盗賊少年と勇者の攻防
勇者サフィアの出所という衝撃のニュースを聞いてから一夜明け、ハムエッグパンケーキにカフェオレでモーニングを堪能する。
きっとこれが、最後の安寧な朝食になる。この先、いつ勇者が来てもおかしくない。結局、有効な策は思いつかなった。
ただ、罠だけは入念に仕込んだ。他の客や従業員もいるため、廊下には仕込めなかったが、窓には鉄線を張り巡り、麻酔銃を置いて、外から来たときに狙えるようにしてある。
ドアノブと出口付近の床には、大型の魔物も微量で動けなくなる痺れ薬を塗った、極細の針を大量に仕込み、天井からはネットを降るよう設置。
それでも厳しい場合に、催眠ガス用の粉塵をどこでもバラまけるよう、手元と各地に配置。当然、ガスマスクも装備している。
そして壁に緊急脱出口を作っといた……いつか直しておこう……
「さて、最低限の準備は万端だ」
でも、朝に開放されたら、そのまま仕事に回されるだろう。つまり、今日の朝、昼に来る確率は低い。
今はこのひとときを噛み締めよう。ゆっくりとカフェオレの入ったカップを口に運ぶ。しかし、不穏な気配を感じ、カップをすぐ机に置いた。
誰かがものすごいスピードで向かってきている……心当たりしかない。まさか、出所朝イチで会いにくるとは……
急いで窓に向かい、麻酔銃を構える。遠くに土煙を巻き上げながら、こちらに近づいててくる影が見える。段々と清明に見えてくる。わかりきっていたが、勇者サフィアだ。
殺気を完全になくし、サフィアのスピードを把握し、着弾時間と計算して標準を合わせる。行動を予測し、引き金を引く。しかし、サフィアは更に加速し、麻酔弾は地に当たる。
「くそ! まさか勇者特有の『時の力』を使うなんて……たかが会うためだけに!」
愚痴を漏らすも、麻酔銃を置く。次弾を装填してる間に、もう着いてしまうだろう。今は催眠ガスを巻き、気配を完全に消して、隠してた緊急脱出口を蹴破る。後はあそこに移動するだけ……
サフィアが鉄線を剣で切り裂き、窓から侵入する。サフィアは数歩歩いた後、天井からネットが降ってくるが、バラバラに斬られてしまう。
「ケホッ……もういないか、残念だ」
サフィアは辺りを見渡した後、去っていった。
僕はそれを、ベッドの下にしがみついて隠れて見ていた。逃げるときに音は消せても、匂いは完全に消せない。サフィアも五感は鋭敏だ。ただ逃げても辿られてダメだ。
だから、緊急脱出口から逃げたように見せかけ、催眠ガスを巻いて長居させないようにした。それに匂いも、この部屋の中なら匂っても違和感ない。
でももし見つかったら、逃げ場なく終わっていた。一か八かの賭けであったが、本当によかった。
「これは夜も気を引き締めないと……」
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日が落ち、待ち合わせ場所の森林の中で待機している。朝以降、サフィアは襲ってこなかった。しかし、居場所が割れてる以上、いつ来てもおかしくない状況で、常に臨戦態勢だった。
そのため、もう夕方には宿屋から離れていた。そして、アメトさんも近づいて来てるみたい。
「お待たせしま……なんでそんな汚れてるんですか?」
アメトさんがこちらを見て、疑問を抱く。薄汚い動物の毛皮を羽織り、服と肌には泥をつけている。
「これは勇者用に、匂いを野生と同様にして、誤魔化すためです」
「そいうのって、獣相手にやるんじゃ……」
「相手は獣ですから」
「上手い。まぁ今回の任務に支障はなさそうなので、大丈夫でしょう」
「野盗の撲滅でしょう? サクッと終わらせて、対応策を一緒に考えてください」
「任務をおまけ扱いしないでほしいものですが、シフ君がいると捗りそうです」
「そう思って、半分程度までに減らしておきました」
「もう手をつけちゃったんですか!? わざわざ夜の活動していない内に、待った意味ないじゃないですか」
「洞窟の中に追い込んだので、後は見張りを倒して、催眠ガスを投げこめば終了です」
「なんなら最後までやってくれてもよかったのに」
「そしたらアメトさん、帰っちゃうでしょう?」
「鋭い」