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悩ましいってレベルじゃないことが多すぎな件1

 そう、あのときは頷きはしたけれど。


「……」


 開いた窓に手を掛けて、薄暗くなってきた庭を見下ろす。

 毎日暮らしていくうちに、だんだんとここのことがわかってきた。


 色とりどりに咲く美しい花の間、等間隔に立っているのは、このお屋敷の警備の人たちだ。見えないけれど、お屋敷からかなり離れた場所まで見張りの人たちがいるらしい。このお屋敷はかなり厳重に警備されていて、そしてそれでも、襲ってくる人たちはいるらしい。

 この世界にもカイさんのように呪力が多めの人たちはいて、呪力を使った戦いは、当然ながら普通の戦いよりも危険なのだそうだ。一度だけ、怪我をしている人が帰ってきてお屋敷がバタバタしていたことがある。


 ぼんやりと庭を見下ろしていると、警備をしている人のひとりが気付いて手を振ってくれた。手を振りかえすと、他の人たちもこちらを見上げて挨拶してくれる。みんなに手を振ってから窓を閉め、カーテンを閉めてからふう、と溜息を吐いた。


「おい」

「ギャッ?!」


 不意打ちに後ろから聞こえてきた声に文字通り飛び上がって驚いたせいで、おでこを窓にぶつけてしまった。カーテン越しといえども痛い。手でおでこを押さえて痛みに耐えていると「何やってる」の言葉と共に大きな手が私を振り向かせた。


「びっくりしすぎました……」

「見せてみろ」


 私の後ろにいたのは、予想通りサラフさんだった。若干呆れた顔になっている。おでこにあてていた手を掴んで横に離され、青い目がよく見えるようになった。視線がおでこに刺さっている。手を握られたまま待つのは、かなりソワソワした。


「アザにはならねえだろ」

「よ、よかったです」


 たまにカイさんが服装によって前髪をアップにした髪型を指定してきたりするので、おでこに青アザができたら恥ずかしすぎるところだった。

 ホッとしたものの、数秒後に私は首を傾げたくなった。

 サラフさんが、私の手を掴んだまま離してくれないんですけど。


「……あの、サラフさん、何か用事ですか?」

「ああ、メシだ」

「あ、今日は早めなんですね。窓も閉め終わったので、もう行きま」

「来い」

「ハイ」


 じっと私を見下ろしていたサラフさんは、手を握ったまま方向を変え、廊下を歩き始めた。一旦寄ろうかなと思っていた自分の部屋がぐんぐん遠くなっていく。そして廊下の中間にある階段に差し掛かってもサラフさんは曲がろうとせず、そのまま廊下を進んでいく。手を握られているので、私もついていくしかない。


「あの、サラフさん? ご飯の時間では?」

「ああ」

「……そっちはサラフさんのお部屋では?」

「そうだな」

「……」


 どういうことなの。

 問い質す前に、廊下の端っこから端っこまで到達してしまった。同じ階って便利だな〜。

 私の手の代わりにドアノブを握ったサラフさんが私を見た。


「今日はここで食うぞ」

「……お邪魔します」


 さっきカイさんに仕事の指示をもらった時には特に何も聞いてなかったんだけども。

 青い目の圧力に早々に屈し、私は豪華な部屋に入れてもらうことにした。


 お屋敷の個室は基本的に、しっかりした食事を食べる用の部屋ではない。ベッドあるし。朝食のような簡単な食事ならちょくちょくガヨさんと一緒に私の部屋でも食べたりしているけれど、何皿も出てくるような夕食は食堂で食べるものだった。単純にテーブルの大きさの問題である。

 しかしサラフさんの部屋に入ると、そこにはしっかりと夕食の準備がされていた。

 パンに前菜にメインディッシュにサラダにスープ。そして飲み物。

 私の部屋よりも断然豪華なテーブルと、その隣に置かれた天板が大理石っぽいカートによって、ガッツリ食事がきちんと並べられていたのである。


「これ、サラフさんが準備したんですか?」

「そうだ。毒なんか入れてねえから安心しろ」

「それは疑ってもないですよ……」


 カートを運んでテーブルにお皿をセットしているサラフさんを想像してみた。ちょっと見てみたかった。


「声を掛けてくれたらお手伝いしたのに」

「ユキが廊下で上向いて突っ立ってる間に階段2往復したが」

「エッ全然気が付きませんでしたすみません」


 窓を開ける前に、廊下のランプに火を灯していたので、その間に準備していたようだ。全然気付かなかった。カートを持ち上げながら音ひとつ立てないとは、サラフさん流石に隠密が過ぎるのではないだろうか。


「言っとくが、ユキがボンヤリしてただけだからな」

「ぼ、ボンヤリはして……ないとは思いますけど」

「そう思える時点で相当ボンヤリしてるぞ」


 椅子を指されて、サラフさんと向かい合って座りながらちょっと悩む。そんなにボーッとしているだろうか。


「さっきもボンヤリしてて頭ぶつけてただろうが」


 ぐうの音も出ない。

 あれはサラフさんに驚いた結果だけど、そもそも声を掛けられるまで気がつかなかったからやっぱりボンヤリしてたのかもしれない。

 ここでの暮らしに慣れてきて気が緩んでいるんだろうか。最初はビクビクしまくっていたことを考えると、私も図太くなったものである。

 しっかりせねばと思いつつ、いただきますと手を合わせた。






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