番外編 死者蘇生
「ぜ、全員蘇させるなんて……そんな無茶な……!」
「無茶ではなかろう? 今まで幾度となく、その奇跡を目にしてきたのだから」
サフィアの発言に心当たりしかない人物へ視線を向ける。
「エメルか……!!」
死者の蘇生。かつて、カンダル王国とイントゥリーグ王国との戦争で、戦死した兵士達を蘇らせている。旅をしてた時は死ぬ前に回復していたからピンと来なかったが、蘇生をもこなせる世界一の回復術師がここにいるのだ。
「……難点が2つある」
エメルは察してか、蘇生について語ろうとする。
「魂を呼び起こすこと、それと死後間もない肉体じゃないと魂を宿しても生き返ることができないという点……細胞が稼働してなかったり、骨だけは生物として括れず、私の回復は効果がない」
「それって実質、不可能じゃない。ま、そんな過去の死者をポンポン蘇らせたら、死の根底から覆るわ」
「……同感したくないけど、イヤドと同意見。摂理に反しすぎるから、私はそこまでしようとも考えなかった」
「いちいち喧嘩を売らないと気がすまないわけアンタ?」
「つまり、魂と生前同様な肉体がなければ不可能というわけか」
「実にくだらんな」
話に入ってきたのは、沈黙を貫いてきた未来のシフ。
「できもしない妄想を聞かされるほど退屈はしていない。時間の無駄だ。ただでさえ煮湯を飲まされた面々を前にして、虫の居所が悪いというのに」
「まぁまぁ落ち着いてシフ君」
「はい! ごめんなさい!」
「君じゃなくて大人な方」
「そうカッカするな。話を元に戻すが、肉体についてなら私の『時』の力で元に戻せるかもしれん」
「何……?」
「ちょっと何それ!? 聞いたことがないわよ!」
「だって言ったこともやる必要もなかったし」
「イ、イヤド、どうしたって言うんですか急に?」
いつになくイヤドが食いつき、気にかける。確かにすごいことではあるだろうが……
「あのね! 人体そのもの遡れるなら不老じゃない! そんなこと可能なら今ここで私に____」
バシッ!
鈍い音を立て、イヤドが気絶して倒れる。手を出したのは未来のシフであった。
「続けろ」
「ま、イヤドの想像した通りだ。時間遡行によって、骨さえあれば肉体まで戻せる。実演してみせよう……タイムバック」
サフィアがそう告げると、イヤドの顔面に時計のような紋章が現れ、光だす。
「ハッ! 一体何……? アタシ気を失って……?」
「イヤド目覚めたか、話はどこまで覚えている?」
「ん? 皆んな蘇らせるってアンタがほざいてたじゃない?」
「この通り、肉体そのものを遡ることは可能だ。記憶や経験をその時点までリセットしてしまうため、使い勝手が悪くてな」
「これはすごい……!」
「え、何の話してんのよ……?」
「傷を負っても治す……いや戻すか。だったらエメルでいいなぁ、喰らった瞬間までトンじまうのは勿体ねぇ」
「これで後は魂を呼び起こすだけになるけど……?」
チラッとエメルの方を見るが、エメルは首を横に振る。
「私は魂そのものに干渉はできるけど、冥府に逝った魂は専門外……」
「イヤド殿が使えるのではないですか?」
「「「えっ」」」
「はぁ!? アタシは魔法使いであって、死霊使いでもなんでもないの! そんな気味悪い真似しないわ!」
「でも使ってましたよ……?」
「えっ」
「この世界の貴女が……」
「じゃあ使えるんじゃないか、イヤド……!」
「いや、ちょ、知らないわよ! 少なくとも、学ぼうとも思わなかったんだから!」
「さしずめぇ、気に入らない手段だろうとなり振り構わず戦ったんだろ。負けんのが大っ嫌いなこいつのことだぁ」
「知った口を……!」
(十中八九そうだろうな……)
「よしイヤド、なんとかして会得するんだ」
「できるかぁ!!」
「……例え死んでも、魂がこの世に留まるケースがある」
光明が見えかけたとき、エメルがふと呟く。
「……怨霊としてだな!」
「イヤドのことだから、きっと死んでも悔しくて悔しくて……!」
「この世にしがみついてんだろうなぁ!! ハッハァ!」
「こ、こいつらぁ……! 好き勝手言いやがってぇ……!!」
「決まったな! この世界のイヤドの遺骨と魂を回収し、本当に蘇生できるか実験しよう!」
「アタシの扱いぞんざい過ぎない!?」
「まぁまぁ、別人のようだけど自分が蘇ると思えばいいじゃですか」
「フン! 死霊術なんかに手を出してる時点でアタシとは思えないわね! アタシ達の世界から使える奴連れくればいいんじゃない?」
「……まぁ死霊マスターとかなら問題なくいけそう」
「あまり行いたくないな……『時渡り』を公にしたくないし、タイムパラドックスが起きてる時間軸の移動だ。更なる異常事態は避けたい」
「やはり故・イヤドで試運転ですね」
「アタシも死んだみたいだからそう呼ぶな!」
「そうと決まったなら、この世界でのイヤドの死に場所へ行こう。心当たりはあるかな、未来のシフ、アメト殿よ」
「……イントゥリーグ王国跡地だ」
「それに、怨霊としてそこの女が留まってるという説は合ってるでしょう」
「ほう、曰く付きなのか」
「アンデッドが蔓延り、魔法がわからない私ですら何かを感じます。危険なので付近までしか確認できませんでしたが……」
「決まりだな!」
「……やるなら勝手にしろ、胡散臭いことに巻き込まれるのは御免被る」
未来のシフはどこか儚げな表情で席を去る。
「ごめんなさい、彼は受け入れ難いのですよ、この雰囲気ですらも。手を汚してきたことに苦悩もあるわけで……なのに、簡単に覆るかもしれないと……」
「気難しいのはもうわかっているさ。本当に色々あったのだ、2人はゆっくり休んでいるといい」
サフィアは終始、明るい口調で話す。死者の蘇生に現実味を帯びてきた今、意気込みが行動へ移っていく。
「では参ろうではないか! イントゥリーグ王国へと!」
「だな、こんな面白いことは早く取り掛かんなぁとな!」
「……オニス、いくらなんでも蘇った皆んなと戦いたいとか思わないでくださいね」
意外にもやる気なオニスに、思いつきそうなことへ予め釘を刺す。
「それも悪くねぇがな。けどよぉ、今の状況でチャラ王のガキンチョや、海賊のガキンチョを蘇らせたらどうなるか見てみたくね?」
「え……?」
「ハァ……貴方って人は本当に性根がクズですね」
「元カノと元カノに、妻と子を宿してるとなったら修羅場で超面白いじゃん」
「クソ動機すぎる……!!」




