盗賊少年の危機
ルビ姫様……いや、ルビの護衛が終わった夜、酒場にてアメトさんの報告を待つ。
そして、天井からアメトさんが降りてくる。
「お待たせしました、そしてありがとうございます。無事、大臣は捕らえることができました」
「それならよかったです。でもアメトさん、普通に入店しないと店員が混乱しますよ……」
「私はいつもこうやって入店してるので、見慣れてるはずです」
「隠密する気あるんですか!?」
「それはさておき、どうですか? 姫様との進展は」
「別に……友達にはなりましたよ」
「ほう、それでそれで?」
マスクで顔は見えないが、絶対ニヤニヤしている。
「楽しんでるみたいなので、これ以上は言いません」
「ちぇー。あ、今回の依頼の報酬です」
渡されたのは、金貨が入った袋に、大きな包みと一枚のカードだ。
「えーと、金貨以外なんですか……?」
「高級カフェオレセットと、王国図書館プレミアカードです。このカードは、冊数、期間ともに無制限で、発売したての本をも借りられます」
「おぉ! これはありがたいです!!」
「この2つは姫様からの提案です」
「そっかルビ姫、いやルビが」
「おっおっ? 呼び捨て? もう俺の女扱いですか?」
「しまった……というかそんな風に思ってませんから!」
「ふーん……あ、新しい依頼もお持ちしましたよ」
さらりと、とんでもないことを言われた気がする。
「ちょっと!? 何当たり前のように言ってるんですか!? やりませんよ!!」
「まぁ、お話だけでも聞いてくださいよ。それ次第で、やるかやらないかは決めいただいて構いませんし、脅しもしません」
「一体何ですか……?」
僕がやらなくていいような仕事をわざわざ頼む……?
「これからも、姫様の良き友人として、お会い続けてほしいのです」
「なっ、それは……」
依頼というよりこれはお願いだ。それに、僕もやっとまともな友達ができたのだ。答えは決まってる。
「お引き受けしますか、シフ君?」
「……うん」
「可愛い」
「か、からかわないでくださいっ! 僕はもう行きますよ!」
席を立ち、数歩歩いた後に、アメトさんの声が後ろから衝撃の一言で立ち止まる。
「あ、明日の朝で勇者サフィア様の懲役が終了しますので、お気をつけて」
な、なんだって……
身体中に戦慄が走り、ガタガタと震え出す。そして血の気が一気に冷め、過呼吸になって立ってられなくなり、その場で倒れそうになる。
「大丈夫ですかシフ君!?」
咄嗟にアメトさんが支えてくれるが、当分立ち直れそうにない。
「だ、大丈夫ですかお客様!?」
近くにいた店員が駆けつけてくる。
「ま、まさかアルコール中毒ですか!? ひょっとしてあなた、こんな未成年の子にお酒を……」
「いえ、アルコールではないです。まぁ毒は吐いたんですが、ちょっと効きすぎてしまって」
その後、アメトさんに椅子へと座らせてもらい、何とか呼吸は整った。
「ひ、ひどいですよ……別れ際にとんでもないこと言ってくれましたね」
「ごめんなさい、ちょっと反省してます」
「な、何で……何故あんな人を世に放つんですか!?」
「まぁ罪状がセクハラだったし、未遂ですから。それで終身刑というのはどうかと」
「せっかくこの城下町で快適に暮らせると思ったのに……かくなる上は他国へ逃げ……」
「さっき姫様に会い続けるって、言ったばかりじゃないですか」
「あれはいくらなんでもアメトさんが言った順番が、あまりにも悪いです!! ハァ、今後どうしたら……」
「まぁ勇者なので、今まで溜まっていた仕事もありますし、そう簡単に付け狙われないかと」
「その考えは甘いです。あの人なら、数日で片付ける……少なくとも夜は絶対襲ってくる」
「でもいいじゃないですか、昔は好きだったんでしょう。お城に2人でいた時、褒められる度に一喜一憂してたし」
「そ、それは昔の話です!! 今では恐怖の対象ですから……冒険中、どんだけ苦労したか」
「でもでも、とてもお綺麗で、スタイルいいし、そんな人に襲われるなら……」
「襲うときは顔が犯罪者になります。それに、捕まったら二度と人前で歩けなくなる、そんなオーラを出すんですよ」
そう、僕は本能で逃げてる。死にたくない、そう思うのと一緒だ。
「とにかくヤバイというのはわかりました。ですが、勇者をどうにかするのは、私程度の権限では何も出来ません」
「そ、そんなぁ!? 助けてくださいよアメトさん!」
「そう言われましても……あ、なら私の任務に同行するということは?」
「……それってアメトさんが楽したいだけでしょう」
「勿論それもあります。ですが、理由もちゃんとあります。私の明日の任務は夜からです。サフィア様は開放されても、せっせとこき使われるでしょう。
つまり、日中は襲われる可能性は低い。でも夜なら仕事もなく、必ず襲う。それなら、明日の夜だけでも行方をくらまし、時間を稼いで対応策を考えましょう」
「……悪くないですが、下手したら任務中にも来ますよ?」
「そこは私が露払いいたします。今日のシフ君の功績に比べたら安いもんですから」
「確かにそれなら、明日は生き延びられる……」
「大げさな」
「でも露払いしてくれるなら、ずっとアメトさんに付いていたんですけど……」
「可愛い。嬉しい申し出ですが、力ずくでサフィア様は止められません。あくまではぐらかすのが限界です。何度も同じ手は使えないでしょう」
「……わかりました。じゃあ明日の夜はよろしくお願いします」
話し合った後、メアトさんと別れ、宿屋に戻った。そして明日……いや今後に向けての対策と準備を進める。