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世の中物騒だと覚えることがたくさんある件5

「ユキは大丈夫」


 ガヨさんにそっと話し掛けられて、ちぎったパンを見つめながら考え込んでいたことに気付いた。


「教える」

「ガヨさん……ありがとうございます」

「寝ないでやればすぐできる」


 寝かせてほしい。少なくとも毎日6時間は確実に寝かせてほしい。理想をいえば8時間くらい寝かせていただきたい。

 私が返事に困っているとサラフさんと目が合った。


「……ちゃんと寝ろ。呪力分けたらできたんだ、そのうちできるようになるだろ」

「あ、ありがとうございます、そう言ってもらえると安心です」


 ナイスアドバイス、サラフさん。できるとわかってるなら安心して寝られます。

 そうだよねという意味を込めて隣を見ると、ガヨさんはパンをちぎっては口に入れちぎっては口に入れを繰り返していた。これ聞いてなかったんじゃ。

 寝られる程度にしてとお願いしようとしていたら、私よりカイさんが先に口を開いた。


「先程も言っていましたが、本当に呪力を分けてもらったのですか? 総長に?」

「あ、ハイ」

「ほう……」


 ほう、ってなんですか。

 片眉を上げたカイさんにまじまじと見つめられたので、なんだかソワソワする。


「あの、トイレとかに必要なので……ガヨさんにも分けてもらいました」

「それはそれは」


 それはそれはってどれなんですか。

 感心しているようなちょっと驚いているようなカイさんの反応は、どう受け止めたらいいのか私にはサッパリわからなかった。


「……誰かに呪力を分けてもらうのって、ダメなんですか?」

「ダメではありませんが、相性が悪ければ不具合が出ますね」

「ふ、不具合……」


 どういう不具合だろう。手を重ねるとブザーが鳴るとかだろうか。それともトイレのドアが高速で開閉するようになるとかだろうか。


「特に呪力の高いもの同士が分け合えば反発が多いものですが、両方とも大丈夫とは相当ですね」

「あの、それっていいこと……ですよね?」

「ええ。呪力の抵抗が少なければ少ないほど重宝されますから」


 材料として、とカイさんがサラッと言った。

 それいいことじゃない。アウトなことだ。そんなオプションいらないやつだ。

 なんだろう、血液型でいうとO型みたいなものだろうか。

 そんなオプションよりも、すぐに呪力を操れるようになるタイプだったとか、急に戦闘能力に目覚めて大体の人は指一本で倒せるとかそういう方がよかった。いや、倒せるのは倒せるので困りそうだけど。マフィアの戦闘要員にスカウトとかされそうだし。


「しかしそうですか……困りましたね」

「いいことなのに?!」


 無駄に材料としての価値が高いので、売り払いましょう。とか言われやしないかとブルッていると、ガヨさんがポケットから取り出したものを私のお皿の近くに置いた。例の果汁溢れる果物だ。なぜこのタイミングでそれを。ていうかまたポケットに入れてたのか。


「総長、説明しても構いませんね?」


 カイさんが問うと、サラフさんは無言で頷いた。それに頷き返したカイさんが私へと視線を向ける。


「いいですかユキ。この国では異世界人は王城に行き、異世界人であると名乗る必要があるのです」

「王城」

「表向きは狙われやすい異世界人の安全のための名簿管理とされていますが、裏ではその名簿を元に異世界人の誘拐を狙うような連中もいまして」

「物騒デスネ?!」

「ひどい場合だと、届けに行ったまま帰ってこないことも」

「怖スギデスネ!!」


 カイさんによれば、この国の貴族の人たちの中には、悪い連中と繋がっているというか、悪い連中の裏の元締めだったりすることがあるらしい。なので、王城に届け出に行ったらそのまま戻らず、誰かが探しても目撃情報がなぜかゼロで……みたいなことも起こり得るそうだ。

 権力者が悪いことするって、それ地球でもそういうのあるような気がする。どこの世界でも悪いことを考える人たちは同じようなものなのかもしれない。嬉しくない共通点だ。


「そういった不幸な異世界人を増やさないために、我々は王城よりも先に異世界人の把握に努め、一通りの暮らし方や抵抗手段などを教えてから届出をさせているのですが」

「そうなんですか?!」

「ええ」


 このお屋敷に異世界人が多いのは、そういう活動をしているからのようだ。

 道理で、人身売買劇場から連れ帰った異世界人わたしを売る気がないと思った。売るどころか、むしろ異世界人が安全に暮らせるような手助けをしていたらしい。

 総長であるサラフさん自身が異世界人なのもそのせいだろうか。抗争のときに見た部下の人たちが異様にサラフさんに忠実だったのも、私のように助けてもらった異世界人だったからなのかもしれない。

 そう考えるとサラフさんが聖人に見え……てはこなかった。目つきが鋭すぎた。見ていたら目が合ったのでそっと逸らす。


「えーと、じゃあ、私も王城に行ってその届出とやらを出さないといけないんですね」

「ええ。あなたは軟弱そうなので、生活様式はまだしも反撃方法などを教えるのは時間がかかりそうだと思って届出については半年ほど空けてからすべきと思っていたのですが」

「……が?」

「が、どうやらユキの情報が漏れてしまったようで。早く王城へ来るようにとの要請が来ています」

「………………」


 ええええええええ!!!

 久しぶりに叫んだら、ちょっとむせた。






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