めっこしたり、花瓶に入った花を揺らそうとしてみたりしているけれど、それがほんの少しだけでも成功したことはなかった。


 こんな状態では囮役を申し出るどころか、ただ届出のために王城に行くことさえ無理なレベルの気がする。

 我ながら不出来っぷりが悲しかったので、それもあって秘密にしていたはずなのだけれども。バレていたので余計に恥ずかしい。


「色々言いてえことはあるが、とりあえず睡眠は削るな。呪力を使えねえ異世界人が使えるようになるには時間がかかるが、使い方の理解の問題であって、ただ練習すりゃいいわけじゃねえ」

「すみません」

「小せえが火は使えるんだから、そのうち他もできるようになる。くだらねえ目的なんか忘れろ」

「……くだらなくないです」


 私が呟くと、ああ? と迫力のある声が聞き返してきた。

 手の中のパンからサラフさんに視線を移動させると、青い目と目が合う。


「サラフさんがずっと捕まえたかった相手が、捕まえられるかもしれないんだから、全然くだらなくはないです」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ