盗賊少年と撤退後
イヤドの転移魔法により、見知らぬ場所へと来ていた。家の中であるが、家具や生活用品はあるものの、長らく使われてないようだ。
「ここはアタシの秘密き……別荘よ、幼少期のね。ここなら魔力探知にも引っかからないよう細工してるわ。さーて、確かここに魔力回復薬が……げっ!? 全部腐ってる……」
幼少期か……しばらくは冒険に出ていたうえに、つい最近まで監禁されていたから無理もない。
「はぁ、そいつ起こしたほうが手っ取り早いか」
「でもイヤド、どうしても起きないんです……おそらく、かけられた魔法で悪夢を見せられている」
「なら、苦痛とは違う物理的な刺激を与えりゃいいのよ。要は快感ね」
「な、ななな、いくら仲間を助けるからといって、そんな破廉恥なことできませんって!?」
「は、早とちりすんじゃないわよ!? くすぐったりすりゃあいいのよ」
「あっ、なるほど…………じゃあ失礼して」
「うんっ……くぅ……あぁ!」
……悶絶するエメルを見て、十分如何わしい行為に思えてきた。脇腹に触れてる時点でなんだか……
「あぁ、くぅ……何やってるの、シフ……?」
「あっ、よかった目覚めてくれて……」
「……発情?」
「違う違う! 悪夢を見せられていて、助けようと……」
「……そう」
揉めなくてよかったが、どうにもまだ気分は悪そうだ。
「やっと目覚めたわね。さっさとアタシを回復させてちょうだい」
「……とりあえずヤダ」
「なっんでよ!! アンタが眠ってる間に、大変なことがあったんだから!」
「……何があったの?」
「サフィアの『時』の力が奪われた。他に何人もの能力すらも……」
「そう…………えっ、それかなりまずいんじゃ……?」
「えっ、危機として認識してくれるの?」
「……シフは私を知能がない生物でもと思ってた?」
「ごめん、正直」
「……素直でもよろしくない」
「そういうわけだから、さっさとアタシを回復させなさいな。ただでさえオニスともやりあって、怪我してるんだから」
「……仕方ない」
エメルが指パッチンすると、イヤドの火傷や擦り傷が治っていく。
「始めからそうやって……ってぇ! 魔力が全然戻ってないじゃないの!? これじゃ凡人以下だわ!!」
「つい」
「ふざけんじゃないわよ!? 話聞いてたの!?」
「聞いたうえでそうした。イヤドは魔力が膨大だから、魔力探知されやすい」
「ハンッ、それだったらここは結界が張ってるから心配無用よ!」
「でも、いつまでもここにいるわけにはいかない」
「うっ……!」
「自然回復分も加味して……そう調整した」
「……ふん、エメルのくせに生意気よ……」
「元を辿ればあなたのせい」
「なっ!?」
「故郷を滅茶苦茶にして、よくわからない集団を利用してサフィアを追い詰め、逆に利用され……取り返しのつかない事態を招いた」
「う、うぅ、うるさい!!」
イヤドが魔弾を準備する。流石にまずい、イヤドとエメルの間に割って入る。
「落ち着いて2人とも! 今は争ってる場合じゃない!」
「大丈夫……イヤドはそのなけなしの魔力を使えば、もう何もできない……私は当たっても問題ない……そう、これは無駄。わかっていて、やるような人はとんだ大マヌケ」
「うぐぐくぅ……! お、覚えてなさい!!」
イヤドは顔を真っ赤にして部屋を出ていってしまった。それよりも、ここまで口が回るエメルは見たことがない……
「……すっきり」
「……なんかエメル大丈夫? やけに正常だよ?」
「そんな心配しないで……トラウマを夢見てて、ちょっとムカついてた」
「そっか……どんなの?」
「……いっぱい働いてたこと」
「……エメルにとっては死と同列だろうしね」
「…………私だって最初から堕落してわけじゃない。この回復能力で人々のために発奮していた」
「ほ、本当に?」
「ホント……感謝が生きがいだった時もあったけど、廃れた……他人の為に奉仕しても、どんなに感謝されても、疲れたとしか感じなくなったから」
「それは……大変だったね」
「だから、ダラけた日々が最高だった」
「あぁ、うん」
「今でも働きたくない。でも、そうこう言ってると時じゃなさそう……」
「エメル……!」
さっきの言動といい、エメルがまともになってくれるのは嬉しい。幸先不安のメンバーだっただけに……
「……そろそろイヤドの様子を見てくるよ。あの調子じゃあ心配だ。1人でも仲間はいてほしい」
「……言い過ぎたかな」
「自業自得なところもあるから……まぁどうにかしてくるよ」
つい先刻まで敵だったこともある。でも、イヤドが執拗に狙っていたのはサフィアの『時』の力が邪魔だったからだ。奪われたあげく、自分より上の存在が気に食わない人だから、目的は一緒だ。
「……シフはいつか、私と同じ境地に来そう……どうしてそこまで、動こうとするの?」
「うーん、正確に言えば摩耗してた時はあったんだけど……結局、平和な時が忘れられないからかな」
「……」
「また落ち着いたら、食っちゃ寝しよう」
そう言い残し、イヤドが向かったであらう地下の階段へと降りる。
問題は宝石にされた人達……きっと逆のこともできる……はず。そのためにはアクマという人を、倒して聞き出せねばならない。
……残ったオニスも宝石にされ、あの怪力が奪われたとしたら……想像もしたくないな……
いかん、1人になった途端、嫌なイメージを想像してしまう。あのイヤド相手だ、しっかり気を持たねば……
「イヤドー、開けますよー」
気持ちを切り替え、ドアを開ける。すると、瞳に涙を溜めてすすり泣くイヤドがいた。
「ちょ!? 開けながら言う奴があるか! とっと出ていきなさい!!」
「あっ、と、ごめんなさい! で、でも……」
「な、何よ……?」
「その、放っておけなくて……貴女が頼りだから」
「確かにそうだけど……」
「サフィアを追い詰めた貴女なら、『時』の力でも対抗できるかと」
「そ、それはその……」
「やっぱりあるんですね! 流石はイヤドなだけありまーー」
「民間人を巻き込んだの!! そうすればサフィアは防衛に力を使うと思って、消耗させたの! だからアイツに効かないわよ!!」
「う、うわぁ……」
「えぇ、そうよ! 卑怯な手を使ったわよ! それでも横取りされたけどね!」
「……良いことありますよきっと」
「雑になってんじゃないわよ!!」




