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盗賊少年と海賊の余興

 パイが立て続けにサーベルを振るう。無駄のない洗練とした動き、攻撃の終わりから次の始動が一連している。


 その剣を捌きながら、ズルズルと後退していってしまう。剣の腕は自分より上……サフィアと同じレベルかもしれない。


「レベルを上げたね……!」

「まぁな!」


鍔ぜり合う最中、言葉を交わして一旦距離を取る。一ヶ所に留まって迎え撃つのは分が悪い。


「いいぞお頭ァ!」

「シフちゃんもやんじゃあねぇか!」


パイの手下が歓声を上げる。完全に見せ物だが、熱気からか悪い気分はしない。


「そういや、いつもこれは船長の座を賭けてやってるんだが、なりたいかい?」

「……できれば他のがいいな」


「お頭の処女!」

「ブホォ!?」


「おい、お頭もまだ幼いんだ! 最初はキッスからだろうが!!」

「叩き斬んぞ貴様ら!!」


「……いやはや、面白い人達だ」

「なんでシフは和んでんだ……?」

「反応が正常だなと」


「……そういや特殊な変態に絡まられてたらしいな」

「あ、それ勇者です」

「マジでか!?」


しかし、参ったな……正攻法で勝つのは難しい。スピードで撹乱しようにもやや狭い……


「ボサッとするなよ! 『波斬(なみぎ)り』!!」


『風薙車』!


飛ぶ斬撃を回し蹴りの風圧で迎え撃つ。しかし、両断しながらも斬撃はこちらへ向かってくる。


「うおっ!?」

「貰った!!」


咄嗟に避けたせいで体勢が崩れた。それを狙って斬り込まれる。


『消歩』


「消えた!?」


アメトさんの意識外に潜む歩法……正確に見れたのはアクマが使用したものだ。


なんとか難を逃れ、パイに離れたところで姿を現す。


「奇妙な技を……!」

「危なかったからね……」


「だったらこっちもな! 『人海』!」


パイが十数人にも見えるように分身する。移動に緩急をつけての残像か……気配すらも辿れない。


「……他の人達は伏せててください!」

「お、何するつもりだ?」


少し真剣に言うと、観客の海賊達は指示通り伏せてくれる。


「お、何するつもりだ?」

「全て消して炙り出す! 『円波』!」


その場で一回転しながら剣を振り、輪状に斬撃が広がっていく。残像を薙ぎ払っていき、本物のパイは迎撃の構えをとる。


「『波斬り』!」


『円波』を斬り裂き、パイの斬撃はまたもこちらへ向かってくる。


一線に集中した鋭い斬撃なのだろう、並大抵の技では打ち消すことはできない。


ならば、全く同じ技を繰り出すまで。


「『波斬り』!」


キィン! と本物の刃と刃が衝突するような音が響きつつ、相殺することができた。


「俺と同じ技を……!」

「あぁ……でもここまでだ」


パイは予想より遥かに強い。だが、目標とするアクマはもっと手強い。どんな状況でも……『時』の力を使われても、発動前に技を出すくらいの速度が必要だ。


「へっ! 奥の手でもあんのかい?」

「……今から君のサーベルを奪う」


「何……!? わざわざ宣言するとは、良い度胸じゃねえか……!」


「……いくよ」


『絶盗』


言葉をかけた刹那、パイの後方へと居た。既にサーベルは手の中に。


「あ、あれ……見えなかったけど、本当にお頭の武器がなくなってる」


「うっそだろ……!? なんつー速さだ……!!」


驚愕しながらもこちらを振り向くパイ。微かに反応はしてたが、それまでだった。


「続けるかい?」

「……俺の負けだよ、死んでいてもおかしくないからな」


「うおぉぉ!! すげぇ!! なんだその勝ち方は!?」

「少年の大勝利! お頭の大敗北!」

「うっせ! わざわざ言葉にすんな!」


歓声を聞きながら借りていたサーベルを置く。ここに辿り着く数日間、鍛錬も欠かさなかった。ある程度は形となり、パイを相手に正面から盗み出せたのは大きな自信となった。


「あ〜、お頭、キスの献上しないと」

「だぁ!? お前らがふざけてただけだろ!」


「ん? でも負けたらなんでもするって……」

「言ってねぇよ!! 今日はもう解散!」


「お頭照れてる〜、真っ赤! 超真っ赤!」

「……上等だ、からかった奴ら全員しばく……!」

「キャーン、こっわいー!」


逃げる手下を追いかけ回すパイ。微笑ましい関係だ、懐かしくもあるふざけ合い。独りになって短いほうだが、とても長く感じていたからこそ、誰かといるのは心温まる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 騒ぎは落ち着き、ほとんどの人が寝静まる。自分は屋敷の一室を貸してもらい、寝泊りすることになった。


そろそろ寝ようかと明かりを消そうとした時、ノックが聞こえる。扉を開けると、パイがいた。


「……よっ、調子はどうだ?」

「あぁ、問題ないよ」


「そ、そうか……」

「何か用?」


「あ〜……用ってほど大したもんじゃないんだが……ホラ、仲間を失うって辛いだろ……俺も仲間がいて同じ目に遭ったらって思うと、さ……」


「……ありがとう、気にかけてくれたんだね」

「まぁ、な……明日からはこうやってゆっくり話せないだろう? だから……話でもしたいな、と……」


「確かにそうだね……パイの武勇伝でも聴かせてもらおうかな」

「いやいや! お前のほうが波乱万丈だろう! 勇者の仲間だったんだ、詳しく聞かせろよ!」


「夜這いを仕掛けてくる勇者に、よくサボる回復術師、人質ごと攻撃する戦士に、世界征服を企んだ魔法使い、これで話といっても愚痴がほとんどだけどいいの?」


「癖が強すぎる、濃いメンツだなぁおい。逆に興味出てきたわ」

「全員実力だけはあるんだけどね。揉め事が絶えなかったよ……」


「だろうな。なんだよ〜俺もそこにいたら、ちったぁ手ェ貸せたのによぉ」

「あー、本当にそうだったら助かったなぁ」


「…………じゃあよ、今のゴタゴタが解決したら……俺達とーー」

「そうだ!!」


「な、なんだ!?」

「大事な話をするの忘れてた!」

「お、おう!?」


「実はパイ……」

「は、はい……」


「一緒に仲間を救ってほしいんだ!」

「ん……?」


「ホラ、魔族領域まで運んでもらうのは頼んでたけど……パイの実力を知って是非ともアクマ打倒に協力してほしいと思って」


「お、おう、お安い御用だぜ……!」

「ホントかい! 心強いよ!」

「……そんなことかよ」

「割と大変なことだよ!?」



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