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ヒア・カムズ・ガールズ  作者: リクシキ
BATTLE03
13/22

/2

 およそ十年ほど昔、世に対戦格闘ゲームの大ブームが巻き起こったとき、多くのプレイヤーが生まれ、そして消えていった。理由は様々にあっただろう。始まりがあれば終わりがある。それだけのことだともいえる。何もかもが継続し続けられる訳ではない。

 轟紗香の場合、格ゲーから離れたのはただなんとなくであった。もともとは別にやめるつもりはなかったのだという。大学受験が迫ってきて、さすがに少し自重しようと距離を置き、その距離が大学に合格した後も何故だか戻らず、気が付けば別のやりたいことを見つけていた。


「やりたいことって、何ですか?」


 りうの質問に紗香はあきれ顔で答える。


「教師にきまってんだろーが。先生だぞ、わたしは」


 場所は屋上から格ゲ部の部室へと移っていた。中央のテーブルには新しく紗香の椅子とエナジードリンクが加わっている。麗も含めた格ゲ部の全員がそこにいて、紗香の話を聞いていた。


「教師になるのに必要なことをしてたら、他に気持ち割くのが難しくなって、でそのまま――ま、引退したってほどかっちりした気持ちもないけどねー。腕は相当に落ちてるだろうけど」


 そうはいっても、とりうは先ほど見せられた画像のことを思いだす。


 一位から五位を五神が独占しているあの画像は、当時もっとも有名だった国内最大の格闘ゲーム大会『レボリューション』、通称『レボ』のものだった。五神全盛の当時はブーム真っ最中で、レボの参加者は一万人をゆうに超えていた。そこで多くの強豪を抑えて七位という成績は決して運だけで獲得できる順位ではない。


「マスター使いのトドロキといえば、そこそこのもんだったんだからー」


 腕を組み胸を張った紗香の自慢げな態度も、だからある意味当然といえた。


「マスター使い、だったんですね」


 訊ねたのは絵里だ。


「そうだよ。最初はホシだったけど、気分でマスターにキャラ替えしてからはそっちの方が性に合ってね」


 マスターはホシと同門の親友というキャラクターの少女で、通常技や必殺技などにホシと似たものが多く揃っている。ただし実際に操作してみるとタイプが全く違い、ホシが守りと堅実さに重点を置いているとするなら、マスターは攻めと突破力に特化したスタイルで、一度火がつけば一気に相手を燃やし尽くすことが出来る爆発力の高いキャラクターだった。


「マスター、ですか……」

「なんだ、剣崎? マスターに興味ありか? キャラ替えするならー、教えてやらんこともないぞ」

「その時が来たら、ぜひ……」

「うんうん。剣崎は素直でいいなー。ま、私の話はそれぐらいにしてだ」

「え、あのできれば、現役だった頃の話をもう少し……」


 絵里が食い下がり、りうも同意する。五神全盛のころの話など聞きたいことは山ほどあった。


「そんな話は今度、時間があるときに、いくらでーもしてやる。それより今は、この前の練習試合の話をだなー、私はしたいのだ。そのために張り切って部室に来てみたら、あんなクソみたいなイタズラをされて――」

「そ、それは誤解ですってば」


 蒸し返されるのは今が初めてではなかった。何かにつけて紗香はその話を持ち出して、りうをいじめた。未だに怒りが収まっていないという訳ではなく、単純にりうが困る姿が見たいのだろう。最初は真面目に謝っていたが、さすがにこう何度もだとたまらない。


「練習試合の話って、何があるんですか?」紗香がネチネチモードに入りかけたのを見かねたのか露がたずねる。「反省会の時は、特に何も言われなかったですよ」

「最初から教師が出ていくのもなんだろー。自分たちで考えて答えを出す猶予が合った方がーよかろうと、そういう親心よ。で、実際どんな結論をつけたのかね。あの敗戦にさ」


 紗香に問われ、絵里が代表して先ほど話し合ったことを伝える。敗戦は自分たちの実力不足であること。この先も楽しくゲームがしたいこと。概ねそんなところだが、肝心の部分で話し合いは途中で打ち切りになっていた。


「ふーん、まそこまでは妥当かな。で、日野は何が引っ掛かるんだ?」


 報告を聞いた紗香がたずねる。どうやら内面のモヤモヤが表に漏れ出していたようだ。

 りうはメアリにチラリと視線を送ると、思い切って口に出した。


「わたしは――強くなることが本当に楽しいことなのか、疑問に、なっちゃいました……」


 かつてのメアリは楽しくなくなったのだろう。だから距離を置いた。りうはそのことを話で聞いて理解したつもりでいたが、実際に目の当たりにしたことで確かに真実だと実感した。強さを求める道の先にあるものは、決して楽しいばかりのことじゃない。それどころか、全てを否定されることすらある。それが勝負の世界だ。


 ――そのはず、だったのに。


 あの敗戦を経たメアリは、なぜか主張を変えていた。


「もう一度奏江と戦いたい」メアリはそう言った。勝負の世界に戻る気になったということだ。それが、りうにはわからない。

「そりゃさ、強くなるのは楽しいよ」りうの疑問に紗香は、あっさりと言ってのける。「お前たちも実感あるだろ? 初心者とかそれくらいから初めて、それなりにキャラ動かせるまでやれたのは、出来ることが増える喜びってのを感じたからじゃないのか? その成長の結果が強くなるってことなんだから、それは楽しいだろうさ」


 それはりうにもわかる。


「――でも、強くなっても、もっと強い人に負ける……、じゃないですか」

「そりゃ、勝負事だからな。勝つやつがいれば負けるやつもいるさ」

「負けるの、嫌じゃないんですか」


 馬鹿みたいな質問だと、りうは自分でも思った。嫌に決まっているからだ。負けるのはくやしい。自分のしてきたことを否定された気持ちになる。それまでの積み重ねを敗北という形で評価されるのは、つらい。


「嫌だよ。当たり前だろ」


 当然の答え。しかし紗香はつづけた。


「だけどそれだけじゃないからなぁ。負けるのは嫌だけど、ちゃんと負ければ納得することもあるから――」


 紗香は言いながらメアリを見る。


「――なぁ、剣崎。お前もあの負けは納得できたろう? 他の部員と違ってお前は、ちゃんと対戦してたもんな」


 紗香の言葉にメアリはしっかりと頷いた。


「一方的な……試合に見えました、けど」


 りうにはそう見えた。


「そりゃあな。相手はキャラの対策だけじゃなく、剣崎対策もばっちりだったみたいだし、剣崎もブランクアリアリの動きだったからな。一方的にもなるよ。けど、そうじゃあーないんだなぁ。対戦の『妙』ってのは。表に出てる部分だけじゃないのよ。だけどこれはさ、言葉で理解しようとしてもダメだよ。自分で実感しないと、なー米倉?」


 急に話を振られた絵里は驚きながらも頷く。


「え? それは――そうだとおもいます」

「そうだろう。で、それを感じるにはどうすればいいかと言うとだ、そこは結局もうちょっと強くなってみるしかないんだなー。どうだ、この身も蓋もなさ」


 確かに身も蓋もない。紗香はニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


「ともあれ、未だ敗戦のショックから立ち直れない弱メンタルなキッズたちには、そう簡単に切り替えは出来ないもんかねー?」


 いかにも挑発といった見え透いた言葉に、素直に反応したのは露だった。


「切り換えくらいできてますよ。別に練習は続けるつもりで、止めるつもりもないですから」


 そういって唇を尖らす露。先ほどもメアリに「くやしくないのか」と問われて真っ先に反応していた。いつでも表に出しているわけではないが、露は負けん気が強い。その性格を考えると、先の敗戦を一番重く受け止めているのは露なのかもしれない。


「ふーん、なら空上はリベンジする気満々って訳か」

「リベ……、それは、いつかはそうなれば……」


 勢いのあった露もさすがに言葉を濁す。露と対戦相手の有栖には明白な実力差があった。そのことが身に染みているのだろう。


「なんだよ、スッキリしないな。米倉と剣崎はいいとして――日野と国仲はどうなんだ?」

「まぁ、やりあえるくらいにはなりたいと思いますよ。ただ、すぐにって話じゃないかな」


 国仲はとぼけたように言う。露ほど態度がわかりやすくはないが、国仲もやはり明確な実力差を感じているようだった。


 それはりうも同じだ。


「まだ、そこまでは考えられない……ですよ」


 そもそも、そういう競技的な気持ちで続けていくかどうかも、りうにはわからないでいた。


「んー」三人の消極的な意見を聞いた紗香は大げさな素振りで腕を組む。「物分かりが良すぎるなぁ……。始める前から完結してどうすんだよー」

「でも、ある程度は仕方ないと思います」そう言ったのは絵里だった。紗香を見る絵里の視線はほんの少しだけ鋭く、見ようによっては怒っているようでもある。「三人はまだ本格的に取り組む前で、それなのに無理やり実力の違う相手と試合したんですから」

「ま、試合の日程がちょっとばかり急だったのは認める。つったってー、向こうとそれほど実力差があったかね? 確かに経験者っぽい手慣れた動きだったけどさ、上級者って訳でもないとおもったけどなー」

「……それは、わたしも、そう思いました」


 今まで黙っていたメアリが、小さく、しかしはっきりと通る声で言った。自然とみんなの視線がメアリに集まる。


「充分に、戦える――戦えたと、思います」

「……ほんとに?」


 あの試合の日、メアリが他の試合にまったく興味を示していなかったことを、りうは知っている。あの時のメアリは追い詰められていて、だからそれも仕方がないことだったが、といって見てもいないで適当な発言をしているなら、それはあまりいいこととは思えない。

 そんなりうの考えを読み取ったかのように、メアリは言った。


「うん。……周りを見れるほどの余裕が、当日にはなかったから。あとになって全部、見返したの。それで、そう思ったから……」

「見返した?」


 メアリが静かにうなずく。確かに「ファイターズ」の試合はそのほとんどがリプレイデータとしてライブラリ化されていて閲覧することは可能だ。


「……休みの間、みんなの試合は殆ど、見たから……。練習試合のとき以外のも、出来るだけ。みんなのこと、もう一度、ちゃんと知りたくて……。それで、だから――ちゃんと、根拠があって、言ってるつもり。ちゃんと、戦える相手だと思う」

「メアリさん。その分析を、よかったら少し聞かせてもらっていい?」

「それは、はい」絵里に促され、メアリは少し考えた後で最初に露を指名した。「露の相手は、キャラクター同士の相性が悪かった。でも、対策を理解すればそれだけで露は、戦える」

「それ、そんな簡単な話ですか?」


 露は眉をひそめた。メアリの言うことが信じられない様子だ。


「簡単……ではないけど、露の高格ネットでの対戦では、ミーラ戦にもある程度自力で対応できてたし……、要はその対応を、対策として覚えて実行できれば、前回のようには絶対に、ならないから」

「でも、試合は一方的だったじゃないですか。もっとすごい実力差、感じましたよ」

「それはたぶん、露が対戦に委縮してたんだと思う。動画を見たら、そんな感じがした」

「…………」


 心当たりがあるのか露は黙って何か考えるそぶりを見せた。そこに麗が割り込んでくる。


「じゃあ、私はどうだったかな?」

「麗、先輩は……、基本の立ち回りを意識し過ぎたせいで、突発的な攻めにやられてた、から……、もっと麗先輩の特徴をいかせていれば、充分に」

「わたしの、特徴?」

「咄嗟の判断と、アドリブ……だと、思います。向こうも、セオリーより勢いを、重視していたから、同じ土俵にたてば、麗先輩に勝機があると」

「ほんとうに、見てくれたんだね」


 頷いてメアリはいちど息を吐く。それから、顔を上げ視線をりうに合わせた。


「それと……、りうは、すごく丁寧だった。覚えてたことも、しっかりできてて、綺麗な戦い方だった。相手のシアルクは、対処の難しい技とか、連係ばかり使ってきたから、あの時は対応しきれなかったんだと、思う。知識だけあれば、実力は変わらない……よ」


 でも、とメアリは続ける。


「でも――りうに、ホシは……」

「え?」

「りうの立ち回り、本当はもっと――」

「おーいおーい、まてまてー。使用キャラにまで口出しするのはやめとけー」

「あ……、ごめん、なさい」


 紗香に遮られ、メアリは口をつぐむ。りうは複雑な感情でそのやり取りを見ていた。


 ――わたしにホシは、なんなんだろう……。


 話の流れから考えれば、否定的なニュアンスだった。

 ホシは昔からの使用キャラだった。しかしずっと使ってきたわけじゃない。子供の頃は使えるキャラをその日の気分で使って遊んでいた。キャラに絶対と呼べるような強いこだわりや執着はなかった。それでも格ゲーを再開するにあたって使用キャラにホシを選んだのは、メアリにあこがれたからだ。あのプレイに、感動したから。


 ――私は……。


「メアリちゃん。わたしにホシは、なんなの?」

「えと……あの」


 メアリは先ほどの紗香の言葉を思い出しているのか、歯切れが悪い。それがりうにとってはもどかしい。そのもどかしさを振り切るように、りうはメアリに詰め寄る。


「ね、教えて?」

「え……あの、もしかしたら、あってない、カモ……」

「あってない……」


 自分が憧れたプレイをする人に「あっていない」と言われてしまった。


「そっか……」

「――の、――――から、それで――――」


 メアリは続けて何か説明していたが、言葉が滑ってうまく耳に入ってこない。


 ――あってない……、か。


 不意打ちのようなメアリの言葉が、りうの意識にしばらくの空白を作っていた。気がつくと、話は先に進んでいて、


「――で、米倉についてのアドバイスはそんな感じか?」

「はい……」


 どうやらメアリによる絵里の総評が終わったところのようだった。


「アドバイス……というより、感想の、つもりなんです、けど」

「ううん! すごい的確だと思うよ、メアリさん!」絵里が感動した様子で声を上げる。「過去の試合でのこととか、すごい調べてくれたんだね!」

「皆には、すごく迷惑かけちゃったから……、少しでも、出来ることがしたくて」

「そうはいっても、試合の前だって剣崎が率先してコーチ役やってくれてたじゃないか」

「そうですよ。ですよね?」


 露は麗の発言にうなずいた後で、りうにも同意を求めた。りうは咄嗟に浮かべた曖昧な笑顔でそれに応じる。


「うん、教えてもらった」

「でも、あれは……、ただ基本を情報として、教えただけだったから……。みんなのこと、ちゃんと見てなかったと、思う。だから、これからはちゃんと見えるようにって」

「うん! メアリさんのアドバイスを生かせるかは自分たち次第だと思うけど、それが出来ればきっとレベルアップできる」

「たしかに、そんな気になるね」

「メアリさんが言うと不思議に説得力がありますしね」


 アドバイスのおかげで具体的な上達への道筋が示されたからか、先ほどまでのどこか投げやりだった空気が和らいでいた。すぐに再戦がどうのという話にはなっていないが、少なくとも一方的な敗北によって作り上げられていた『どうしようもない実力差』という気持ちの壁は、かなり低くなっているようだ。

 本来なら、こういった空気の変化に最も影響されやすいのはりうだった。

 しかしりうは、それほど楽観的な気持ちになれずにいた。


「なんだかメアリさん、変わった感じですね」


 露が耳打ちする。その声は嬉しそうに弾んでいた。たしかに露の言う通り、メアリは変わった。前向きになって、なにか吹っ切れたように思える。


 それは良いことだ。きっと。


「うん、だね」


 だけど少し、違和感もあった。いや、違う。


 ――私が、寂しいだけか。


 りうは、そんな自分の心の声に驚いた。寂しい。どうやら自分はそんな気持ちを抱いていたらしい。しかしそう感じる明確な理由がわからない。思考しようとしても、影のようなものがそれを邪魔をした。それは絡まった毛糸玉だ。


 ――まただ。わたしは、なんで……。


 りうが思考の轍に足を取られ、停滞していると、不意に大きな咳払いが聞こえた。それは紗香が注目を自分に集めるために発したものだった。


「どうやら、ちゃんと前向きな方向に進み始めたらしいな。先生としてはー、喜ばしい。学びを糧に前へと進む、学生たるものそうでなきゃいかん。そんな君たちの背中を押すのはやぶさかではないし、水を差すのは忍びないのだが――、しかしまぁご存知の通り、明日からしばらく部活はお休みだ」

「え? なんで?」


 麗の間抜けな声に目ざとく反応した露が得意げに言う。


「中間試験の一週間前から、放課後の部活動は禁止だからですよ」




 下校を促すチャイムの音に追い立てられるように校舎の外に出ると、外はすっかり暗くなっていた。紗香に鍵を預けて学校を出た五人は、駅までの道を固まって進む。先頭に絵里とメアリ、その少し後ろに麗と露が並んで、最後尾にりうが続いた。駅までは大通りを行くものと、住宅街の傍を抜ける道とがあって、後者の方が近道だった。

 並ぶ家の灯りがアスファルトを照らしている。


「にしても、試験かー。すっかり忘れてたな」


 麗が背筋を伸ばしながら言う。持ち上がった豊かな胸部がなだらかな曲線を描いていた。


「勉強、大丈夫なんですか?」


 その様子をチラリと横目に見て、露は露骨に不快そうな表情を浮かべていった。


「麗は試験の成績、いつも私よりいいから」

「…………チッ」

「なにがっかりした顔してるんだよ露の介」

「その呼び方止めてくださいよ!」


 麗と露の例の追いかけっこが始まる。肩越しに振り返った絵里が、その様子を楽しそうに眺めていた。


「りうさんとメアリさんは、勉強はどうなの?」


 問われてりうは今までの自分史を振り返る。とりあえず頭の出来に絶望したことはない。


「えーっと、わたしは可もなく不可もなく、ですかね」

「普通だと、思います……」

「テストの過去問とか、そういうの欲しければ言ってね」


 りうは絵里に向かって礼をいい、それから何か話題を探そうとしたが特に見つからなかった。


 しばらく行くと住宅街を抜け、少し広い道に出る。そこから駅まではすぐだった。電車の方向がりうだけ違って、いつも階段を昇った先の改札を抜けたところでみんなと別れる。今日もそれは同じだ。


「じゃあ、また明日」


 すぐに電車が来るタイミングだったので、りうは皆に手を振り駆け足でホームへ向かった。階段を降り切ったところでちょうど停車した電車の扉が開いたので、降車する人がいないのを確認してりうは速度を緩めることなく車内に滑り込んだ。

 りうの降りる駅までは同じ側の扉が開く。りうは扉ちかくの手すりに身を寄せるようにして発車を待った。なんだか頭がボーっとしていた。扉が閉まって走り出す直前、ふと目をやった反対側のホームに、階段を降りたりう以外の四人の姿が見えた。が、すぐに人の背中に隠れて見えなくなってしまった。


 ――わたしは……。


 音を立ててりうの額が窓ガラスに触れる。ひんやりとした感触が、妙に心地よかった。

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