戦士と魔法使い
カンダル王宮地下牢にて、オニスは閉じ込められていた。手錠だけでなく指先から足先まで固定された、超厳重な状態にて。そこへ、カンダル国王が謁見に来ていた。
「いや〜、元気? ちょっと尋ねたいことがあんだけど〜」
「……」
「イヤドがね、来ちゃってんのよ。問答無用で暴れちゃってさぁ……」
「……」
「ぶっちゃけ、君とイヤドってどっちが強い?」
カンダル国王はいつものようにチャラく話しかける。終始黙っていたオニスは、この質問から笑みを浮かべる。
「……クク、ハーハッハッハ! 正直に言ったらどうだおっさん! 手を貸せ、戦えってなぁ! そのために魔刻印を108回もかけて、俺の身体を近代アートみてぇにしたんだろぉ?」
「……じゃあ、そゆことよ。つーか、君があの“白バラ“にイヤドのこと喋っちゃったからこんなことになったんだし」
「ハッハァ! これも俺のプランよ! どのみち奴らも俺が楽しむ予定だったんだからなぁ!」
「抜け目ねぇー。今しがた、民の避難を行なっておる……どうせ暴れんじゃろ? イヤドのことは好きにしていいから、好きにやっておいで」
「よ〜くわかってんじゃあねぇか! さっすがは俺の扱いに関しても完璧な王様だぜぇ!」
「じゃあ裏切んなし」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
突如として現れ、邪魔をしてきたオニスに、驚きと怒りを覚えてイヤドは発狂する。
「なんっっでアンタが出てくんのよ!?」
「こいつらに1回負けちまってよぉ、呪いによって使役されてんだわ。やぶさかだがなぁ、お前と戦かわにゃあならんわけよ。しゃーないしゃーない」
「何白々しく言ってんのよ!? アンタに仲間意識なんてないでしょ! いいからどきなさい!!」
「あぁ、いいねぇ……お前とは1度、ヤッてみたかったんだ……魔法と物理! どちらか勝者か白黒つけようじゃねぇか!!」
「人の話を聞きなさいよ!?」
果敢に攻め込むオニスに、転移魔法で上空へと逃れる。
「『プロミネンスレーザー』!」
「『龍砲』!!」
爆撃の如き突きと、灼熱の光線がぶつかり合う。衝撃の余波に目も開けられず、たちまちイヤドは腕で顔を遮る。
「あーもうっなんなのよ!! いいわ、こうなったら徹底的にーー」
イヤドは怒りを彷彿させながら、力づくで黙らせると決心した瞬間、オニスの体勢を見て一瞬硬直する。
呪いの斧を高々と挙げ、上半身を限界まで捻っている。仲間だった者として、何度か見てきた技の前兆。山をも薙ぎ払いかねない災害級の一振りが来ると。
「あんのバカッ!! 『ダイヤモンドプロテクト』!」
イヤドが会得している魔法で最大最硬度の防御。空の景色は歪み、遥か上空の雲が払われるなか、見事無傷で耐え切る。
「……上等よ、サフィア諸共蹴散らしてやるわ……! 」
瞳孔が開き、殺意を持って魔法の準備をする。快晴となったら空が暗雲に包まれ、雷轟が鳴り響く。
「『サンダーレイン』」
雷が雨のように降り注ぎ、街並みが悉く破壊される。避けることが不可能と判断したオニスは、自身近くの雷を相殺していく。感電し、身を焦がされても斧を振るい続ける。
火災が発生し、街中が業火と煙に包まれていく。
「アッハッハ! もう無駄よ、この魔法は破れないわ! このまま空から狙い撃ってあげる!!」
イヤドは防御魔法を展開したまま、高らかに宣言する。
それを聞いたオニスは視界に入らないよう、崩れた壁を背にもたれかかる。
「んじゃま、小休止とするか」
そのまま民家からくすねた酒をグイッと仰いだ。
数分間、お互いは動かなかった。オニスは休憩、イヤドは魔法を維持して出方を伺うため、気を抜かなかった。
「……なんなのよ、あんだけ喚いてたのに縮こまって隠れるなんて。こっちは連戦で魔力が段々……はっ!?」
魔力の消耗を謀り、既に術中に嵌っていたとイヤドは考えつく。
「くっ、小癪な真似を……! だったらこっちから探知してーー」
パリン!!
「ひゃ!? な、何よ!」
イヤドの後ろに、オニスが酒瓶を投げつけていた。
「濡れてる……? 一体なんだって言うのよ……」
酒瓶に気を取られた隙に、オニスは目の前まで迫っていた。
「よぅ、なかなかかてぇな防御魔法」
「うわ!?」
オニスの狙いは、魔力消費はおまけ、真の狙いは『災撃』を直接当てるためであった。
「直でぶちかませてもらうぜ、『災撃直害』!!」
凄まじい衝撃と轟音が響き渡り、防御魔法にヒビが入る。
「うおおおおぉぉぉぉらぁ!!!!」
魔法は砕け散り、斧を振りきる。
「こっんの……!!」
剥き出しとなったイヤドは、再度張り直すのは諦めて攻撃に転ずる。
「『プロミネンスレーザー』!!」
「『龍砲』!」
超至近距離で放ったことで、最初の比にならないほどの余波に巻き込まれ、2人は地へと墜落していった。




