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難しいのは仕事だけじゃない件6

「総長……いえ、サラフがこの世界に来たのは15年前。彼がまだ12の頃です」


 カイさんが話し始めるなり、私は再び素っ頓狂な声を出すのを堪えるので精一杯になった。

 サラフさん、27歳なのか。ていうか、12歳で来たって。


「サラフさん、そんな子供の頃に異世界に来たんですか」

「ええ。今でこそ大男でも素手で倒せるくらいの男ですが、流石に昔はそうではなく」

「色々とすごい」

「彼もここへ来るなり捕らえられたのです。あなたや、その頃の異世界人の多くと同じに」


 このお屋敷に子供がいないせいだろうか。私がそうだったように、ただ漠然と、他の異世界人の人も大人の状態でやってきたと思っていた。そうじゃなかったようだ。

 12歳なんて、小学校6年生とかそれくらいだ。それなのにいきなり親元を離れて、それどころか全く知らない世界に来てしまって、人攫いに捕まるなんてどれだけ辛かっただろう。大学生の私だって心細かったのに。


「幸いにも、彼はその頃から呪力が高かった。髪を切られたり多少の怪我はしたようですが、己の力で周囲の人間を倒して生き残った」

「よかった……って言っていいのかわからないですけど、よかった」

「ちなみにそうやって周囲の人間全員を敵と思い込み常時臨戦態勢の危険な存在として立っていたサラフを見たのが、私と彼との出会いでした」

「思い出ってレベルじゃないですね」


 呪力が飛び抜けて多いサラフさんがブチギレてしまい、その人攫い集団の隠れ家は壊滅状態になったらしい。物理的な意味で。危険なので取り押さえようとするものの普通に近付けば倒されるし、サラフさんを取り押さえられるような呪力を持つ人もいないしで、結局サラフさん本人を説得するまで3日くらいかかったそうだ。当時のカイさんはその説得部隊にいたらしい。


「あの、カイさんっておいくつなんですか?」

「私は35ですが」

「えっ?!」

「どういう意味です、そのエッは」


 じろっと睨まれたので、私はスミマセンと首をすくめた。

 思っていたよりも年上だったような、そう言われてみればそう見えるような、その年にしてはお屋敷を取り仕切ってるのはすごいような。カイさんはピシッとしていて丁寧な物腰なので、そもそも年齢を感じさせない男性だ。


「えーと、じゃあその当時もカイさんはもう大人だったんですね」

「ええ。街の治安維持に関わる部隊に配属されたばかりだったのですが、上はサラフを捕らえろと無茶を言うし、そもそもの元凶である彼を売り捌こうとした者はもう倒れてるので怒りのおさめどころも見つからないしで、大変苦労しました」

「お、お疲れ様です」

「ところが事態はそれで終わらなかったのです。その当時は異世界人の扱いについて問題にはなっていましたが、異世界人を保護するための法律も人員もまったく整えられていなかった。そのためサラフを罪人として引き立ててその実うまいこと儲けようとする者が絶えなかったわけです」

「ええぇ……」


 いきなり異世界に来たと思ったら危ない目に遭って、反撃したら罪人扱いとか、流石にどうかと思う。

 私がそう言うと、カイさんも頷いた。しかしこの国を運営している貴族の人たちは当然この世界出身の人なわけでそもそも異世界人の保護に積極的に動く人がほとんどおらず、国民の関心もさほどなかったようだ。わからないでもないけど異世界人目線では完全に地獄である。


「そのため、彼をどこに留置しておくかで揉め、また狙うものが出て、サラフがそれに反撃してまた悲惨なことになったり、異世界人の扱いの現状を知ったサラフがさらに暴れたり、実質内乱状態になったために周辺国が動き出そうとしてきたり……と2年くらいは国が荒れまして」

「す、スゴイデスネ……」

「結果、我々はサラフを筆頭に、異世界人に対する保護を国に求め、また異世界人を狙う者をはじめとした犯罪者集団の撲滅を目的として活動するための組織となったのです」

「おおー」


 パチパチと拍手するとカイさんがちょっとドヤ顔になった。この世界の全員大体敵みたいな状態のサラフさんが異世界人保護活動のリーダーになるのだから、そこに到達するまでのカイさんの苦労は多大なものだっただろうなあ。サラフさんの説得はもちろんのこと、組織を結成するためには王城やらに働きかけたりもしなきゃいけなかっただろうし。


「あれ、ということは、サラフさんたちは国公認の異世界人保護団体なんですか? じゃあやっぱりいい組織なんじゃ」

「いい、の定義と主観によりますね。異世界人からすれば我々は正義でしょうが、王城からはむしろ呪力の高い異世界人を取り込んで勢力を拡大していると睨まれていますし、売人共は極悪人だと思ってますし」

「あ、そうか。王城の人たちがいい人じゃないというか、ぶっちゃけ悪いことしてる人もいるから、王城に関係してたらいい団体ってわけでもないんですね」


 政府からのお墨付きとかいうとなんかよさそうに感じるけれど、それはその政府が信頼できるからそう思うのであって、そもそも政府が悪いことしてたらそのお墨付きを貰ったらむしろ怪しいのだ。


「ユキの暮らしていた世界では、上に立つ者が良識的な判断をしていたのですね」

「いやぁ……汚職事件とかもあるし絶対にそうだったかどうかわからないですけど、でも、色んな国がお互いを監視しているので、抜きん出て悪いことはしにくい社会になってたかもしれません」


 昔は差別やら迫害やらもあちこちであっただろうけれど、現代社会では国がそれをしようとしたら、世界中から非難されてしまう。実際の生活はまた別かもしれないけど、政府が大っぴらに悪いことをするような国はあんまりないはずだ。良識的というか、戦争の火種にならないような行動を心がけた結果といった方がいいかもしれない。とはいっても、この国の異世界人事情を考えたら、どんな理由であっても悪いことしないのはとてもいいことだと思うけれども。


「私は異世界人だし、助けてもらったからというのもあるけれど、それを抜きにしてもサラフさんやカイさんたちのやっていることは良いことだと思います。誰かを守るために行動するのは大変なことだと思うので」

「たとえそれがときに暴力的な手段になろうとも?」

「ウ……そ、その辺はちょっと判断しかねますけども……」


 私が怯むと、カイさんがクスッと笑った。


「そこで頷けたら、反撃のための抑制が薄れそうな気がしたんですけどねえ」

「スイマセン……」

「いえ、その方がいいのでしょう。我々の組織の最終目的は、どのような力もない異世界人であっても平和に暮らせることですから」


 壮大でいい目的だ。実現してほしいなと思いながら頷いていると、カイさんは「しかし」と続けた。


「サラフ自身がここに所属している目的は、もっと個人的なものです」






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