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異世界の新生活は知らないことが多すぎる件9

 包みを開けると、サンドイッチは細長いパンを上下に切ってハムやらチーズやらを挟んだものだった。パンは平たくてちょっと色が濃かったけれど、ハムもチーズも私が知っているものと見た目も匂いも同じだ。


「いただきます」

「ああ」


 つい習慣で呟くと、返事が返ってきた。許可をとったと思われたようだ。片手で持ってそのまま齧り付いているサラフさんを見習って、ナフキンを半分くらい開けて齧り付いた。

 ホカホカである。パンは小麦の風味くらいしか感じられなかったけれど、ハムやチーズに塩気があり、細長いピクルス的なものも入っていたので美味しかった。ハムには胡椒のようなスパイスがしっかり掛けられているのでパンチが効いている。スパイスの粒を噛むとちょっと辛く感じた。


「美味しいですね」


 私が思わず言うと、サラフさんがこっちを見てから唸るように返事をした。食べてる最中に話しかけてすみません。

 地下牢生活のときは食事が不味かったので「生きていけるかな」と心配していたけれど、それはただ単にクオリティが低かっただけのようだ。朝食べたものも美味しかったし、このサンドイッチも美味しい。日本の食べ物に味が似ているわけではないけれど、味覚に合う味だ。


 マグカップに注いだ液体も、ハーブティーのような感じで美味しかった。ミントを連想させるような香りだけれど、そこから想像するよりも味にクセはなくて飲みやすい。チーズやハムの味が濃いので、あっさり味が合っている。さすがカイさん、行き届いたメニューだ。


 初日ということもあってか仕事で動き回ったというわけではないけれど、お屋敷を案内してもらったし赤い人に気を使ったりもしたのでそこそこお腹が空いていたようだ。温かくてお腹にたまる食べ物が有難い。幸せを噛み締めつつ食べ、お茶を飲むと、いつの間にか食べ終わったサラフさんがこっちを見ていることに気が付いた。

 やばい。ホットサンド美味しすぎてここがマフィア総長の部屋だということを忘れていた。慌てて顔を引き締めつつ、急いで残りを食べる。ちょっとむせそうになった。


「足りねえなら取ってきていいぞ」

「イエ、大丈夫です。ちょうどいいです。サラフさん、果物食べますか?」

「お前が食え」


 命令調で言われるとハイと返したくなるけれど、たぶんカイさんはサラフさんのためにこの果物を託したのではないだろうか。

 バスケットに入れられた果物は2つ。ひとつはバーガンディーというか、暗めの赤色の果物だ。楕円形をしていて、アボカドよりも少し大きいくらいのサイズ。リンゴみたいに茎が付いている。

 もうひとつはブルーベリーみたいな濃いめの青色で、こっちは正円に近い球体だった。表面がツルッとしている。こっちは茎は付いておらず、ヘタがあったらしき場所が浅く窪んでいるだけだった。


「えっと……両方だとさすがにお腹いっぱいになりそうなので、どちらかひとつだけでも」

「好きな方を選べ」


 どっちも初見の物体なだけに、味が全く想像できない。カイさんが果物と言っていたので甘いんだろうけれど、この世界の果物が甘いものかどうかもわかっていないのでちょっと不安だ。ホットサンドの美味しさからしてめちゃくちゃ不味いとかそういうことはないとは思うけれども。


「じゃあ……半分こしますか?」


 私が提案すると、サラフさんは眉を寄せた。

 未知の果物がどんな味なのかは気になるけれど、もし片方を選んでそれがどうしても口に合わなかった場合、ひとつ丸々食べるのは大変そうだ。あと私が選べと言ったけれど本当はサラフさんも食べたいものがあったとしたら、そっちを選んでしまうとなんか申し訳ない。

 そんな気持ちで提案してみたけれど、サラフさんの目が「何言ってんだこいつ」的なことを言っている気がしてならない。


「……すみません、食べたことないものなのでつい」

「そうか。毒でも疑ってるのかと思ったが」

「イエそういう発想はなかったです全然」


 マフィアならではのご発言ありがとうございます。屋敷内で盛られる可能性あるとか怖すぎるでしょ。ていうか朝食も今のホットサンドも無防備に食べちゃったじゃないか。これからはそんな可能性も疑わなければならないのか。怖い。

 もっと平和にごはんを食べたいと思っていると、サラフさんがどこからともなくナイフを取り出した。

 怖っ!!






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