盗賊少年と道具の探究者
スヤスヤと眠るエメルを担ぎ、再びカンダル王国へと戻った。そして、その光景を見て絶句する。
暗雲がたち込み、街並みが燃え盛り、停止した隕石やら竜巻が点在している。まるでこの世の終わりを現しているようだ。
「戻ってきて正解だ……エメル、ここからは起きて!」
「むにゃ……何事……? 何この地獄?」
「カンダル王国だよ……きっとイヤドの仕業だ。巻き込まれた人やサフィアを探さないと!」
「……えぇ、イヤドにも会いに行くの?」
「アレ言わない! この元凶を収めないと!」
「ふぁい…………周囲に生命反応はなさげ……中央の方に何かいそう」
「サフィア達か……? 急いで向かおう!」
エメルが指示した方にダッシュで駆けつける。そこで、とんでもない人物と再会する。
「うっっわ!? なんでオニスがいるんですか!?」
居たのはボロボロになったオニスとイヤド。イヤドは立つのがやっと、というところだがオニスは見た目に反して元気そうだ……
「お、シフじゃねぇか! マジで同窓会かよ、丁度良い! 混ざれ混ざれ!」
「ざっけんじゃないわよ!! アンタとの決着はまだついてないじゃない」
陽気なオニスに噛み付くイヤド。どうやら2人は戦っていたようだが……オニスは王様が解放したのか……? やたら身体に魔刻印があるし……
「瀕死に魔力尽きそうな今のお前じゃ物足りねぇ。このままバトルロイヤルといこうぜ!!」
「「お断りです(よ)!!」」
「ちっ、連れねぇな……つーかサフィアは?」
「えっ知りませんよ、どこにやったんですかイヤド?」
「あー!! そうよ、アタシの狙いはサフィアよ! こんなことしてる場合じゃないわ!」
「忘れてたんかい!!」
「……うっさいわね、こいつがししゃり出てきてそれどころじゃなかったのよ」
「よし、んじゃあエメルに回復してもらって全員で殴り合おう」
「アンタは黙ってなさい! でもそうね……エメル、アタシを治しなさい。肩が痛くってしょうがないわ」
「……マジ無理」
「っはぁ!? 何それ、アンタならこの程度のお茶の子さいさいでしょ!」
「……嫌、したくない」
「はぁ!? 何わがまま言ってんのよ! アタシだって気に食わないけど命令してんのよ!」
わがままのカウンターが強い……
「ま、まぁまぁ、落ち着いて……それにイヤド、もうサフィアを狙うのは諦めてください。まだ後戻りーー」
「するわけないじゃない! アンタこそ潔くサフィアを差し出しなさい!」
「譲渡してたのこっちなのに!?」
「ま、虫の息だったサフィアを完全回復させれば諦めんじゃね?」
「あ、あのサフィアがそこまで……」
「ふんっ、後もうちょっとだったのに……」
「全員元気になったらまた殺し合えばいいじゃねぇか」
「しつこいですよ」
「これはチャラ王のおっさんから了承を得てんだぜ、助太刀することを条件として」
「王様が……!? わ、わかりましたよ。イヤドを抑えて全て終わったら手合わせってことで」
「やったぜ、ちなみにさっきのは嘘な」
「汚っ!?」
「男に二言はねぇだろぉ?」
「嘘をつく男が細かいこと気にすんな!!」
懐かしくすら感じる話の通じなさ。昔はよく仲間として組めてたもんだ。
「……ねぇエメル、他に生命反応はないの?」
「うーんと……? そこにいるのは誰……?」
エメルが振り向く先に1人の女性がいた。水色の長髪に狐目をした、独特な雰囲気を醸し出している。
「あれ、ようわかったなぁ。気配も魔力も断ち切ってるちゅうのに。そうか、君が回復術師か」
「「「!?」」」
すぐ近くにいたのに、エメルが言うまで誰1人として気付けなかった……アメトさん並の隠密だぞ……!?
「そやけど、おもろいなぁ君達。少し勿体あらへん気ぃてしまう」
「なんだぁテメェ……」
「な、何者なんですか、貴女は……」
オニスも呪いの斧を持ち、警戒している。この人には、底が知れない何かがある……
「せっかくやし、自己紹介しときまひょか。なんせ、私が作った呪いの武器を扱うてくれはるんやさかい」
「何!?」
「……」
なんだって……まさかこの人が、マイトさんが言っていた呪いの武器や、あの宝石を作ったっていうのか……!?
「“白バラ“の依頼主……!」
「おや、知っとったのかい? やったら名だけでも。うちの名はアクマ。不吉な名前やけど、れっきとした人間やでぇ」
手に持つ呪いの短剣とまじまじと見つめる。これだけでなく、サフィアの『時』の力さえ封じることができる代物を作った人物……!
「……そうかい、テメェが呪いの斧を拵えてくれたとはなぁ。お礼として一発ーー」
オニスは言葉の途中で斧を振りかぶって突進する。
「ぶちかましてやるぜぇ!!」
「『氷炎魔光』」
眩しい光が放ったと思ったら、オニスが氷漬けになって身動きが取れなくなっている。そのうえ、冷気を発する炎のようなものも纏っている。
「怖いなぁ。ここまで血の気ぃ盛んな男とはねぇ」
「オ、オニス! 今のは貴方が悪いですけど大丈夫ですか!?」
「……今のって、リックと同じ魔法じゃない……!」
「え……?」
「アンタ何者……いえ、何をしてきたの?」
「えぇ質問やでぇ。うちは最高な道具を作るための探究者。その一環として、君達が持ってる武器も作ったんや。まぁ、効果を底上げするためにちょいしたデメリットを施したんやけど、そしたら呪いの武器なんて言われてもうたけど」
「……」
「そやけど所詮、便利の域を出えへん。そこで、画期的な方法を見つけたんや。人間を宝石へと化し、その者の潜在能力を自由に扱えるっちゅうことに」




