盗賊少年と後日談
宿敵のアクマを倒し、宝石になった皆んなを戻した後、真っ先に行っているのは建築だった。
「世界を救ったってのに、次にこんなことから始めるなんてな」
「悪いね、手伝ってもらっちゃって」
丸太を担ぎ、せっせと働いてくれるのはパイ。
「乗りかかった船だ、最後まで付き合うさ。ま、ここまでぶっ壊したのがシフの仲間ってのが笑えるな」
「うん、もう伝統芸だから」
ここまで崩壊したのはアクマよりもオニスのせいだ。前回同様、仲間の領土ばっか滅茶苦茶にされてるのはほんとおかしい。
「ぃよう、イイ女を侍らせてんな」
噂をすればオニスがやってくる。やたらとパイのことをジロジロと見ている……嫌な予感がする。
「な、なんだよお前……」
「見てわかる、強者の匂いだ」
「視覚なのか嗅覚なのか、どっちだよ」
「っし、いっちょ一戦交えーー」
「だぁー!! ストップストップ! ただでさえ宿敵を倒したってのに、もうこりごりですよ!」
「落ち着けよ兄さん、暇なときはいつでも手合わせしてやるよ」
「へへ、話が通じて嬉しいぜ」
「話そうとしてなかったのに……それにパイもこの人にホイホイと約束しないほうがいいよ」
「心配すんなって、むしろ学びになるさ……それに、俺もこの国専属の貿易船になるしよ」
「えっ!? いつの間に……」
「シフ達が戦ってる間に、そこの王様にスカウトされてよ」
「ぬ、抜け目ない……」
「安定した稼ぎってのも必要だしな。何より、あのイントゥリーグ王国が下ってのが気に入った」
そうか、因縁があるもんな……
「いやでも嬉しいことだ、たまに顔出すよ」
「おう、いつでも歓迎するぜ!」
「俺もお前らに時々手ぇ出すよ」
「「それはやめろ!」」
闘わせるために無理矢理襲うからなこの人は……
ふとイヤドの姿が視界に入る。何かを話してるようだが、意外にも相手はルビだ。ウィッチの村で会っただけでほとんど面識がないはずだが……
「ちょっと心配だから様子を見てくるよ」
「王の娘さんに、仲間の魔法使いじゃないか。何が心配なんだ?」
「アクマの前に攻め込んで来たのはイヤドだから」
「複雑な仲間だな……」
「ホント、あいつ何するかわかんねぇからな」
「「おまいう」」
2人から離れてイヤド達の元へ行くと、なんと話の主導権を握っていたのはルビだった。
「ーーですから、ちゃんと報酬は弾みますし、毎日じゃなくていいので!」
「あのね、アタシの魔法は凡人が真似できる代物じゃないのよ!」
「あの……2人は何を話してるの……?」
「あ、シフくんお疲れ様! ほら前に話してた王族強化の教育者として、イヤドさんにお願いしてるの!」
「イ、イヤドにそれを任せるの……!?」
「何よ、アンタから見てアタシじゃ不遜ってわけ?」
「いや、違っ……」
実力としては申し分ないが、人格がね……
「このアタシが鍛えたら、そりゃもう偉大な魔法使いが量産するわよ!」
「じゃあ引き受けてくれるんですね!」
「いや、違っ……」
「……今回の一件もあるんだし、それくらいいいんじゃない?」
「うっさいわね! あのアクマなんていなかったら、アタシの思うがままにことがーー」
「そう!! あのサフィアを押さえ込んだイヤドさんだからこそ、お願いしたんです! 最後の戦いも父から聞きました! その力を、より後世に残していきませんか?」
「ふ、ふーん、言うじゃない……見る目はありそうね」
「はい! 一目見たときから、凄さを実感しました! 私が見た魔法使いの中で1番、そしてそれはこれからも変わりないですよ! そんなお方の指導を受けられるなら個人的にも嬉しいです!」
「な、なら前向きに検討してあげようじゃない……」
言葉巧みに乗せられて気分良くなるイヤド。よくよく考えれば、僕達の中でイヤドを純粋に褒める人はいなかった。案外相性が良いのかも……いや、単にルビの人付き合いが上手いだけだな。
ルビの交渉術に感心していると、影でこっそり王様が手招きしてる。このイヤド勧誘も、一枚噛んでそうだ。
「どうじゃ、上手くいってるじゃろ?」
「えぇ……ただ、あのイヤドなら王族相手でも失礼を多発しそうですけど」
「じゃが、また監禁しといて敵ボス候補になるよりマシじゃよ。放っておくのも怖いし、手の届く範囲にいてもらうのがまだ安全だもん」
「だとしても、思い切った発想ですね」
「言っとくが、全部ルビの発案だぞい。そもそも王族強化からしてそうだし。それに、大人が頼むより子供の願いのほうが効く場合もある。これもまた、王としての道よ」
「……流石、貴方の子だ」
「フハハ! 3度も救ってくれた君にそう言われると嬉しいのぅ!」
「……僕だけじゃない、いろんな人が力を貸してくれたから今がある。王様だって」
「何を言う、君が来てくれたから手を貸せたんじゃ。もう後始末はいいから、ゆっくり休むといいって」
「そうですか……なら、お言葉に甘えて」
王様の気遣いに、今回ばかりは言う通りにしよう。平和になった今、真っ先に叶えたい約束があるからだ。
ある品を入手してから、いつもの部屋へと戻る。先客はベッドで寝転んでいるものの、珍しく意識があった。
「やぁお待たせ」
「……こっちも準備万端」
「ん? エメルは何を準備したの?」
問いかけると、彼女は得意げな顔である物を取り出す。
「……魔術式映像具現化水晶」
「な、なにそれ!? そんなの世に出回ってないのに……」
「……ウィッチの村で拝借してきた」
「あ〜、あの時か……ちゃんと返そうね。堪能したら」
「……流石盗賊、わかってらっしゃる」
「責める資格がないからね。で、何が見れるの?」
「……大ヒット原作漫画、『卑劣の刃』の試作映画らしい」
「マジ!? 超秘蔵物じゃないか! 見よう見よう!」
買ってきたポテチとコーラを広げ、早速映像を流してもらう。
「いや〜、このために戦ってきたと言っていいな〜」
「……うん、ほんとよかった」
戦いの感想や労いはもう必要ない。身体に悪く美味い物を摂り、横になって好きなだけだらける。これが最高のご褒美だ。平和になった世界で、至福の時間を迎えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふと目が覚めると、辺りが暗くなっていた。いつの間にか寝てしまったらしい。食い散らかしていたお菓子は片付けられ、身体には毛布がかかっている。
真っ当になってきたエメルとはいえ、こんな芸当はできない。とするならば……
周囲を見回すと、ベランダにサフィアがいる。手すりに寄りかかり、お酒を飲んでいるようだ。
「珍しいですね、サフィアが飲むなんて」
近づいてみると、顔がほんのり紅い。ゆったりとグラスを置き、こちらを向いてくる。
「……飲みたい気分でな」
「勝利の美酒、ってやつですか」
「いや……本当に最後しか活躍できなかったなぁと」
「あぁ……」
イヤドと対決し、衰弱したところを狙われてずっと宝石にされたからなぁ……
「……でも、今回のでサフィア自身……勇者としての重荷がわかりましたよ」
「……ほう?」
「時の力を持つ者として、不自由を強いられては悪どく狙われる。能力が敵に回ったことで、改めて強さも実感しましたし……でも力を思うように発揮できない損な役、と言うべきか」
「ふふ、気遣いありがとう……けど私は現状に満足している。勇者がいなくとも危機を乗り越える世界……頼もしき仲間達に」
「……結束力さえあればね」
「ハハ、まぁな。いやしかし、なかでもシフが抜きん出ているさ」
「まぁたそう言って変なーー」
「いや、純粋な評価さ。数々の能力を有するアクマと渡り合えた……その年齢でだ。成長したら、私ですら敵わんかもな」
「成長、か……けど、サフィアと戦う時はセクハラに対抗する時だけで勘弁ですよ」
「だな」
「そこは引いて」




