番外編:魔法使いの墓場
各々が準備してるなか、未来のシフがシフへと近寄っていく。
「あ、あの、なんでしょうか……?」
「…………餞別だ」
シュ! パシッ!
シフは向かってきた物をキャッチする。それは、未来で使われていた呪いの短剣であった。
(うっ、なんだこの……死を強烈に連想するような禍々しさは……刃に触れたらまずいと本能が呼びかけてる……!)
「アンデッドは不死、というよりは既に死んでいるからな。ただの攻撃なら、どんなに破壊しても元に戻る。しかし、それなら別だ」
「ま、まさか、呪いの武器製作者、アクマの新しい作品……!?」
「違う、単に夥しい数の殺しを行ったからだ」
「理由怖っ」
「万能の切れ味や所有者の返還などのちゃちな制約などではなく、確実に死へと誘う本物の呪いだ。アンデットの怨念だろうと呪い潰す」
「な、なんてチートな……」
「言っとくが、これからお前らが向かうのはこんな禍々しい呪いが蔓延した場所だ。おそらく、生命そのものを脅かす。好きで足を踏み入れようとするものはいない」
(ひぇ〜、未来の僕が躊躇う場所なんて尋常じゃなくヤバいじゃないか……!)
「貴様らの妄言を信じきってはいないが、呪いの短剣はもう必要ない。好きに使え。世界は違えど、過去の自分に死なれると夢見が悪い」
「ありがとう、ございます……」
未来のシフは会話を終える合図のように、目を閉じた。そして、横目で見ていたサフィアは頃合いと判断して口を開く。
「よし、善は急げだ。イントゥリーグ王国へ向かうとしよう」
「行く前に1つ忠告をしとくわ」
出発する直前、イヤドが慌てて忠告をしてくる。
「なんだぁ? 違う世界のお前でも容赦なくぶちのめせるぜ」
「躊躇え! せっかくアタシがありがたいアドバイスをしてやろうと思ったのに!」
「何か思いつくことがあるのか? イヤド」
「死霊術が使えて、死してなお魔法が使える……もしかしたら、禁術を使っているのかもしれない。魂だけの存在となり、死者だけでなく生者の魂すら自在に扱えてしまう魔法を……」
「『自霊王』のこと?」
「なんだ、エメガキは知ってるのね。なら話が早いわ」
「『自霊王』……確か、エメルが死霊マスターと対決した時の記録にそんな単語があったな」
「うん、面倒くさそうだから死なせないことで発動させなかったけど」
「大正解ね。いくらアンタでも、魂抜かれて好き勝手されたらゲームオーバーでしょ」
「た、魂を抜かれる……」
「そ。おまけに、相手は魂だけの存在だからアタシの魔法か、バカ勇者の時の力くらいしか有効手段はないわ。というわけで物理男組、あんま出しゃばるんじゃないわよ」
「つまんね」
「今回ばかりは頼りきりますよ……」
「逆を言えば、魔法という分野だけで我らレディースに勝てぬ者などいないさ!」
「ついさっき、似たような慢心で全滅しかけたじゃあない……」
「ではな、行ってくるぞ大人シフにアメト殿!」
「お気をつけてください」
「……」
未来のシフは無言のまま後ろを振り返り、去っていく。
「不器用なのは変わらないな」
「うぐっ……そ、そりゃあ胸中穏やかじゃないでしょうし! 周りの大人がロクでもなかったんでしょうね!」
「ケッ、ガキにまともな教育できないなんて恥ずかしい世界だな」
「ホントよね、気品のない環境が生んだ怪物ってとこかしら」
「あんたら、生涯で鏡見たことないの?」
勇者一行は平常運転で魔王城を出て、イヤドの転移魔法にてイントゥリーグ王国跡地付近へと移動した。
戦乱を極めた未来の並行世界、死霊術をも会得したイヤドはシフにて討たれた。死闘を繰り広げたわけではなく、シフの圧勝。
しかし、彼女の魔法は死してなお残っていた。毒の降る雨、城をも覆う竜巻、煮えたぎる大地に蔓延るアンデッド。イヤドの遺体が眠るイントゥリーグ王国跡地は、呪われた土地となっていた。
「はぁ……まーた、とんでもないのを捻り出してる」
驚きを越えて呆れているエメルに、漂う腐臭に鼻をつまむオニスが便乗していく。
「イヤド、臭いんだが?」
「だが? じゃないのよ!? アタシが臭いみたいに言うな!」
「まぁまぁ、この惨状も私達で尻拭いといこうじゃないか……クフッ」
「捻り殺すわよ!?」
「糞みたいな連携力をしてないで、本当にこの異常天災ラッシュどーすんですが……」
「フン、至極簡単なことよ」
イヤドは髪をかきわけ、魔法を放つ姿勢に入る。
「ぶち壊せばいいのよ」
「そそ。では先に」
「「あっ」」
オニスはいつの間にか居合の構えをしていた。一振りで八つの斬撃に災害級の威力を込め、宿敵アクマを蹴散らした奥義。
『八災破鏖』
余波ですら更地にする事象に、止まらない事態を察知したイヤドが即バリア。その後ろにエメルを引き込むシフ。その2人を抱き抱えて守るサフィア。
オニスは猛烈な爆風を受け止めながらも、脳裏によぎるのは先の大敗だった。
『__溜めの長さが欠点だ』
「……繰り出せなきゃ意味ねぇ、か」
徐々に爆風が収まるなか、シフとサフィアは沸々とした怒りがぶちまける。
「「オ〜ニ〜スッ!!」」
「技の出が課題だよな?」
「課題なのは味方を巻き込むのと配慮のなさだ! やるなと言わんが、せめて避難する時間を設けてくれ!」
「ってか、イヤドも自分だけ守るのズルいですって」
「あ、ゴメ……」
「謝れる心とかあるんだ」
「ツンデレなんだから、たまに優しくしないとだだのカスだぜ?」
「どの口が言ってんのよ!?」
「……ん?」
口論が弾むなか、エメルが不思議そうに周囲を見渡す。
「どうしたんだいエメル?」
「一瞬生命反応……人? に近しい感じだったのに」
「近しい??」
「うん、なんか__」
ズルッ、グシャッ! グシャッ!
宙に黒い霧とともに骸骨が現れていき、次々と落下してくる。
「これらのこと?」
「違う、ちゃんと生き物だった」
「流石に気付かれたようだな。それに、本命の死霊術」
死者の軍勢がシフ達へと向かっていく。
「ではイヤド、あとは頼みましたよ」
「あー……こいつらはアンタ達がなんとかして。アタシは備えとくわ」
「ちょ、さっきはでしゃばるなって」
「まぁ直に触れなきゃ大丈夫よ、多分」
「そこは言い切ってくんないと不安しかないんですが」
(唯我独尊のイヤドが咄嗟に謝ったり、専門分野を他人に任せるなんて……いよいよヤバさが現実味を帯びてきたな)
イヤドが醸し出す焦燥感をシフ達も感じ取り、臨戦態勢をとる。
「これはこれは、随分と活きのいい人間がいると思ったら、予想だにしないメンツね」
身体の芯まで届く不気味な声が響き渡ると、黒い霧が収束していき、山をも凌ぐ巨大なイヤドとなる。そして、冷ややかな目線で勇者一行を一瞥すると、冷笑しながら語りかける。
「現世に留まってみるものね。違う世界の人間、それも自分自身と出会えるなんて。さしずめ、異なる時間軸からの来訪者ということかしら」
イヤドは強張った表情で、未来のイヤドは余裕の笑みで見つめ合う。
「とりま、俺達はお前に用があってなぁ!」
『災撃』
イヤド同士の独特な空気をぶった斬るように、オニスの一撃が巨大なイヤドの胸から上を吹き飛ばす。しかし、またとしても黒い霧がイヤドを形成していく。
「世界は違えど、クソ戦士はクソ戦士ね。相変わらず失礼極まりないわ。でも無駄よ。アタシは霊体、効かないわ」
『噴槍:メッタ刺し』
『だから効かないって__」
『タイムスキップ:因果先行脳天カチ割り』
「人の話を聞け!! 無駄に殺意高い技浴びせんじゃないわよ!」
巨大なイヤドの顔が半分に割れつつも、徐々に修復していく。
「この絶対に死ぬ短剣で刺したんだけど、霊には効かないのかな」
「しれっとえげつないこと試したわね」
「私もコソッと光魔法を剣に纏って滅しようとしたが、霊体だけでなく魔力も多く含んでる特殊な状態のようだ。牛乳多めのカフェオレみたいな」
「禁忌の魔法をそんなもんに例えんな。ってか、当初の目的忘れてないでしょうね!? 消したら死霊魔法どーすんのよ!」
「問題ない。全身斬り刻んだ未来を見たが、何ともなさそうだから頭だけカチ割った」
「じゃあそもそもやんなくていいでしょ!?」




