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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章
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第7話 監視

セインは身を隠したイリアナを確認し、ため息をついた。


「イリアナのバカ。第二王子殿下の大事なものの中に一番大事なお前が入ってないのかよ」


婚約者を失ってからイリアナの様子がおかしいことにアベルトは気付いていた。

セインは出陣する前にイリアナの双子の弟のアベルト・ラーナに会っていた。


「セイン、リアをお願い。リアがおかしい」


冷静なアベルトが珍しく声を荒げていた。


「アル?」

「父上も気づいてない。リアの瞳はなにも映してない。新国王陛下の後宮に入るなら殺してって言って倒れたんだ。父上はリアの後宮入りを考えてたけど、リアが自刃しようとするから折れた。俺にはリアの言葉は全部嘘に聞こえる」

「アル、落ち着け」

「リアが殿下に会いたいと騒いでも取り次がれず、数日後に殿下の逝去の知らせがきた。知らせを聞いたリアは部屋から出てこなかった。翌日はいつものリアに戻っていた。リアなら泣き叫んで、引きづるだろ?その後に陛下の命を聞いてリアは倒れた。俺、今までリアの考えていることは全部わかったけど、今のリアはわからない」


双子のアベルトとイリアナは仲が良い。

アベルトが体が弱いから、イリアナが外の話をよく聞かせていた。

第二王子もよく訪ねてきていた。

ラーナ侯爵邸のアベルトの部屋でよく4人で過ごしていた。


「リアは俺が守るから心配するな」

「セイン、一緒に行けなくてごめん。俺は」

「アルはできることをやればいい。イリアナが帰るのを待っててくれ」

「セインも帰ってくるだろ?」

「絶対生きろ」

「待ってるから」


セインが命を捨てる覚悟があることを見通した鋭い従兄弟の頭を優しく撫でた。

『イリアナだけはちゃんと帰すから。もうリアには俺とアルしかいないから。リアの心を守るために生きてくれ』

セインの誤魔化しに、気づいても甘んじているアベルトに心の中で誓いを立てて、願った。





イリアナから王が近くにいると報告を受けたセインはイリアナのように、動揺はしなかった。

セインはいつか来るとは思っていた。

王が来た時は陣を空にし、死傷者がいないことを見つからないように、策を練っていた。

王は民を思いやる心を持たず、愚かだが第二王子への嫌がらせに関しては優秀だった。

第一王子は痛いところをつくことをセインも身を持って知っていた。だからセインは第二王子と一緒に第一王子がイリアナに近づかないように協力していた。

第二王子亡きあとも、イリアナと会わせたくない気持は変わらない。



セインは天幕で地図を広げ考えるフリをした。

突然天幕に入ってきた王に、セインは驚いたフリをして跪いた。


「セイン、久しいな」

「陛下、お召しくだされば参内しましたのに」

「私の命を叶えようとしている臣下に無体はできない。お前だけなんだな」

「はい。奇襲と諜報に出払っています。負傷者達も陛下のお役に立ちたいと諜報に励んでおります」

「士気をあげようと来たんだが」

「戻りましたら、伝えましょう」

「苦戦しているな」

「お恥ずかしながら私も含め実戦慣れしてない者が多く、ですが、いずれ陛下に勝利を捧げます」

「楽しみにしている。私の配下を貸してやろう。優秀だ」

「陛下、恐れながら私達は自分達の力で成果を上げたく存じます」

「黙れ。時間がかかりすぎている。お前の監視だ」

「お心づかい感謝致します。必ず成果をあげましょう」

「お前の従妹は寝込んでいるそうだよ。参内を命じても顔を見せにこない。侯爵があのような姿を見せられないと謝罪してくる。弟を失ったのが、あの才女を狂わせたか」

「時間と共に傷が癒えるのを待ちましょう」

「イリアナは優秀だから側妃にしてもいいんだが残念だ。アベルトは達者か?」

「はい。精一杯励んでくれています」

「会いたかったが残念だ」

「陛下、そろそろ戻られませんと妃殿下達が嘆かれます」

「私の寵愛欲しさに妃がうるさくて」

「後継を残すことも大事なお役目です」

「わかったよ。帰ろう。セイン励めよ。余計なことをするなよ」


セインは跪いたまま去りゆく王を見送る。

新国王の即位と共に人質として何人も後宮入りをした。

セインの妹も、イリアナの侍女になりたいから婚約しろと迫ってきた元婚約者も。


「悲観なさらないで。お兄様が励まれるんです、私もシカク公爵令嬢として務めを果たします。義姉様もいらっしゃいますし、お任せください」


セインの味方である妃達は国王が後宮に入り浸り、戦場に来ないように手回しを望むセインのために動いていた。

妹よりも賢い元婚約者は正妃の陰で後宮を掌握し、ラーナ侯爵令嬢の療養を後押ししているだろう。

イリアナに心酔し、イリアナのためなら手段を選ばない元婚約者は憎い男に抱かれることも何も思わないだろう。

計算高くて手段を選ばない、自分とよく似た元婚約者を思い出し、セインは笑いを堪えた。

セインは王の置き土産の二人をどうするか思考を巡らせた。


「私はお二人をどのようにすればいいのでしょうか?」


「セイン様!!」



イリアナが天幕に飛び込んできた。

セインは抱きついてくるイリアナを受け止める。


「見慣れない方ですね。僕のセイン様を誘惑しようとしてきたの?」

「は?」

「セイン様のお心は」

「俺の心はお前の物だよ」

「シカク、これは……」


潤んだ瞳で見つめるイリアナに王の置いていった二人の騎士が顔を赤らめている。



「ねぇ、僕のセイン様だよ?」


「私はセイン様より君が欲しい」


騎士にうっとり見つめられたイリアナが固まったあと、すぐに怪しげに微笑んだ。

セインから離れて、イリアナを欲しいと言う男を見つめる。


「僕が欲しいの?」

「ああ」

「そっか。君の忠誠は?」

「貴方に捧げます」

「僕の命令は絶対?」

「はい。喜んで」

「僕に隠し事はしないって約束できる?僕、嘘つき嫌いなんだ」

「はい。約束します」

「破ったら?」

「この身を好きにしてください。貴方が望むなら命も惜しくありません」

「そう。わかった。僕のセイン様の命令は絶対。勝手な動きも、報告もしない。守ってくれるなら傍においてあげる」

「光栄です」


「おい、お前」

「黙れ。俺は決めた。」

「陛下が許さないだろ」

「これが罪で殺されるなら本望だ」



警戒した監視役はポンコツで、セインは呆れ半分に目の前の光景を眺めていた。

イリアナに魅了され、即座に裏切る騎士を見て、国王陛下には碌な側近がいないことを思い出した。


「ラン、お願い」


イリアナがなにかを呟きもう一人の男を見つめた。


「貴方の忠誠は陛下のもの?」

「当然だ」

「本当に?」

「ああ」

「陛下は厄介払いをしたかったんじゃないの?僕たちの部隊のこと知ってるでしょう?」

「俺は陛下が」

「陛下は大事な者は近くに置くよ」

「そんな……」

「ねぇ、捨てられた貴方がいつか陛下の下に帰れるように僕たちが力を貸してあげるよ」

「陛下が捨てた……」

「僕たちは優しいから捨て駒なんて作らない。優秀なセイン様に仕えれば間違いなんておこらない。どんなに使えなくてもセイン様は上手に使ってくださるよ」

「俺は……」

「貴方の忠誠は?」

「へ、い」


男の目がうつろになった。


「忠誠をささげても捨てられて可哀想に。僕たちはそんなことしないよ。よく考えて答えて。貴方の忠誠は?」


「シカク」

「シカク?誰にでも優しくて僕の優秀な主のこと?正しく呼び方さえ覚えられないから陛下も捨てたのか。陛下は能力主義だもんね。捨てられた貴方は誰に忠誠を誓うの?」

「セイン・シカク様に」

「賢明だね。僕のセイン様に逆らったり勝手なことをしたら僕が勝手に貴方を縛って、山に捨てるからよく考えて行動してね」

「はい。よろしくお願いします」



イリアナが二人を連れて出ていきしばらくすると帰ってきた。


「おかえり」

「ただいま戻りました。兵が帰ってきたら監視をつけましょう」

「あれをお前の傍において平気なのか?」

「セイン様の邪魔にならないなら構いません」

「俺はお前が心配だよ」

「大丈夫です。僕にお任せください」


自信満々に笑うイリアナにセインは複雑だった。

「アベルト、イリアナが変わったのは認めるよ。ただ今のイリアナを見て体の弱いお前が倒れないか心配だ」

「兄様?」


セインは国王の置き土産の騎士に付き纏われているイリアナをどうするか悩んだ。

イリアナはセインの傍にいるため、襲われることはないが、真っすぐに成長していた従妹が変な方向に成長している気がしてならなかった。

セインは時間稼ぎの遊戯より、イリアナのことで頭を抱えたくなっていたが、イリアナは気付かない。


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