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番外編: 盗賊魔王の妻

『時読み』


未来を見る、時の勇者の能力。しかし、瞬間的に数分間の映像が脳内に流れるため、尋常ではない負荷がかかる。そのうえ、未来を知って己の行動を変えれば、また未来は変化する。


常に『時読み』で上書きし続け、熾烈な戦闘に身を興じなければならない。通常であれば行えないが、回復術師であるエメルがいれば話は別である。


空断脚(くうだんきゃく)

『時読み』×『タイムスキップ、因果先行動(いんがせんこうどう)


空間を切り裂く足技を放つと同時に、サフィアは未来シフの真後ろを取る。


(完全に動きを読まれてるな、誘いにも乗ってこんか……)


(……驚愕だな、もし触れていたらカウンターを喰らっていた。時を飛ばしても反射で対抗しようとは、迂闊にタイムスキップは使えんな)


極限レベルの死闘、シフ達は眺めることしかできなかった。


「とてもじゃないが、立ち入れる領域じゃない……!」

「ガハッ、何を言ってやがる。あれもお前なんだろう」

「オニス……!」


血反吐を撒き散らしながら寄ってきたオニスが笑みこぼしながら、ドサリと座り込む。


「完敗だぁ、最高な経験だったぜ」

「げ、元気そうで何より……」


最近で1度、サフィアとオニスは戦ったことがある。純粋な近接戦闘であったが、勝敗はオニスの辛勝。


あの2人に大きな差はない。シフ自身も同等のレベルだと自負していた。この戦いを見るまでは。


「何よ……アタシとやった時は力をセーブしてたっこと……!?」


イヤドが悔しそうに呟く。


「……セーブしてやらないと、とっくに廃人になってるからだよ。私が治療し続けないとね」

「……でしょうね」


過去にイヤドは、サフィアを気絶するまで追い込んでいる。それも、人々を守りながらである。時の力の真骨頂、改めて最強の能力と実感する。


(この状況、守るべき存在は僕らになってしまうんだな……)


『勇者として相応しくないが……守るべき存在がなく、自身の肉体すら顧みなければ、私は最強だ』


あの言葉に偽りはない。勇者としての(しがらみ)と使命を解き、その上自己犠牲をしてまで最強へと成った。


「……サフィアが倒す気なら、もっと優劣がついてもおかしくない」

「サフィア……まさか本当に……?」


苛烈していく攻防、そこで決め手に欠けていた未来のシフが打開を試みる。


「妄言を吐くだけの実力はある。だが、いつまで続けるつもりだ? ここで殺す気がないなら、俺は確実に仲間を殺すぞ」


「……辛かったろうな」

「……は?」


またしても怒りを露わにする未来シフであったが、サフィアの顔を見て困惑する。


「本来の君は平和を望み、甘いものが好きで、嫌だ嫌だと言いながらよく働いて……」


心底悲しみ、涙を流すサフィア。戦いは自然と止んだ。


「何を……」

「姫や仲間が亡くなる想像だけで、胸が引き裂ける想いだ。体験したならば、尚更な……」


「黙れ……! お前に何がわかる……!!」

「少なくとも、君の本性ならわかる。かけ離れた行動をとっていることも。環境が……君を変えすぎた」


「……ほざけ、もう奪われるのは御免だ……!」

「だからこそ、君は報われるべきなんだ」


「お止めください!」


辛そうにも必死な声が届く。どこか聞き慣れた女性の声であった。


「ハァハァ、事態はまるでわかりませんが、サフィア様もシフ君も……これ以上無益な争いは……!」


息も絶え絶えな状態でかけ寄って来る人物に驚きを隠せず、大きな声で呼びかける。


「ア、アメトさん!?」


この世界で生きていたということ。そして何より、身篭っていたのだ。


「何故ここに来た、アメト!」

「いてもたってもいられないでしょう、サフィア様に子供のシフ君、元隊長オニスに暴妃イヤドまでいるなら」


「ちょっと! 暴妃ってアタシのこと!? どこが!!」

「黙ってろ暴妃。にしても、意外な人物が出てきたな〜。ま、生き残ってるには妥当だな」


「本当に何が何だか……うっ!」


「おい勇者! この壁を早く消せ」

「心配せずとも、診てくれるさ」


未来シフは吐いているアメトの身を案ずるも、すかさずエメルが側に行く。


「……大丈夫、妊娠中のよくある症状。無事だよ、中の子も」

「ありがとう……」


「さて、ひとまず休戦だな。あのアメト殿に刺激を与えたくないしな」

「…………あぁ」


勇者一行は戸惑いながらも、未来シフの根城である魔王城へと招かれる。そこで、アメトに異なる過去からやってきたことを説明する。


「なるほど、あり得る話ですね。オニスと暴妃イヤドを連れてるほうが驚きですが」

「アタシが連いてってんの!」


「ふぅ……すいませんね、もてなそうにも来客用の品がなくて」

「気にしなくていい。それより……ものすっごい気になっているのだが、そのお腹の子って……」


「あぁ、シフ君との子ですよ」

「えぇ〜〜!?」


驚きを隠せず、思わず未来シフへと一同視線を向ける。


「……」

未来シフは我関せずと少し離れており、ずっと窓を眺めている。


「おいおいおい、荒廃した世界で思春期を迎えて盛えちゃったか〜! いや〜大事、人の3大欲求だもの! 食う寝る抱く! しっかし、元同僚が寿退社とは__」


バキッ!


嬉々として煽るオニスを無言でぶん殴る未来シフ。


「ぼ、僕が、そ、そんな、アメトさんと、ふ、夫婦になんて……!?」


「……シフが壊れた」

「まぁ無理もない。どちらも他人事ではないからな……」

「で! で! 馴れ初めは!?」


「単に私しかいなかっただけですよ。カンダル王国も崩壊し、ルビ姫様も亡くなって……お互いに喪失感を埋めるようにですね」


「フフ、そうか。めでたいな」

「……怒らないのですか?」


「確かに格好いいとは思うが、幼きシフが1番性癖に刺さる」

「さっきまでの強者は何処に」


「いえ、そんなのは聞きたくもなかったのですが。彼の大虐殺を止められなかった……いや、止めようともしなかったことを」


「ほう……」


(確か、人が繁栄されなければ争いは生まれないだったか。極論だ……でも、盗賊だった頃は富裕層が憎くて仕方なかった。境遇さえ同じなら……僕も同じ道を辿ったのかな)


「私は善人ではありません。そして、王もルビ姫様も失った。だから……共感してしまったんですよ。奪われるなら、奪うまで……」


「なら、チャラにすればいい」

「……どう精算しろと言うのですか?」


「全員蘇らせる」


「「「「はぁ!?」」」」


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