盗賊少年と旅立ち
なんとかイヤドをなだめ、調子を取り戻すことに成功した。再び集まって、今後の作戦を練ろうとしていた。
「……イヤドごめん、さっきは言い過ぎた……おかげでスカッとした、ありがとう」
「感謝はいらないわよ!?」
犬猿の仲であるこの2人が、エメルは一応謝罪し、イヤドはある程度許容してくれてる。口論ではなく会話ができるなら大きな進歩だ。
「それじゃあ今後の作戦なんだけど……再び挑んで正直勝てる見込みはないと思う。戦力を集めて、一気に叩こう」
「……さんせー」
「……構わないけれど、アタシ達と同等程度じゃないと意味ないわ。心当たりなんてないわよ?」
「それに関しては、一応2人。1人はリオストロ城下町の女王、マリアさん。リック相談役や王様とも親交があって、事情を話せば協力してくれるはず……!」
「あぁ、陰湿おばさんね」
「ぬわ……絶対本人の前では言わないでくださいよ」
「はいはい。で、もう1人は誰なのよ?」
「元魔王レイキングスさんこと、バンさんです」
「ふーん……はぁ!? な、どういうこと!? アンタ達倒したんじゃないの!?」
「正確に言えば僕だけが闘い、友達になったんです」
「不良同士の喧嘩か!!」
「まぁこの人はまず間違いなく手を貸してくれるでしょう」
「信頼ハンパなっ」
「場所的にはマリアさんの方が近いです。ただ、僕らの宝石化が狙いなら、追跡してくるでしょう。魔力での探知が怖いから、地道に行くしかないですが」
「ま、妥当ね」
「そうと決まれば、早速出発しましょう! オニスが足止めしてくれたとはいえ、アレ相手にそう時間は稼げそうにない」
「……じゃあおんぶ」
「あいわかった」
「ちょっと……また自分で歩かないわけ?」
エメルのおんぶに意義申し立てをするイヤド。もうこれが当たり前と思っていた自分がいる。
「……私の足じゃ遅すぎる。よって……これが最適解」
「……楽をしたいとにしか聞こえないんだけど」
「まぁまぁ、僕は別にいいし、これで少しでも早く着けるなら」
「ふーん……ならアタシも担いでいけば?」
「えぇ!? イヤドまで何を……」
「単にアンタの健脚を認めてのことだわ。アタシは魔法を使えないんだし、その方がずっと早いでしょ?」
「そ、そうですけど……流石に2人担ぐには僕の身体じゃあ小さすぎて、引きずりかねないんじゃ……」
「……私はおんぶ、イヤドはお姫様抱っこでいいんじゃない?」
「えっ!?」
「……うん、まぁ、それくらいしかないわね……」
「あ〜いや〜、それだとエメルを手で支えられなく……いっそのこと、僕がイヤドをおんぶして、イヤドがエメルをおんぶすれば……!」
「カエルでも1体で限界よ!? 却下よ却下!」
「……私は縄でくくりつければ解決」
「決まったわね。ま、アタシをお姫様抱っこできるなんて、光栄に思いなさい!」
単純に恥ずかしいが……効率を考えたらいいほうだろう。イヤドの別荘から出て、準備する。
「よいしょっと。エメル痛くない?」
落ちないようガッチリと絞める。
「……大丈夫、私は気にしないで突っ走って」
「次は私の番ね。ほら、早くしなさい」
「……わかりました、よっと……」
意外と軽い……豊満な胸に相反して華奢で柔らかい……
「……何固まってんのよ」
「あ、いや、その、軽いなぁって」
「……ふん、お子様の感想ならこんなもんね」
ほんのりと頬を赤らめ、そっぽを向くイヤド。恥ずかしいのはお互い様か……
「……じゃあ行きますよ」
『雷歩』!
「ひゃあぁぁぁぁぁぁ!? ストップ!! ストーーップ!?」
10歩も歩かぬうちにイヤドが叫び出し、急遽ストップする。
「ちょっと飛ばし過ぎよ!? 首がもげるかと思ったわ!!」
「申しわけない、つい……」
「……首もげても私がいる」
「経験したくないわ!! というかよくアンタは平気ね……」
「……慣れ」
「どういう環境でそうなるのよ……」
「……私は叫ばないけど、イヤドは叫ぶの?」
「うっざ!?」
「……ひゃああああ」
「ぶっ飛ばすわよ!?」
「つ、次は抑えて走るから、エメルもその辺で……」
「全く、頼むわよ……」
今度は技を使わず、ゆっくりめに走る。ただ、無我夢中に走るのではなく、イヤドに注意していると、どうしても意識してしまう。
サラサラな髪が触れ、何よりすごい物が揺れている。それも、密着してるためどうしても当たってしまう……胸が。
「ねぇシフ」
気にしないようにしてたら、イヤドから呼びかけられる。
「……アンタはなんでアタシに付かなかったの? サフィアと戦った時も、ウィッチでも」
「それは……モロ犯罪的だったし」
「アンタ盗賊じゃん」
「確かに」
「実力あんのに惨めにコキ使われて、何も思わないわけ?」
「いや、結構思いますよ。なんで自分ばっかりって。魔王倒した時は、もう何もしたくなかったから」
「……でもやってるじゃない」
「それは緊急事態ですからね。やっぱり平和が1番かな」
「……そう」
エメルにも似たようなことを聞かれてたな。ただ、あえて付け加えるなら……
「それに、なんやかんや1人は寂しかったからかな」
「……惰弱ね」
「イヤドは世界牛耳った後、何をするつもりだったんですか?」
「……そん時はまぁ、魔法の実験したり……生意気な奴らを懲らしめたり……」
「そういう人達を根絶やしにすると」
「言い方が怖いわよ!? アタシはそこまで野蛮じゃない!」
……どうだか。
「……どーだか」
心の声をエメルが代弁してくれる。
「うっさいわね!」
「……でもこれであのアクマを倒せたら、世界を牛耳った言ってもいいのでは? なんせ、『時』の力を持つ世界の脅威ですよ」
「……アンタ、アタシに世界征服をやめろって言いたいの?」
「もし自分達の平穏が脅かされるなら、また戦うしかないでしょうし。元仲間ですもん、そうならないほうが断然いいよ」
「……あっそ。考えとくわ」
会話を終え、ひたすら走る。ようやくリオストロ城下町に辿り着いた。




