盗賊少年と無残な事実
恐ろしい事実に、理解が追いつかなかった。サフィアに使った宝石は、元人間で……リック相談役も宝石にしたと言うのか……!?
「そ、そんなことが……!」
「あらら、お子様にはちょい刺激が強かったんやろか」
「……イキがってんじゃないわよ」
「おんやぁ?」
「借り物の力……たかがリックの魔法を使えるってだけで、アタシに立ちはだかろうなんて命知らずね」
「歴代の魔王討伐者の1人になんて言い草かいな。それに待ってや、争う気はあらへんねん」
「アンタもサフィアが狙いでしょ? 宝石にして『時』の力を我が物にする魂胆なのは知ってんのよ。アタシの物になるならともかく、それ以外は認めないわ!」
「傲慢やなぁ。せっかくこの世で最も強い人達に敬意を称して、痛ぶらへんで宝石に変えよう言うのに」
「どっちが傲慢よ! 返り討ちにしてやるわ! 『プロミネンスレーザー』!!」
「『フェニックス』」
「そ、そんな……あれはルビの……!?」
灼熱の光線に押される不死鳥だが、次第にイヤドの魔法を吸収して大きくなる。
「くっ、そぉ……!!」
「無駄やなぁ。見ての通り、相手の魔法が強ければ強いほど成長するんやで」
『風薙車』
魔法の不死鳥を掻き消す。あわよくば本体を狙ったが、余裕で避けられてしまう。
「……それはルビの魔法だ……彼女も宝石にしたっていうのか?」
「確か赤髪の王女様やっけ? えーと、あったこれやこれや」
アクマが差し出したのは、紅蓮輝く紅石。受け入れたくない事実に沸々と怒りが込み上げる。
既に身体は行動へ移していた。『雷歩』で後ろを取り、すかさず首を目掛けて斬ろうとする。
「『消歩』」
「っ!?」
寸前のところで姿が消える。アメトさんの意識外と潜む歩法……彼女までもが……
一旦距離を取り、最善策を考える。1人で相手取るののは無理だ。オニスとイヤドも全面的に協力しなければならない。まずは消耗した2人全快させよう。
エメルの元へ行き、すかさず抱える。きっと邪魔してくるはずだ、態勢を立て直そう。
「エメル……!?」
明らかに様子がおかしかった。意識はなく、冷や汗が流れて苦悶な表情をしている。
「エメル! エメル!! そんな馬鹿な、君が治せないなんて……一体何を!?」
「夢だよ」
「っ! そうか、マイトさんの魔法か……」
「せや。『悪夢誘眠』睡眠という異常と認識しなく抗いたないもの、ほんで夢ってのは見てる最中は自覚ってなかなかできひんやろ。彼女にはウィッチで一杯食わされたらしいしね」
「くっ……!」
「ッラァァァァ!!」
雄叫びとともに燃え盛る氷塊から脱出するオニス。手負いでも、彼がいるのは心強い……
「2人とも! 協力して奴を倒しましょう! 昔みたいに!」
「…………仕方ないわね」
「おうよぉ!」
イヤドは渋々、オニスは前向きな返事で『災撃』の構えをとる。ってちょっと待った!?
「ちょオニス!? だからといっていきなり大技をかまそうとしないでくださいよ!?」
「合わせろ!」
「無茶なっ!?」
「慢心はしいひん。全員倒せるさかい、ここにおるんや。『タイムストップ』」
「な、何……!?」
オニスの斧がピクリとも動かない。手を離しても、空中で静止している。
「まさかそんな……サフィアまで!?」
「君ら2人が仲良う喧嘩しとる最中に、コソッとなぁ。特にそこの魔法使いちゃんには感謝すんで、満身創痍にまで追い込んでくれてなぁ」
「っ……」
イヤドがそこまで好戦してたとは……いやそれより、『時』の力が奪われてたのが大問題だ。もはやこの人は、無敵に近い……!
「テメェらは失せろ」
絶望する状況のなか、重々しく口を開いたのはオニスだ。
「そんな、3人ならともかく、1人でなんて無茶だ!!」
「いや、変わんねえ。俺が言うんだ、間違いねえ」
「うっ……」
拙い望みも、所詮望みに過ぎなかった。ならせめて、逃げてでも勝てる可能性を見出すしかない……
「イヤド、転移魔法はまだ使えますか?」
「……一回程度ならね」
駄々を捏ねられる状況ではない、イヤドもわかったうえでおとなしい。オニスが囮を買って出てくれたんだ、この厚意は決して無駄にしてはいけない……
「へぇ、意外と優しいねんな」
「へっ! 横槍が入るくらいだったら俺1人で楽しまねぇとなぁ!」
「はて、武器も無しに楽しめる戦いまでいけるかいな」
オニスは拳を固め、アクマに一瞬で近づく。
「タイムスキップ、『因果先行斬』」
斬ったという事実を残し、過程を省略してしまう回避不可の技。胴体を斬られ、血が吹き出ながらもオニスは追随をやめない。
「なんと!?」
「『砲拳』!!」
周囲が爆散するほどの正拳。アクマは魔法で障壁を展開するも破られ、後ずさる。
「……君、怪物かいな? 今ので倒れへんとは」
「ハッハァ! まだまだこっからだぜぇ!」




