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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

LAST NIGHT

作者: 瑞希

彼はただ1人、歩き続けた。


目の前に広がる景色は黒と赤の混じった世界だった。


真っ直ぐな瞳は何を見つめているのだろうか?


モノクロのような世界。


まるで映画をみているかのように通り過ぎてく時間。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガチガチャと鎖の音が鳴り響く部屋。

冷たいコンクートの壁。


「うわーーーーーーーっ!!」


辺り一面に広がる叫び声。


俺は今どこにいるんだろう?

身体中が熱い。

まるで燃え盛る炎の中に放り込まれたみたいだ。

ガチャガチャ…鎖をどうにか切ろうと暴れては見るが手足は血が滲むばかりだ。


___ガチャッ


薄暗い中に一筋の光が刺す。

俺は眩しさに目を細める。それと同時に警戒する。


「…ヴーーー」低いうなり声をあげる。


光の先に人影が見えた。

何やら声をかけられているらしいが、聞き取れているのに意味はわからない。

人影「000こっちへ来い」


俺は声のする方へ向いたまま威嚇する。

何をされるかわからない。

どうしてここにいるのかもわからない。

そんな中で何かが近づいてくるなんて危険でしかないじゃないか。


カツン…カツン……足音が段々近づいてくる。

俺は精一杯ガチャガチャと鎖を鳴らしながら唸る。

するとふいに鎖のついた手首を掴まれた。


俺の目の前には笑顔を貼り付けた人間が立っていた。

人間「さぁ、君は大事な実験体だ。あまり傷をつけないでくれよ。」

笑わない目、口元だけ妙に笑顔を作るので不気味に見えた。

まるでロボットのような生き物の感じがしない違和感。


俺はさらに警戒を強める。

呼吸が早くなったことがさとられないように最低限の回数で留める。

俺が出来るのは今、それだけだ。

手も足もガチャガチャいうだけで動かない。

無駄に敏感な鼻も耳もこの空間じゃ邪魔が増えるだけだ。

今は…運しかない。

今日オレは終わるのか、終わらないのか。。。


人間「さぁ、000。君は成功かな?」

人間はカチャカチャと鎖の鍵を外していく。

俺は混乱した。

コイツは俺を殺すんじゃないのか?

何のために俺をここに監禁したんだ?

そんなことを、考えてる時に突然視界が歪んだ。


………プスッ


どうやら小さな注射器で何かを打たれたらしい。

俺は視界の歪みと力の抜けていく感覚に抗おうと必死に手足を動かそうとする。

………………ドサッ…


人間「まさかなんの用意もなしに君を解放するわけないだろう?」


そこから視界は真っ暗になり、意識は途絶えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…

ピッピッピッピッ…

様々な機械音の鳴る部屋で俺は目が覚めた。

声を出そうとするも、口は塞がれ、手足もまた何かに固定されているようだ。


真っ白な壁、天井、無機質な部屋はコンクリートだけで固められたあの部屋よりも冷たい空気が流れている気がした。


数人の声がする。

言葉の意味はイマイチわからないが、なんとなく聞き取れる。

何やら喜んでいるようだ。


研究員A「やりましたね!完璧ですよ!」


研究員B「あぁ、これまでのキメラは細胞組織がしっかり出来てなく異型になることが多かったが、こいつは初めてだ。」


研究員A「これは立派なライカンタイプですね!」


研究員B「これで売り物になるぞ。」


ぼやーっとした意識の中、よくわからない単語の混じった会話が聞こえた。

どうやら俺は売りに出されるらしい。

俺、どうやって生きてたんだっけ?

そんなことも微かな記憶を辿っても思い浮かばない。

身体中につけられた管達がうっとおしい。

早くここから出たい。

俺はどこまでも走り抜けられるはずだったんだ。。。


そうこうしてるうちにまた注射を打たれる。

俺は抵抗すらままならないまま、夢の世界に行ってしまう。

いつも同じ夢を見るんだ。

赤と黒の世界。

空も赤い。

血のような赤い川が流れている。

目の前には死体の山が見える。

山の前には死神なのか、大きな人影が見える。

俺もいつかはあの死体の山の1部になるんだろうか。

そんなことを考えてる暇もなく、今度は視点が変わる。

俺は死体の山の中にいる。

そして、その中から死体の山にいた人影の人物と目が合ってしまのだ。

………いつもそこで夢は終わる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…ハッ…ハッ…ハッ…ハァハァハァハァ…

心拍数が上がり、ドクン、ドクンと胸が音を立てているかのような錯覚に見舞われる。

そんな中だが、頭は冴えている。

俺が目覚めた場所、それは見たこともないような狭い空間だった。

ベットに洗面台、そして救急箱のような大きな箱。

俺はどこにいるんだろうか?


……トントンッ


突然ドアをノックされる音がした。

俺は低い(うな)り声をあげる。


カチャ…少し薄暗い中に現れたシルエットは背のそんなに高くない女だった。

女は俺が唸り声をあげていることに驚く様子もなく、俺の元に歩いてくる。


カツカツカツカツ…靴から鳴る音なのか、音が段々近づく。

俺は身構える。

また注射を打たれるかもしれない。

下手に動くのも危ない。

この部屋は狭く、距離をとるのも難しい。

まぁ、こんな小さな体の女に俺は殺せないだろう。

俺はじっと女を見つめる。


女「Hello!お目覚め??大丈夫よ、私は何もしないから。

君の調子を見に来ただけよ。」


俺はじっと身を固くする。

女の顔がふいに目の前に現れる。

ハッ…こいつは…

女の顔が見えた。薄暗さでよくは見えないが目が…死んでいた。

目には哀しみなのか、深い闇が広がる。


女は表情1つ変えずに俺を観察する。


女「立派な耳ね。それに毛並みも綺麗。…これでアナタもここの住人ね。」


そう言った女の表情は酷く冷たく感じた。

俺にはその女の表情の理由はまだ…知る由もない。


女はテキパキと俺の身体の状態を紙のようなものに書き込むとサッと俺から離れる。


女「また来るわ。いい子にしてね。」

薄い唇でニコリと笑うとスタスタと出ていった。


俺がここの住人?なんのことなんだろう?

俺はここに買われたのか?

なんのために??

たくさんの疑問を抱きながらイラつく。

「ヴーーーーーァ"ーーーーー!!」

どうやっても答えは出ない。

思い出せそうな記憶の片隅にはこんな部屋も、機械もない。

あったのは…森に囲まれた小さな小さな集落だけだ。

どんな人がいたかも思い出せないし、どんな物があったのかもわからない。

ただわかるのは俺の記憶の隅っこにほんの少しだけある映像だってことだけだ。

俺はベットに倒れ込む。

バサッ…腰の下に違和感を感じた。

手を腰の下に伸ばすと何かの毛に触れた。

「なんだよ、これ?!」

俺に毛があるはずはない。

だが、今腰の下にあるものはふさふさとした毛がびっしりある。

おそるおそる毛を引っ張ってみる。

……グイッ

「…っつ!」

引っ張られた感覚があった。

どうやら俺についているらしい。

混乱する頭の中を収めるように深呼吸をする。


どうせ明日は殺されるかもしれない。

それならこの部屋からも出られないんだろう。

夜がくるまでは大人しくしていよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

窓から光が差す。

どうやらこの部屋の窓には布も何もないようだ。

…トントン…

部屋のドアを叩かれる音がする。

カツカツカツカツ…

あの足音が聞こえてきた。

あの女だ。

歩くスピード、重さがなんとなく想像つくようになってきた。


……ガチャッ


女「Hello!調子はどう?少しはここにも慣れた?」

俺を怖がる様子もなく、女は俺に問いかける。


俺はひと息ついてから、女に答えてみた。


「お前はなんなんだ?敵か?」


女はフッと笑う。


女「敵だとしたら?」


俺はすぐさま女の顔を掴み、壁に叩きつけた。


ダンッ………


鈍く響く音、そして無表情な女の視線。

女は顔色1つ変えずに俺をまっすぐ見つめる。

そして、俺に向かってこう言った。


女「どうしたの?やるなら早く終わらせてよ。」


その一言で俺はふと冷静になる。

俺を見つめる女の目は変わらず深い海の底のような闇を含んだままだ。

俺は女に問いかける?


「死にたいのか?」


女は目は無表情のまま俺の方を見て口元だけで微笑む。


女「君がそうしたいならそうしていいよ。」


俺はフッと力が抜けて、女を離した。

バサッ…

女は地面に落ちて膝を床につけたまま動かない。

俺は妙に冷静になり、女の意図を探ることにした。

俺は静かに問いかける。

「ここはどこで、なぜ俺はここにいる?」


女はやっぱりそう聞くんだね。というかのように淡々と話し始めた。


女「君はここに買われたんだよ。私と同じくね。

そして、これからメンテナンスをしたら君がすることは勝つことだけだよ。」


俺は意味がわからないことばかりを並べられて少し混乱する。

だが、すぐに次の質問を投げる。


「俺は何に勝てばいいんだ?なぜ俺が戦う?」


女はフッと笑う。


女「それは私がここから出られないのは何故だろう?って言ってるようなもんだよ。」


俺は質問に対しての答えがわかったわけでもなく、モヤモヤとしたものが溜まってイライラしてきた。

低い唸り声を出し始める。

「ヴーーーーー…」


女「君が混乱するのも無理はないよ。私も最初はそうだった。

暴れても、ドアを壊しても、逃げても連れ戻される。

そして、君のように買われた子の世話をさせられるだけのロボットみたいなものだよ。」


俺は目の前で女が話してる言葉の真偽を探る。

女の目は相変わらず動揺も見せることはない。

俺は女にイラつきながら叫んだ。

「出口がないなら作りゃいい!俺はここから出てみせる。」


女はふぅっと深いため息を吐いて、俺に一言だけ言った。


女「じゃあやってみるといいよ。まずは明日、君が生きていたなら。」


女はそのまま部屋を出て行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…………っ!!

いつの間にか寝てしまっていたようだ。

目が覚めると窓からは日差しが差していた。

暑い。暑い。……暑い。

俺はどうやら暑さにめっぽう弱くなったらしい。


ーーートントン…

まただ。このノック、足音、聞き覚えがある。


…女が来た。


…カチャ……


女「Hello!少しは寝れた?今日はメンテナンスするから。とりあえずこれ、置いておくわね。」


女はトレーに乗せたサンドイッチのようものを2つ、そしてパックの飲み物を俺に渡す。


俺は昨日の夜のことが頭から離れずに女の行動をぼーっと見ていた。


女「あら、具合でも悪いの??」


女は俺に近づき、身体に触ろうとする。


ーーーっザッ

俺はとっさに身を引く。同時に唸り声を上げながら。

女はそんな俺に何かを気にする様子もなく、大丈夫だろう。とでも言うかのように1度だけうなづいて、また立ち去ろうとする。


女「あとで迎えに来るからね。その時は来てくれないと。先に進まないわよ

。」


女はいつものようにスタスタとドアの外へ出ていった。

俺は女がここから出るための協力者なのか、もしくはここから出るのが困難過ぎるがゆえに俺に対して哀れみを持っているからあの余裕なのかを考えていた。

そういや、言ってたな。

あの女も買われたと…


ふと目の前のトレーをみて、昨日から何も口にしてないことを思い出した。

匂いを嗅ぐ。

パン、ハム、レタス、玉子…異臭はしない。

毒が入っていたら困る。

サンドイッチをちぎって1口だけ食べる。

…まずくはないが、けっして美味しい!と言えるものでもない。

毒は今のところ入っていないようだ。

「ここから出されてすぐ死ぬかも知れないのに毒が入っていようが関係ないか…」

独り言をぼそりとつぶやき、俺は残りのサンドイッチと飲み物を口に放り込んで食事を終える。


ーーートントン………


女が来た。


カチャ…

女「さぁ、時間だよ。おいで。メンテナンスだから。」


薄暗い廊下を睨みながら、俺はゆっくりと立ち上がる。

どう考えてもここから出られた方が逃げるにしろ役立つ情報が得られるだろう。

女と俺はスタスタと長い廊下を歩いていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【メンテナンス室】

そう書かれた部屋の前で止まり、女慣れた様子で鍵を開けていく。


女「さぁ、いらっしゃい。」


カチャカチャカチャカチャカチャ…

ピッピッピッピッ…

機械音が耳に嫌に響く。

この感覚、この間感じたあの部屋の雰囲気と一緒だ。


俺は黙って警戒しながらも辺りを見回す。

まるで映画に出て宇宙船の中のように機会がびっしり敷き詰められた部屋。

そこにベットが1つ置いてある。


女「さぁ、そこに寝て。何か君に不利益になるようなことはしない。

健康診断みたいなものだから。」


俺は「ヴーーーーー」と低い唸り声を上げながらベットに座る。


女は慣れた様子でベットをトントンっと叩くと短く一言。


女「ここに寝て。」


俺は嫌々ながらもこれが終わらないとどうせ出られないのだろうと悟り、ベットに寝転ぶ。


女「よし、いい子ね。」


機会から吸盤のついた管を引っ張り出して俺にぺたぺたと付け始めた。

嫌な記憶が蘇る。

とっさに全て振り払ってしまいそうだ。

ぐっと拳を握りしめて耐える。


女「ちょっと静かにしててね」

機械に近づくとピッピッと操作して何やら紙を見ている。


女「君はハーフなんだね。」


俺はなんの話しかわからなくて、黙る。

女は続けて淡々と話だす。


女「適合率98パーセント。ここまで適合率の高いことが起こり得るんだ。。」

「君は成功作なんだね。話も出来るのに身体能力だけがバカみたいに高いし、知能もある。」


俺はふと、天井を見上げて気づいた。

天井が鏡張りになっていふのだ。

そして、俺の姿が映し出されていることに気がついた。


頭部には白いようなグレーがかった長い毛がサラサラとはえていて、

目は鋭くまるで光っているかのような錯覚をさせる琥珀色。

顔には毛があまりなく、耳だけが獣のようにふさふさとしている。

口を開けると牙のようなものが見えた。

首から下はトライバルのような模様が入っていて、獣のようだが、形は人間だった。

首元にキラリと何かが光って見える。

プレート??

だが、そこに何かが書かれているのかなどは遠くて読めない。

下半身は布で出来た服のようなものを着ているので見えないが、腰の辺りからはふさふさとした何かが出ているのが見える。


俺は………人間ではないのはなんとなくわかっていたが、こんな姿をしていたのか。


女「はい!おしまい!」


パンパンっとこ気味のいい音が鳴り響いた。

女が手を叩いたようだ。


俺は立ち上がり、女の前に仁王立ちする。


女は顔色ひとつ変えずに俺に言う。


女「メンテナンスは終わったからここからが本番だね。」


女はスタスタと扉の方に向かい、俺は後をついていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

薄暗い廊下を再び歩く、1人の女と俺。


カツンカツンと女の靴音が鳴り響く。


長い廊下を歩き、また再びあのドアの前にたどり着いた。


女は俺に小瓶のようなものを1つ渡し、俺に言う。


女「明日の朝までに飲んでおくといいよ。」


俺はこれがなんなのかわからず、小瓶を握りつぶしそうになる。


「お前が飲んでみろよ。」


俺は女の前に小瓶を突き出す。


女は口元だけ緩めて、こう言った。


女「いいけど、私にはなんの作用もないよ。」


女は小瓶を開けて勢いよく中の黄色味を帯びた液体を飲み干す。


女「ね?私には何も起きないでしょ?君が飲まないと効果はないんだよ。」


俺はしばらく黙ると、女に手を差し出す。

女はわかった。というかのように小瓶をもう1つ取り出し、俺に渡した。


俺は窓から一筋の光が差す狭い部屋に戻った。


明日は何が起きるんだろう?

この小瓶はどうやら毒ではないようだが、中身はわからない。


明日の朝、賭けてみよう。

これで死んだら俺の運の問題だ。


窓の外を覗く。

どうやら今夜は満月らしい。

どこか懐かしさを感じる光が俺を照らしていた。


ベットにドサッと横たわる俺。


メンテナンス室で見たあれは俺自身だったのか。

まるで獣と人間の掛け合わせのようだが、俺自身にはそんな違和感はない。

しいていうなら、腰の下にあるこのふさふさとしたものが時折引っ張られる感じがすると不快だということくらいだろう。


目を閉じて暗闇に溶け込もうとする。

俺は今日も生きていた。

明日何が起こるのかわからないが、今は考えても無駄だろう。

少しずつ身体がベットに沈んで行く。




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