盗賊少年と山賊中年
長い航海を終え、魔族領域へとやってきた。港はないものの、集落などはある。冒険時代よりも人の手が加わってる印象だ。
「おーーし、碇を下ろせ!」
船を停留させ、パイ達と海岸へと降りる。
「到着っと……案外楽に着いたね」
「天候が味方したのが幸いだったな」
「……お2人が魔獣をボコボコにしてたから、気軽に言えることなんですが」
「怪物夫婦って感じ……」
「だだ、だ、誰が夫婦だコラァ!」
「怪物も否定したら……?」
続々と積荷を降ろすのを、ふと疑問に思う。
「なんか随分と多いね?」
「貿易まがいのこともやってからな」
「そうだったの!?」
「ビジネスの1つさ。海賊狩りだけじゃ収入が安定しねぇし。せっかく魔族領域になんて来たんだ、稼ぎ時だぜ!」
「なるほどぉ、たくましい……」
「商いに手下任せて、俺も元魔王の所に挨拶へ行くか。今後肩を並べて戦うわけだしな!」
こうして、パイと共にバンさんの元へと出発した。山道を歩いていると、パイが不思議そうに尋ねてくる。
「なぁ、元魔王ってどんな奴なんだ?」
「気さくで良い人ですよ。空気読めるし」
「それ魔王としてどうなん」
「でも魔王がそうじゃなかったら、僕はきっと闇落ちしてたね。間違いなく」
「心の支えすぎだろ……にしても、なんか妙じゃないか?」
「何が?」
「この山道……最近できた感じだよな?」
「確かに……絶賛開拓中とはいえ、優先して作るところじゃないよね……?」
「この先で、魔王ん家以外に何かあんのか?」
「いや別に何もなかったけど……の割には人が通った跡が目立つな」
「魔王の家が観光スポットでもなってんじゃねぇの?」
「まっさかー……ん!」
人の気配を感知し、辺りをさぐる。
「……パイ」
「あぁ、見られてるな……」
山の上方からガサガサと音が聞こえ、こちらへ近づいてくる。男が4人……どうも、見た目からして山賊ってところか。
「ようよう、こんな山奥にわざわざご苦労さまで〜」
「疲れたろ〜、おじちゃん達が良い所教えちゃうよ〜」
「代わりと言っちゃあなんだが、お金を出してもらおうか〜」
「へっ! 俺らを襲うってのが運の尽きだったな!」
パイは威嚇しながらサーベルを抜く。だとしても何か変だ。言い方はヤバイ奴らで間違いないけど、敵意が感じられない……?
「おいおい! 襲うつもりはこれぽっちもない!」
「良い場所に連れてくから金払ってくれって言ってるだけだよ!」
「十分怪しいわ!? そう言って騙す気なんだろ!!」
「待ってパイ! ちょっとこの人達変だよ?」
「いや、変だから山賊なんじゃ……」
「確かに俺らは山賊だが、他の奴らとは違う。食事と寝床を提供する代わりに、金品をもらう山賊ってわけよ!」
「「それだだの宿屋じゃん!?」」
「何言ってんだ? 金は取るんだから山賊ではあるだろう」
「全ての経営者を戝扱いする気か」
「じゃあさっき言ってた、良い場所ってのは……」
「俺らが切り盛りしてる宿泊施設だ」
「宿屋ってもう認めろよ!!」
「なんかこの嬢ちゃんめんどくさいぞ」
「くそ……お前らには言われたくねぇ……!!」
「あいにく、今日は人に会いに来たんです。まぁ食事だけだったら……」
「なら金は半分だな」
「料金システムも完璧じゃねえか」
せっかくなので食事をいただくことにした。案内のもと、そのまま山道を進んでいく。
「俺らの目的、離れていってないか?」
「いや方角もあってる。というかそろそろ近いくらいなんだけど……」
「着いたぜ!」
「ってここは……」
見たことがある畑に……家屋は前よりも大きくなっている。
「頭領ー! 獲物を連れてきましたぜー!」
「おお、いらっしゃいませ……シフじゃん!?」
頭領と呼ばれる人物……バンさんだった。
「……いや本当、何やってるんですか?」
「あ〜、これはな……山賊が絡んできて打ちのめして説教したら……こうなった」
「だとしても、どうしてそうなったんだよ……え、何? この人が元魔王なん?」
「そうそう」
「そこの子には喋ってんのね。あ! 部下には内緒しておくれ。絶対面倒だから」
紫色の肌だったのに、前回みたいに肌色のメイクをしているわけだ。
「で、何しに来たんだ? 遠路遥々来て、彼女を紹介しに来たってわけでもあるまい」
「か、かか、彼女じゃねーし!」
「実は……」
家へ上がり、バンさんにこれまでの経緯を話した。
「うわ、マジ大変じゃん……」
「というわけなので、是非力を貸してください!」
「うーん、前回以上に厄介な話じゃのう」
「そこをなんとか!」
「お、俺からも頼むよ!」
「……こうしてほのぼの暮らしておるのも、お主のおかげだしな。協力するとしよう」
「「やった!」」
(流石にこれ断るわけにはいかんしなぁ……)
「ガキども! メシできたぜぇ!」
襖を勢いよく開け、手に食事を持った山賊さんが入ってくる。
「お、丁度いい。儂しばらく空けるわ」
「そ、そんな頭領……どうして!?」
「えーと、うーん、世界を救ってくる的な?」
「な……行きてぇ!!」
「なぬ!?」
「ずるいっすよ、頭領だけそんなの!」
「今ので信じちゃうあたり、こいつら脳弱いぞ」
「……連れてって平気?」
「船的には乗れるぜ」
「かなり危険ですけど……」
「よろしくお願いしまっす! 他にも声かけてくんで!」
食事を置いたらバタバタと出ていく山賊さん。
「忙しない奴よ……」
「でも意外ですね。バンさんが優しいとはいえ、本来は人間と共存しないとか言ってたのに」
「あぁ……儂の作った野菜、美味しいっていつも言ってくれるから突き離せなくて」
「チョロすぎないか」




