盗賊少年は平和に暮らしたい
アクマとの戦いを経て、カンダル王国は復興に力を注いでる。イントゥリーグ王国の支援を受けつつ、避難した民が戻ってきている。
王様とルビを筆頭にアメトさん、そして新たに隠密部隊に加わった元白バラのマイトさんがせっせと働いている。他の白バラは1人を除いて拘束中だ。
パイは近くの海域で早速貿易兼海上隊として奮っている。ちょくちょく顔を出しに来てくれるので、会いに行くと言っときながら一度も行けてない……
バンさんは故郷の宿屋に戻った。帰る前に王様が資金援助、更に国との提携を結ぶ形となり、実質的に同盟のようなものだ。戦力的にも頼もしく、また魔族が繁栄した際の情報源になるだろう。
マリア女王、リック相談役も無事に生還して世界各国は落ち着き、世は平和へとなった。が……
「ッラァァァァァ!!」
「ハァァァァァァ!!」
怒号と剣戟が鳴り響く兵士の練習場。試合というより死合いに近い激闘を繰り広げるサフィアとオニス。拮抗する実力同士での研鑽……も一応あるが、オニスの戦闘欲発散である。
「いいねぇ、お前ともこうして全力でヤり合いたかったぜぇ!」
「やれやれ、とんだ重労働だ……ただ、勝ちを譲る気はないぞ」
サフィアは時の力を、オニスは周囲を破壊させないよう、それぞれ封じている。純粋な近接戦闘のみとは言え、見応え充分だ。兵士達は訓練をやめて観戦している。
「はいはーい、ひと口千ゴルド、情勢は五分五分! 賭けるなら今のうちだよー」
遂には賭けまで始める者も……と、よく見たらアメトさんだった。何やってるんだあの人……
「余はオニスじゃな。しぶとさと状況を一転させうる剛力、サフィアといえど厳しかろう」
「いーや、サフィアだよ! 剣捌きに関しては世界一! オニスさんの力も踏まえたうえで立ち回れるし!」
「あ〜あ、王族親子が賭けに手出ししちゃったよ」
「おやシフ君、君も賭けますか?」
「……じゃあサフィアに2口」
「毎度あり〜」
「……シフはサフィアに賭けたんだ」
エメルの元に戻ると疑問が飛んでくる。万一の事故に備えてエメルも待機していたのだ。
「あぁ、うん……正直言うと、どっちが勝ってもおかしくないかな。長所はそれぞれ違えどね、実力にほとんど差はないから。運任せになるんだったら、応援する方にと思って」
「……へぇ、サフィアに勝ってほしいんだ」
「そりゃあね。エメルはどっちだと思う?」
「……じゃあオニス」
「……じゃあ??」
「…………特に理由はない」
「フン、同士討ちでくたばってくれたら面白いのにね」
やや不機嫌そうに漏らすのはイヤドだ。ルビの手厚い勧誘で王族教育に手を貸すことが決まり、手筈が整うまでの間も留まってくれることになったみたいだ。
「もしそうなったら、イヤド様がこの場で一番強いことになるッスね! この国乗っ取れちゃうッスよ!」
テンション高く反応するのは元白バラのガネットだ。あの一件以降、イヤドにご執心になり、助手として側にいる。
そこまで驚異じゃないし、何か企めば良い情報源になるとのことで特別に泳がせている。それに、あのようにイヤドを持ち上げてるのがイヤド本人の精神衛生的にいいのだろうという判断だ。
「お馬鹿、まだシフがいるのよ。エメルもいちゃ、死んでもすぐに……待って、死体をすぐ転移させれば……!」
「……公然と悪巧みしないでください」
……まぁうん、多分大丈夫だと思う。
長きの苦労を経て、ひと時の平和を掴んだ。それでもこの先の人生もまだ長い。ただ今はこの余興に浸ろう。
これからも僕は……平和に暮らしたい。
度々間が空いてしまい、申し訳ありませんでしたが、無事完結することができました。
読んでくれた方、ブックマーク、感想、評価していただきありがとうございました。
またゆっくりですが、新作なども書いていこうと思います。
また、ひと段落したら後日談なども考えております。




