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世の中物騒だと覚えることがたくさんある件2

「ついた!」

「ついてねえ」

「あれっ」


 お線香のように赤く光ったはずのロウソクの芯は、私が喜んだ瞬間に弱まって消えた。気持ちばかりのごく細い煙が立ち登る。

 なぜ。

 もう一度手をかざして、今度はもっと集中を試みる。芯の先端をひたすら眺めて呪力呪力ムズムズムズムズと心の中で唱える。しばらくすると、また芯の先がじわじわと光を持ち始めた。気を抜かないようにますます集中する。


「あと……もうちょっと……」

「別に力は込めなくていいが」

「もうちょっとォ……!」


 手のひらのムズムズを感じながら念じていると、やがてポッと火が灯った。

 最初は小さな火が、じわじわと背を伸ばして他のロウソクと同じくらいに明るくなる。


「できた! ……できました」


 喜びのままにサラフさんを見上げ、慌てて平静を装った。ハイタッチしてほしいくらいには嬉しかったけど、サラフさんのテンションがいつも通りすぎた。ふうと体の力を抜いて深呼吸する。


「次は消してみろ」

「ハイ! ふんン……!!」

「力抜け」


 サラフさんのアドバイスはありがたいものの、力を抜くとうまくいく気がしないのでどうしても力んでしまう。ロウソクの火と手のひらのムズムズに集中しながら消えろ〜と念じていると、ロウソクの火が揺らめいてぽぽぽと音を立て、やがて消えた。


「消えたー!」

「よくやった」

「エッあっありがとうございます」


 喜びで思わず声を上げると、サラフさんが褒めてくれた。なんか嬉しい。

 何も使わずに火を点けて、そして消せた。地球だと驚愕されるか手品だろと疑われるようなことだ。特に目立った才能がない私でもできるなんて。

 もっと練習してマスターしようと手をかざす。

 何も起こらない。


「あれ……なんで……あああああマークが消えてる!」


 左の手のひらにあった、楕円が集まって花になったような黒い模様がすっかり綺麗になくなっていた。

 ガヨさんからもらった呪力を使い果たしてしまったらしい。呪力が減ったら模様が薄くなっていくといっていたけれど、薄れるを通り越して全く見えない。ただの手のひらのシワしかなかった。


「せっかくもらった呪力が……トイレへの入場券が……」

「おい、貸せ」


 手のひらを眺めながら嘆いていると、大きい手に引っ張られた。片手で私の手首を掴み、もう片方の手が私の手のひらに重なる。


 サラフさん、手めっちゃあったかい。

 そして大きくてザラザラしてる。

 いかにも男の人、って感じの手の感触が伝わってきて、私は意味もなく動揺した。視線を彷徨わせると、軽く目を伏せたサラフさんのイケメン度合いを目の当たりにしてしまってさらに視線が泳ぐ。

 いや、これはサラフさんが総長だから、なんかこうマフィアだからのドキドキというわけで、だから仕方ないのであって。なんかムズムズするのはドキドキからとかそういうことじゃなくて。


「おい」

「ハイィッ!」

「やってみろ」

「ハイッ!!」


 とりあえず返事をしてから気が付いた。ムズムズするのは本当にドキドキと関係なかった。

 手のひらに模様が浮かんでいる。


 手のひらの真ん中を中心としているのは、ガヨさんに呪力をもらったときと同じだ。だけど今浮かんでいる模様は色も形も違っていた。黒ではなく青。しかも、よくみると光の加減によってわずかに輝いて見える。模様は細かい曲線がいくつも繋がったり分かれたりしていて、なんとなく唐草模様に似ている気がした。手のひらの真ん中から四方八方に伸びて、指の付け根ギリギリまで広がっている。


「サラフさんの呪力を分けてくれたんですか?」

「ああ。やってみろ」

「あ、ハイ」


 ガヨさんの呪力の代わりに分けてくれたらしい。

 青い模様が浮かんだ手のひらを、ロウソクに近付ける。火の点いていない芯をじっと見ると、すぐに手のひらがムズッとしてパッと火が点いた。


「おお」


 火をじっと眺めると、パッと火が消える。

 なんかさっきよりも早くできた。もしかしてコツを掴んだんだろうか。

 それから何度かやってみる。手のひらを確認しながらやったけど、青い模様が薄くなることはなかった。


「慣れりゃもっと少ない呪力でできる」

「そうなんですか! 練習してみます!」

「ああ」


 それから私は、サラフさん監督のもとでしばらくロウソク点灯の練習をした。そしたらいきなり窓の方から「夕食……」と言いながらガヨさんが入ってきて、私は驚きのあまり燭台のロウソク全部の火を最大にしてしまった。サラフさんの圧がある視線は、ガヨさんが並んで一緒に受けてくれた。






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