番外編:未来から来た勇者
「ねぇサフィア、最近自傷してない?」
「……どういう経緯でそれを聞いてるのだ??」
平和になったカンダル王国の昼下がり、ルビがサフィアに素っ頓狂な質問する。しかし、ルビが根拠のないことを言うわけない。つまり……
「マジですかサフィア」
「いやおかしいだろう、何故今のでルビの方を信じる?」
「いやだって人柄的に」
「待ってくれ、さしもの私もそんなメンヘラ要素を取り入れんぞ」
「そうですね……サフィアなら自分を傷つけるよりも他人に迷惑をかけますし」
「違う違う、それはシフにしかしないからセーフ」
「あぁ、負けた」
「何の勝負してんの!?」
「……で、どうしてそんなことを聞いているのだ?」
「実は……片腕に片目のサフィアを見かけたって噂を、ちょくちょく聞くんだよね」
「な、なんだそれは……!?」
「オニスさんやイヤドさんと戦ったってなら、そっちの方が耳に入るし、シフ君だったらそこまで痛めつけないし……」
「それで考えるとしたら、サフィア自身がやるしかないってことか」
「待て待て、私はちゃんと五体満足であろう?」
「それはエメルが治せるから通じない反論ですね。注目を浴びたいがためにやった、そうでしょう?」
「そんな命がけで得が少ないことしないぞ!?」
「だとすると、偽物が現れたみたいだね」
「でも、何でわざわざ一目瞭然でバレる変装なんてして、サフィアに成ってるんだ……?」
バァーーーーン!!!!
突如と鳴り響いた轟音に、全員が注意を向ける。言葉を交わさずとも、一斉に音がした方へと向かっていく。
「この魔力……イヤドさんのだ!」
「マジか……」
ルビが冷や汗をかきながら言うのを見て、ほぼ間違いない。最近大人しかったが、また問題をやりかねる可能性はあった。
「い、一体何があったんだろう……?」
「くっ、肩でもぶつかったかな」
「沸点低くすぎない!?」
煙だち、周囲に人だかりができているなか、サフィアが真っ先に駆け寄る。
「すまない! 道を開けてくれ!」
「あっ! 勇者様が戻ってきちゃった!」
「……ど、どういうこと??」
サフィアとはついさっきまでずっと一緒にいて、この発言は明らかにおかしい。だが、他の人も同様の反応をしている。
「な、何だというのだ……? ん! イヤド大丈夫か!?」
サフィアがうずくまるイヤドを発見する。出血していて、地に水溜りのようにできているほど。
「ア、アンタねぇ!! よくも抜け抜けと戻ってきたわ、殺してやる!!」
「はぁ!?」
イヤドは歯を食いしばり、火炎を放つ。
「待て待て!? 私はお主と会ってない! ずっとシフ達と一緒にいたぞ!」
「とぼけんなっ!!」
聞く耳をまるで持たないイヤドにルビが割って入る。
「落ち着いてくださいイヤドさん! もしかしたらサフィアの偽物が現れた可能性があります!」
「はぁ? 時の力使えたのに偽物なわけないじゃない!」
「なん、だって……!?」
「…………そうか、そういうことか」
誰もが驚くのに対して、サフィアだけは冷静に独り言を呟く。
「イヤド、君が襲われたのは私ではあるが、私ではない」
「何よそれ!?」
「答えは自ずとやってくる。だから落ち着いてくれないか」
「訳わかんないこと言ってないで__」
「タイムスキップ、『因果先行手刀』」
「__かはっ!?」
一瞬にてサフィアはイヤドを気絶させる。手負いで何も対策なければ、さしものイヤドも成す術がないだろう。
「至急、エメルのとこに連れていこう」
「わかりました……でもさっき言ってたことって……?」
「ちゃんと説明するさ。それに、あまり他人には聞かせられない話になる」
ひとまずはサフィアの言うことを信じ、ホテルへと向かった。
傷が癒えたイヤドはベッドでスヤスヤと眠っている。
「傷は治したけど、あえて意識は戻さなかった」
「ナイス」
エメルによるファインプレーで話す場は整った。皆んながサフィアの真相に耳を傾ける。
「時の勇者に選ばれし者は過去、未来にいける『時渡り』というものが行える」
「そ、そんな力が……!?」
「原則として、世界の終焉でもない限りは使用はしないんだが……」
「じゃあもう1人のサフィアは過去か未来から来たってこと……?」
「おそらくは未来からだろうな。未来に何らかの危機に陥り、過去で修正にきたと考えられる」
「それだけ未来に何かあったことかなんだよね……」
「……どうやら本人がやってきたようだな」
「……そのようですね」
強い気配を外に感じ、一気に近づいて窓から侵入してくる。
昔にもサフィアがこの部屋に侵入して来たことを思い出す。しかし、外見はとても痛ましい。右腕がなく、左目は包帯で覆われ、肌も傷だらけだ。
それでも紛うことなきサフィアだった。
「やぁ未来からの私……でいいんだよな?」
「あぁ、話が早くて助かる」
(……ん、殺気……?)
未来のサフィアと目が合うと、彼女は血相を変えて剣を引き抜く。
「よもやこんなとこで会うとはな」
「えっ___」
剣を向けられ、今にも襲いかかりそうな勢いで言った。
「ここで世界を変えさせてもらう、貴様の命をもって……盗賊魔王シフッ!!」
「はい……!?」




