盗賊少年と集結
交わす言葉は少ない。互いに倒すという敵意は満ちていた。地を踏みしめ、最短最速でアクマへと攻撃を仕掛ける。
(速い!?)
魔力探知に生命探知までできる相手に、小細工は余計だ。単純なスピードで上回るしかない。
首を狙った一撃は、防がれるも深々とアクマの両手を突き刺す。
「いっつぅ……! でも無駄やで、こんな傷ーー」
「知ってますとも、エメルの治癒能力は貴方より詳しい。けど、痛みはあるでしょう」
刺した短剣で引き裂くように両腕を斬り落とす。再生できるといっても、痛覚が遮断できてるわけではない。
「ぐっ!?」
『八つ裂きの一振り』
『波斬り』
両サイドからは2人の猛攻。例えイヤドやオニスの身体能力があっても、避けることは叶わない。
「『ダイヤモンドプロテクト』!」
イヤドの持つ最高硬度の防御魔法。防ぐにはそれしかあるまい。すぐさま呪いの短剣で斬り込みを入れ、防壁ごとアクマの腹を蹴り飛ばす。
「何っ!?」
宝石にした人達の強力な能力。故の慢心に、操るのはたった1人。それも、戦闘には慣れてない人間の判断。その上に、選択肢の豊富さが仇となる。
後方へ飛ばされたアクマは呪いの斧を構えんとする。
「タイムスキッーー」
そして、魔法や時の力は使わせない。がっちりと身体を抑える。
「タイムスキップは行動可能な状態でなければ意味がない」
「この……!?」
『天地足頭』
掴んだアクマをひっくり返し、顔面に蹴りを入れる。すかさず2人が追い討ちをかける。
(ここまでやるようになっとるなんてな……)
2人が詰める瞬間、小さな黒い球体が出現する。ただそれが危険だと直感した瞬間には遅かった。
「『エンデ・アンファング』」
黒い球体は急激に膨張し、瞬く間に広間を覆い尽くした。
意識が一瞬飛び、周囲を確認すると空が見える。完全に王宮は崩壊していた。
自分自身も巻き込んで、逃げることすらできない全方位攻撃。エメルの治癒能力あってこその自爆行為か……
「っはぁ、無様やけど抜け出せたやなぁ。正直驚いたでぇ、ここまで追い詰められたんわ」
「ぬぅ、たった一手でここまで……!」
「くそッが……!」
全員が満身創痍。ただアクマだけが、順調に回復している。戦闘に持っていけたのはいいが、深手を負った挙げ句、距離を取られたのがまずい……
「もう容赦はせぇへん。タイムスキップーー」
「あ〜あ、もう滅茶苦茶じゃのう」
アクマの更に奥から聞き慣れた声が響く。
「お、王様!?」
まさか無事だったとは……既に捕らえられたと思っていたのに……
「あんたは確かカンダル王国の王か、今更イチャモンしに来たんか?」
「当たり前じゃよ。国も娘も奪われて、引っ込んどく馬鹿がおるか」
「はは、何ができんねん」
「一泡ふかせるぞい」
周囲からアクマに銃弾が放たれる。戦闘で気付かなかったが、兵士達が包囲していたのだ。それも、イントゥリーグ王国の……
「小賢し、タイムスキップーー」
「無駄じゃよ」
王様の手から輝く宝石。あれは確か、マイトさんがサフィアに使った能力封じの……
「……どーりでないと思ったわぁ」
アクマは時の力でなく、魔法壁によって弾丸を防ぐ。
「王様……!」
思わぬ助っ人とタイミングに思わず笑みが出てしまう。
「オラァァァ!!」
果敢に先へ向かったのはパイ。案ずるより前に察したのだろう。今が最大の好機だと。
「『メガウェーブ』」
「ハッ! 海賊に波を向けるなんて良い度胸じゃねぇか! 『大波災断』!!」
放たれた大津波をアクマごと一刀両断するパイ。
「『大地烈斬』」
バンさんはその場で斬撃による支援。また自爆されて全滅は避けておきたい。良い判断だ。
「ぐっ!?……無駄やで、何度だってーー」
そう、奴の言う通り、エメルの治癒能力がある限り何度倒したって無駄なんだ。それでも攻撃し続けていたのは戦闘に意識を持っていくためだ。
オニスと闘った時と同様、感覚が研ぎ澄まされ、周りがスローに感じる。
かつ、2人が気を引いてくれたおかげで目的は果たされた。
『絶盗』
「『黒手伏魔殿』!」
アクマはより守り固めようと、結界を張ろうとする。だが、もう遅い。
蒼く光輝く宝石をこの手に握りしめる。
「僕は盗賊だ」
「なっ、いつの間に……!?」
「シフ〜、余のは解除しといたぞー」
サフィア、力を貸してくれ。
「残りも返してもらう。タイムスキップーー」
『因果先行絶盗』
盗んだという結果が残る。結界があったため多くは盗めなかったが、充分な成果が手元にある。時の力を使ったことによる身体の負荷……それを気にもとめない最高のお宝を手に入れられた。
蒼玉、黒瑪瑙、翠玉、金剛石。
「やってくれるやないか……!」
その中で翠玉だけが勝手に輝きだす。徐々に人の形を形成していき、エメルが姿を現した。
「エ、エメル!?」
「……ただいま」
「ば、馬鹿な!? うちの宝石変換を解除したというんか!?」
「……元が人間なら、治せると思って」
「はは……君も大概、何でもありだ」
「お疲れ様、シフ……一緒に治してあげる」
そう言うやいなや、身体の傷と疲労が消え去る。そして、手に持つ宝石達がかつての仲間達へと変貌を遂げる。
「……全く、遅かったわねシフ。でも、大義だわ。それと、あの糞腐れ女にたっぷりお返ししてあげないとね」
「イヤド……」
ツンツンしながらも、上から目線で褒めてくれる……と思いきや復讐を忘れないこの感じ……まさしくイヤドだ。
「ヒュ〜、でかしたぜ……また戦らせてくれるなんてよぉ!!」
「貴方という人は……」
お礼は言えど、こちらには見向きもせず戦闘の喜びを噛み締める……これでこそオニスだ。
「え!? 皆いる!? なんだこれは!? ハッ! 王宮が滅茶苦茶に!? よもやイヤド、そこまで地に堕ちたか!」
「うっさいわね! アタシじゃないわよ! 元を辿ればアンタのせいで苦労したんだから!」
「えぇ!?」
……そっか、サフィアはイヤドと戦って衰弱したところ狙われたから、事の経緯を知らないのか……最後まで締まらない、サフィアらしいや。
「……要するに、アレが敵。皆で協力して倒そう……」
「う、うむ……? それよりもエメルがまともに指揮してくれるのが気になるのだが……」
「そのくだりはもうやったんだ。さて、それじゃあ……久々にぶっ飛ばしますか!」
人類の脅威を、世界最強のパーティで。




